097 心やさしいメキシコ人青年を泣かせたままでいいのか

 「この国は、ボクが大好きだった国と随分違ってきています」
 
100号を前にして、永らくnoteを休んでいました。いえ、さぼっていたというほうが正しいですね。
 
2年前の今月(げげっ、ややこしい表現すなぁ~)、つまり6月に友人が亡くなって以来、これからの人生をどう生きていくのか見失った感じで、いろいろ考えた計画や交わした約束をすっぽかしていました。
ただ、毎日を反射神経だけで生きていたというか。。。
こんなこと、家族には言えませんね。
いい歳こいて、なさけない。。。
 
でも、今度ばかりは、さすがに、一歩くらい、立ち上がらないと、いけないかな、と思っています。
(決意のほどが、多用された句点「、」に滲み出てるでしょ。句点って、息継ぎだけじゃないんだ、って改めて発見。。。そんなことはどうでもええわ~)
 
そうなんです、若いメキシコ人青年が、そんなことを言ったんです。
 
日本語がペラペラな中国生まれ日本育ちの中国人の彼女が(ややこしい表現するな~つうの)、
「マスター、彼は最近、よく泣いているんですよ」と言ったので、
「どうしてさ?」と訊いたボクへの答えが、冒頭の一言でした。
 
「どういうこと?」と訊いたボクに彼女が答えてくれました。
「はじめは、ロシアのやっていることが酷すぎるって泣いていたんです。でも、そのあと、いろんな情報を見つけてきては、何もしない日本に、、、」
「そうじゃありません。私が7年前に留学でやってきたとき、この国は平和でやさしい国でした。素晴らしい国だと思ったんです。でも、最近は勇ましいことばかり言って、まるで戦争をしたいみたい」
 
うーん。この7年の間に、外国から来た彼がそう感じるくらいこの国は変わっているんだと思うと、ちょっと愕然としますね。
 
「どうしてでしょうか?」
それに答えるには、ボクはふさわしくありませんね。目標も、生きる意味も見失った気になって呆けていたのですから。
 
「一方向に偏りがちなネットのニュースや、匿名で書き込まれるグループの発言は見ないほうがいいよ」
でも、それって肝心な問題解決にはなっていないし、そもそも彼の問いかけへの回答にもなっていない。我ながら、ちょっと情けない答えです。
 
「日本人って、一人一人がしっかり考えないっていうか、人任せになりがちなんだよね。大きな声に流されがちだし、変化を嫌うっていうか、目立つことを極端にいやがる」
 
「だからって、、、」
「うん、そうだね。だからって、、、」
 
そんな彼のことを見つめる彼女の眼は、深い慈愛に満ち溢れています。
 
「もう結婚しているの?」
えっ? 
まさか、そう訊いたからって、ボクが彼女に惚れたって話をしたいんじゃないんですよ。
 
「この間、挨拶にと彼の家に行ってきたんです。空港を出たら寒くって、ふるえちゃいました」
「ええっ? メキシコじゃなかったっけ?」
「緯度? 違いますね、えーと、高度が高いところにあるんです」
「へぇ~、今の日本より寒かった?」
 
すべりました。彼には、これはまったく受けませんでした。寒いのは気候じゃなくって、彼の心なのに、すぐ笑いを取ろうとする。関西人ではないけど、近い血がなせる業ですね。
 
その翌日、相当な高齢の方が、少し若い男性と現れて、二人でこの国のダメなところをあげつらっています。
「でも、俺はもうこの先長くないから、いいんだけどね」
それに答えて、太鼓持ちみたいな若いほうの男性が、「あははは」と笑いました。
 
前日のことがあったせいもあって、カチンときたボクは、つい訊いてしまいました。
「失礼ですが、お子さんやお孫さんは?」
「いや、おりますが」
「それじゃあ、そんな呑気なことを言っている場合じゃないでしょう」
 
取りなすように、即座に若いほうが返事をしました。
「そうは言っても、個人ができることなんて、、、マスターは何かしているんですか?」
 
だからここで店をやってるじゃん、という一言は胸にしまって
「うちで仕入れている有機野菜や形が不揃いだというだけの理由で捨てられてしまう果物を、ほしいという方に原価で買ってもらっています。この国の食料自給力といったらひどいものでしょう?」
 
