観察する。
 細胞のひとつひとつまで検分する。頭髪の一本、切り揃えられた爪の放物線に至るまで完璧である。薄い皮膚の下にある眼球の中心には、僅かな悲しみを湛える勿忘草色の虹彩。その花を守るように鬱蒼と生い茂る睫毛は、檸檬果汁を溶かし込んだ様に清々しく、それでいて濃密であり食欲すらそそられるのである。
 私は彼の瞬きの度に爽やかな炭酸が弾けるのを感じ、繰り返し満たされた。そう、見れば見る程、少しの欠けたところもない。

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