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コンビニ空想劇「廃棄処分できるかしら?」エピソード①

「おはようございます!

モルダウ・くるみ・リバーです。

今日から、お世話になります。」

えっ?えっ?

モニュメント・バレー?

モン・サン=ミシェル?

あっうん、宜しくね。


世界遺産みたいな名前だね。

「はい、私の存在は両親にとって
世界遺産ですから。」

自己肯定感、高いねー
エッフェル塔を軽々と越えてったね?

「そして、この可愛さ…」

ん?

「キャラメルポップコーンが弾けるような…生後一ヶ月の仔猫が初めて見た子ネズミを捕まえて、ちょん、ちょんするみたいな…可愛さ!!!」

この子は漫画みたいにペラペラ喋る子だね…

心理描写が

だだ漏れするタイプの

アルバイトスタッフと仕事をするのは

人生初かもな…

「ラズベリーチョコとマンゴーと
パッションフルーツが初雪みたいに…」

まーだ、やってんの?

「真っ白なクリームと甘い駆け引き…」

「ロミオ!!!どうして、あなたは、店長なの?

ねぇ、どうして…」

「あなたは、深海魚みたいな顔なの?」

確かに、魚介系のイケメンとか
友達に茶化されたことあるけど…

「ねぇ、魚介類の王子様?」

「私のこと、マヌカハニーって呼んで!!」

ジュリエットッッッ!!!

君は、どうして…そんな突拍子のないコトが

できるの?

君は、コンビニのバイトの初日なのに

どうして?

夕方、5時のまぁまぁ混んでる店内だよ?

練習専用のレジだけど、会計待ちのお客さんに

余裕で見えてるんだよ?

「マヌカハニー!!!って呼んでよっ」


君の心臓はエアーズロックだな?

くるみたん、宝塚行ったら?

「落ちました。」


俺は、まるで文化祭のお芝居気分で

夕方5時のコンビニを

メルヘンチックなお城に脳内変換してから
アルバイトスタッフを呼んでみた

「マヌカ…」
仕事を終えた田野辺さんが
「ハニー。」バックルームから出て

入り口を通り過ぎた

「お疲れ様です。」

あっお疲れさま!!!

シベリアかアラスカの真っ暗な風が
僕の胸で吹き荒れて

雪の結晶がキラキラと輝く度に
沁みて痛かった

新幹線みたいな速さで飛んで来た針葉樹が

恋の窓辺に飾ったバラの花を
真っ赤に散らかした

窓ガラスと花瓶の破片が
時速300キロで蜂蜜味の粉に変わって

僕は微生物に話しかけるくらい
小さな声で「マヌカハニー」と言ったのだ


40代のおばさんの引きつった微笑み

口の端に釣り針が掛かったような微笑みを
くれた40代・アルバイト・スタッフ

明らかに、その針は田野辺さんの
内なる水槽に泳ぐ金魚を5匹くらいは
死なせてしまったのだ

僕の心は

無味乾燥の炎が揺らめく砂漠のようだ


ギャップ萌えとか
そういうポップでポジティブな捉え方の
反対岸に僕は立っていて

明らかに、深海魚を釣っていて

直視出来ない程にグロい顔した魚が
魔界の扉をピチピチ、パチパチ、

ノックして

「さようなら、店長…私、もう、若くないから。」

「40代のおばさんだから。」

「40代、アルバイトスタッフだわっ。」

「ロングコート・コンビニおばさん・
品出し担当・アラフォースタッフだから。」

客は一人もいない

僕とモルダウ・くるみ・リバーだけ

田野辺さん役を演じて切った

モルダウ・くるみ・リバーは

夏の風に揺れる若葉のような

清々しい微笑みで僕を見つめていた

どういうコト?



レジの操作をざっくり説明してると
お客様がチャーハンをレジに置く

「スプーンでよろしいですか?」

何を言ってるのだろう

チャーハンをスプーンで食べるのが
ベストチョイスに決まっているのに

なぜ、そんなコトを聞いたのだろう?

わからない

お客さんの口の端に

釣り針が掛かったコトは

「スプーンでよろ」の時点で

想像できた

「???っはい。」と言って

微笑みをくれたお客様

ありがとう

ショートホープ・大好きおじさん・シルバー

ショートヘアー

「意外と店長、間抜けなんですね。」

僕は、目と口の両端に

マグロ専用の釣り針が掛かったような

顔で魚介類の王子様らしく笑った

隣で見ていたクルミちゃんが微笑んで

「マヌケハニー。」

アオミドロかゾウリムシに
話しかけるくらいの小さな声で

「廃棄処分できるかしら?」

クルミちゃんがレジを出る

後ろ姿を眺める

「今世紀最大の萌え…」

ミカヅキモかハネケイソウに
話せるくらいの小さな恋だ

「お疲れ様でしたっっっ。」

お疲れ様!!

チャーハンに~

フォークを付けたら

マヌケハニー


歌ってしまったぞい


突然


窓辺に飛び散った

ガラスと花瓶とバラの花が

ゆっくり逆再生する映像が

異世界に浮上して

展開する

青のガラスと緑の花瓶が混ざって

ぐねぐねと渦巻いて液体になって

大きな水槽に注がれる

真っ赤な花片が虚空を漂い

ぷかぷか、すいすい、ぴくぴく

夏の木漏れ日を浴びて

薔薇色に煌めく魚


僕の内なる水槽で死にかけた

50匹の金魚たちは

タイーコイズブルーの水面に

飛び込んで

スイスかオランダの草原を

元気に走り回る少女と

ゴールデンレトリーバーのように

青と緑の迷宮を嬉しそうに踏み込んだ。。。

この記事を【こ林さん】と【虹倉さん】に朗読してもらったリンクです。

お二方の違いを是非とも楽しんでください!!

内なるゴールデンレトリバーのエサ代、読みたい書籍の購入、音楽などの表現活動に使わせてもらいます。