「それに、変化がいけないとは思っていないけど、現在の憲法を一人一人の胸に残しておくためにも、インタビュー動画を始めようかと、、、」
ああ~、言っちゃった。。。
 
そんな思い付きを口にしてから、はや1年あまり。友人の早世を理由に、ほったらかしにしていた難題を、よりによって今、偉そうに口外するかぁ、、、
 
それから数日後、ボクより一回り以上は年齢が上かと思われる夫婦が店に上がってきてくれました。訊けば、日本酒が大好きで、表の看板に釣られて来店してくれたといいます。
 
日本酒ほかいろんな話をする中で、店名の話になりました。
「マスターは、九条ネギがお好きなだけでなく、もしかして憲法九条がお好きじゃないんですか?」
 
目ん玉を見開いているボクに、彼は言いました。
「実は、私は住んでいるところの九条の会に入っていまして」
 
ボクの中で、すべてが繋がった気がしました。
つながる‐‐といえば、ボクは2年前から、「つながる本棚」というインタビューを続けています。
お宅にお邪魔して、本棚を見せてもらいながら、読書や考えていることについてお聴きするシリーズで、本当は「お手紙こうかん、はじめました」「足はいつだって前を向いてるじゃん」に次ぐ3冊目として、九条Tokyoで去年出版する予定でいました。
 
ところが、「まちの本屋」を撮った大小田直貴監督がその話を面白いと思ったらしく、一緒に着いていきたいと言って、20分程度の動画にあげてくれています。これが、よくできたシリーズになっているんです。ボクがこの一言を聞き出せてよかった、と思っているところをしっかりつないでくれて。
それに、質問への答えを絞り出すまでの沈黙や、遠くを見つめる表情など、動画にしか表現できない瞬間瞬間をつないでくれています。
 
わざわざ文字に書き起こす必要なんてないじゃん、と思ってしまったボクは、この動画を集めて一本のドキュメンタリー映画にして終わろうと、ますます安易な方向に逃げてしまっていました。
もう自分が主体的なことは何もしたくない、とでもいうように。
 
実は、ボクは改憲論者です。
せめて、歴的かなづかいは変えないと、若い人はますます憲法を読まなくなってしまうんじゃないかと危惧しています。
 
できれば、第一章も全部書き換えたい。
人はみな自由で平等な基本的人権を保障されているのに、どうして象徴に祭り上げられた皇族だけが自由に発言したり恋愛や結婚できないのか。男女平等が当たり前の時代に、男子一系だなんて。。。
 
閑話休題。
で、ボクはこの夫婦に、「あなたが残したい憲法の条文を聞かせてください」動画の第一号として取材に行かせてくださいとお願いしました。
 
憲法は変わってもいいと思うんです。変わらないものなんてないんだから。
でも、憲法の場合、国民の大多数がよく考えて、そう望めば、ですよね。ウクライナのことがあるからと、ムードで変えてしまってはいけないと思うんです。
みんながきちんと条文一つ一つを読んで、自分の意思でそれを選んだ上でないと、たとえ押し付け憲法であっても、安易に変えてしまうのはいけないと思うんです。あの憲法が生まれるまでに流した&流された血の多さと、二度と同じ過ちを犯さないと誓った時があったはずです。その憲法を手本にして自国の憲法をつくっている国もあります。
一人一人が考え、議論して、行動する‐‐そんなことを一度もしたことがない国民だからこそ、今度こそ、そうであってほしいと思うんです。
 
あなたは、憲法の条文を最初から最後まで読んだことがありますか?
そういえば、ボクは学校というものに16年も通いましたが、授業で一度だって憲法全文を読んだことはありませんでした。
こんなことでいいのかなぁ、、、
 
さぁ、あの夫婦はカメラの前で、どの条文を読んでくれるのでしょうか?
そして、その条文を選んだのは何故か?
その答えを聴くのが今から楽しみです。
 
というわけで、メキシコ人と中国人の心やさしき若いカップルと、すてきな大先輩のカップルに出会って、ボクの新しいライフワークが復活しま~す、っていうお知らせでした。
 
そう、もうお墓や自分史を本に残す時代じゃないでしょ。みんなで一番大切だと思う憲法の条文を読んで、you tubeに残しませんか。
このままだと、現在の憲法は姿形を変えてしまい、永久に失われてしまうかもしれませんから。
あなたの肉声で残すことが、生きた証にもなると思うんです。あなた自身が、そして日本国憲法が、あの好戦的に思える米軍の司令官が、一時であったとしても理想として残したいと思ったかけがえのない103条と前文の全文。
 
でも、動画のインタビューを始める前に、この活舌の悪さと、ついつい「はいはい」と声を出してしまう受け答えの癖を直さないといけませんね。
大小田監督がyou tubeにアップしてくれている「つながる本棚」の動画インタビューで、いつもガッカリしてしまうのは、撮影前には雑誌のインタビュアーじゃないんだから、いちいち返事はしないんだぞ、とあれだけ自らに言い聞かせているのに、蓋を開ければボクの余計な頷きと同意の声がいっぱい入っていること。
あれだけでもカットしてくれないかなぁ。そうしたら、もう少しやる気になるのに。。。

#九条tokyo


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