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まだずっと秋の中にいる

秋晴れの日に混み合う動物園、木漏れ陽の中を走り抜けていくロードスター、ガードレールに反射する陽の光、墓地へと続く坂道を駆け上っていく小さな男の子。

雲ひとつない空、真っ青のヘリコプターが気持ちよさそうに泳いでいる。むやみに誰かを傷つけたくないし、守れない約束はしたくない。

ある本を読んだ。読んでいるとなんだか心がほっとするような不思議な温もりを感じる文章だった。季節が移り変わっていくことにどこか寂しさを感じるように、日常の景色の中にある繊細な色の変化に気付き、それを丁寧に紡ぎながら生きている人なのだろうと思った。

優しい文章の中に見え隠れする寂しさが、水面に反射してキラキラして見える光のような美しさを放っていた。こんな素敵な言葉たちを紡ぐ感性を妙に愛おしく感じた。

久しぶりに家の周りを散歩していると、知らぬ間に新たな家が一軒建っていた。あの塞がれていたコインパーキングにも何か別の建物が建設されるようだ。

同じ場所で生きていくというのはなかなか難しい。同じ自分であり続けることもまたそれに同じだ。好みの音楽やラーメンの味、趣味も友人も段々と変わっていく。変わりながら一緒に過ごせる人もいれば、離れていく人もいる。変わったから交れた人、変わったから離れられた人、どちらもいる。変わることと変わらずにいること、どちらも一長一短なのだろうが、どうせ変わっていってしまうのならば踊りながら剽軽に変化を楽しみたい。

ランドセルを背負った子供たちが一斉にバスから降りてきた。お揃いの紺色の制服を纏って、一目散に駅のエスカレーターに飛び乗っていく。元気なその子たちをよく見ると、綺麗な三つ編みの髪を崩さずにきちんとベレー帽をかぶっている子もいれば、シャツを出したままランドセルのカバーがしわくちゃになっている子もいる。

日に日に寒さが増し、家から出ることを少し億劫に感じてしまうけれど、一歩外に出てみるといろいろな種類の愛おしさがそこらじゅうに転がっている。あの人が行っていた隣町の喫茶店まで歩いてみたくなった。

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