2023年 私的年間ベストアルバム20
2023年に聴いた作品の中でよかったアルバム20枚と、その収録曲の中のお気に入りをまとめました。
上位10作にはちょっとしたコメント付きです。
おまけで年間ベストトラックと2023年のよかった映画のリストも添えてあります。
↓2022年版はこちら
■2023年 私的年間ベストアルバム20
●20位〜11位
20. Mitski『The land Is Inhospitable and So Are We』
19. Hotline TNT『Cartwheel』
18. パソコン音楽クラブ『FINE LINE』
ラストの文字組の演出がかっこよくきまりすぎている。(2023年ベストMV)
17. スピッツ『ひみつスタジオ』
16. Unknown Mortal Orchestra『V』
15. Mac Wetha『Mac Wetha & Friends 2』
14. Beach Fossils『Bunny』
13. boygenius『the record』
12. KNOWER『Knower Forever』
11. PinkPantheress『Heaven knows』
●10位〜1位
10. Wild Nothing『Hold』
Jack TatumによるプロジェクトWild Nothingの5作目。
ドリーム・ポップからダンス・ポップへと接近しつつも、平熱〜微熱の間を行き交うだけの突き抜けすぎない温度感に浸るのがひたすら気持ち良い41分。
14位に挙げたBeach Fossils『Bunny』とセットで聴くのもよし。
09. ROTH BART BARON『8』
2022年秋からドイツ・ベルリンに移住し、東京と2拠点での活動を開始したROTH BART BARONのタイトル通りの第8作。
持ち味の一つであった雄大さを感じさせるスケール感はやや控えめになった一方で、タイのバンドとのコラボレーションやミニマルなアレンジ、シンセポップ的なアプローチの導入などこれまでにないアイディアを積極的に取り入れる風の通しの良さを感じる。
サポートメンバーの入れ替わりも含めて環境面の変化もありつつも、移住後の制作の充実ぶりを窺わせる一枚。2018年以降、毎年フルアルバムをリリースしていてこれはなかなか常軌を逸している気がする。
08. 君島大空『no public sounds』
2023年1月にリリースされた1stフルアルバムに続き早くも発表された2ndフルアルバム。
タイトルはSoundcloudで表示されるエラーメッセージにちなんでいるとのことですが、インターネット(Soundcloud)上に溢れる音楽を適当にザッピングして聴いたときに流れてくるラインナップは、もしかしたらこのアルバムの楽曲群のように乱高下した曲線を描くのかもしれない。
それらの一癖も二癖もある楽曲達を一枚のアルバムとしてまとめあげる手腕はお手のもの。
07. SADFRANK『gel』
NOT WONKのVo./Gt.加藤修平によるソロプロジェクトの1stアルバム。
バンドとは打って変わって日本語詞、なおかつ歌声を前面に出したミックスが施されていることで言葉や感情が生々しく剥き出しになり、安らぎと胸騒ぎが同居する絶妙な塩梅のひりついた空気が作品を通して漂っている。特に1曲目の「肌色」は本人が目の前に鎮座して歌っているのを聴いているような緊迫感がある。
今年ライブを観れる機会があったのに見送ってしまったのは失敗だったかも。
06. James Blake『Playing Robots Into Heaven』
「エレクトロ路線への原点回帰作」とよく言われている印象の本作。自分は1stアルバム以降からJames Blakeの音楽を聴き始めた人間なのでそれ以前の彼の作風の魅力をそれほどよく理解していなかったのですが、今年ようやく彼のライブに足を運べたことと、その後に今回のアルバムを聴けたことで完全に“わかって”しまいました。「なるほど、これか」と。
しかし、ライブ会場のどデカいスピーカーで着ている服まで振動するようなJames Blakeサウンドを浴びて味わう体験を経た後だと、イヤホンやヘッドフォンといった自前のリスニング環境で彼の音楽を聴いてもすっかり物足りなくなってしまう弊害も起きており、2024年にはアルバムを引っ提げた可及的速やかな来日公演が待たれます。
05. PAS TASTA『GOOD POP』
ウ山あまね、Kabanagu、hirihiri、phritz、quoree、yuigotの6人からなる、頑なに「J-POP」を標榜する音楽プロデューサー/シンガーソングライター集団による1stアルバム。
