数字で表せないものを大切に

バレエ教室を主宰している方からこんな話を伺いました。

バレエ教室で自習の時間があると、生徒たちは例外なしにある練習をします。
しかも「世界中、どこでも同じ」だそうです。

それはピルエット(片足立ちして回転する動作)です。
自習時間になると、世界中どこのバレエ教室でも生徒たちはひたすらピルエットの練習をするのだそうです。
なぜなら「ピルエットは回数が数えられるから」です。

バレエという身体芸術の美しさを構成する要素はほとんど無限です。
けれども、見る者を魅了するアーティスティックな動き方や表現手法は数値的に表わすことが難しい。
でもピルエットなら回転数を数えることができ、人より多く回れると優越感に浸ることもできるのです。

「バレエの身体活動の美しさとは何か」を追求するという、答えがすぐには見つからない問いを自分に向けることを忌避して、数値的な技術向上に走ろうとする姿勢を、話をして頂いた方は「バレエの堕落です」と言っておられました。

同じことはあらゆるジャンルで起きています。

ビジネスなどは、とりわけそうではないでしょうか。

売上や利益・ROEなど数字として表現されるものが企業にとって極めて重要であることは間違いありません。

しかし、企業活動が生み出すものはそれだけではない。

実際、世の経営者の大半が「人が資産」とか「社会に貢献(したくて会社を創った)」と言っていますし、社是などにそう記している企業も多い。
それでもなおブラック企業や不祥事がなくならないのは、やはり数字に表れる部分を追いかけることに汲々として、数字で表現できない価値を追求することが疎かになっているからではないでしょうか。
古今東西、企業の不祥事は、そのほぼ全てが数字を無理に追及しようとして起きていることからも、企業人にとって数字への呪縛がいかに強いかが分かります。

15世紀のイタリアで複式簿記が発明され、19世紀のアメリカで減価償却の概念が確立される。そして20世紀の管理会計・ファイナンス理論によって将来キャッシュフロー=未来が数字で予測できるようになるなど、企業の歴史は「可能な限りあらゆる事を数字で表そうとする」ことをめざした歴史でもあり、ビジネスパーソンはその数字を追いかけることに必死になってきました。それは今も変わりません。

しかし、会社が持つ人材の価値は未だ貸借対照表には載っていませんし、売上や利益・ROEといった指標以外に、その企業が社会に果たしている役割について明示できないことは多い。

売上や利益などの数字はどうでもいいなどと言っている訳ではありませんが、バレエと同様、企業においても答えがすぐには出てこない、数字に表れない価値にもっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

ピルエットがバレエを構成する要素のごく一部であり、真の価値は総合的な美しさの表現であるのと同様、企業においても売上利益といった数字はもちろん大切だけれど、社内の人材や社会に与える影響をも含めた優れた企業活動をめざすという、答えがすぐには出てこない問いに真摯に向き合う姿勢、そういう態度こそが企業が社会に存在する本質的価値を追求していくことになるはずです。


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