最初のシングル「turtle thief」から本作に至るまで、一貫して“聴き心地のよいやかましさ”とでも言いたくなる楽曲を繰り出してくれて、2022年前後から2023年にかけては彼ら周辺の音楽を生活のサウンドトラックにして過ごす日々が続きました。
現在「ハイパー」と形容されているようなサウンドが「ポップ」の範疇に取り込まれる日が来るまで、このまま気ままに活動を続けていただきたい。
04. Sampha『Lahai』
イギリス・ロンドン出身のシンガーソングライターの6年ぶりとなる2ndアルバム。
これまでSamphaの活動を熱心に追っていたわけではなかったけど、昨年のKendrick Lamarのアルバムへの客演曲等を踏まえつつ本作を聴くことで改めてSamphaの歌声が持つ魅力にやられました。
生音とエレクトロニクスの絶妙なバランス感やリズムアプローチやプロダクションの多彩さなど、美味しい要素はたくさんあるのですが、やはりたとえ客演曲であっても彼が歌えばそれは「Samphaの曲」になるような、有無を言わせず全てを持っていく歌のパワーに心酔させられる一枚だなと感じました。
03. Galileo Galilei『Bee and The Whales』
2016年の“活動終了”後も別名義にてコンスタントに作品を発表し続けてきた彼らなので個人的な感覚としてはそこまで久しぶりといった感じもしないけど、前作『Sea and The Darkness』から実に7年ぶりとなる復帰作。
warbear、BBHFでは年齢/キャリア相応の成熟と少しのやさぐれ感、諦念を帯びた楽曲を出していたけど、Galileo Galilei名義になった途端、無垢な少年性のようなものがぱっと顔を覗かせるのだから不思議。楽曲からも今このメンバーで音を鳴らすことの喜びが十全に感じられ、1stアルバムかのような瑞々しさもある。(アルバムを通したコンセプトやテーマ性が希薄なのもまた1stっぽい)
近頃ライブのMC等でよく「いつか聴いた人全員がぶったまげるような“最強”のアルバムを作りたい」といったことを(やや冗談混じりに)口にしているけど、ソングライティングにおいてもプロダクションにおいてもそれを実現させるための下地は充分出来上がっていることが伝わってくる一作。
どの名義になるかは分からないけど、一本軸の通った問答無用のぶったまげアルバムを出してくれる日を気長に待ちます。
02. 松木美定『THE MAGICAL TOUCH』
ジャズを基調としたポップスを奏でるシンガーソングライターの1stアルバム。
これまでにリリースされてきた楽曲からは、漠然と複雑さや技巧的な要素が前面に出ているような印象を抱いていましたが、音楽や創作への想いを衒いのないストレートな詞・曲に乗せて歌う本作冒頭の「あなたの虜」に意表を突かれるとともにグッと心を掴まれました。(変化球の後のストレートに弱い)
おかげで薄壁一枚程度の隔たりを感じていたそれ以外の楽曲にも、それまで思っていた以上にテクニカルなだけではない人懐っこい魅力があることに気づけ、11月末リリースながらも年間ベストの上位に食い込むことになりました。
“幻想的なムードと親しみやすさを兼ね備えたポップス”という点で、本作3曲目「舞台の上で」でゲストボーカルとしても参加している浦上想起『音楽と密談』の隣に並べて聴きたい一作。
ラジオで彼の名前を音として聞くまではずっと「松木美定(まつき・よしさだ)」だと思っていたのはここだけの話。
01. cero『e o』
生楽器による演奏を主体とした前作、前々作までの路線からDAWを用いた打ち込み中心の制作スタイルへの転向はどこか1stや2ndの頃への回帰のようにも映るが、控えめな声量でささやくように歌うボーカルの脱力具合や、アルバム全体に通底するアンビエンスの心地よさ、何層にも折り重なったサウンドやテクスチャーを雑多さを感じさせずに聴かせるミキシングなど、10数年以上に及ぶバンド活動の積み重ねがあるからこその洗練の境地であることを感じさせる。
制作するにあたって特にコンセプトを設定したり意識的に時代の空気感を反映させたりはしていないとのことですが、誰かいるようで誰もいないような"空虚"や"不在"というキーワードを連想させるようなサウンドや三人称視点の歌詞の仄暗さが2023年の都市の景色や空気に不思議とよく馴染んでいる。
しかし、現在のタームのceroの音楽をずっと追い続け、このアルバムも何周も聴いたのにもかかわらず、この作品を語るための言葉を全然持ち合わせていないというのが正直なところ。
掴みどころがない(ただしメロディー自体はどの曲もポップ)からこそ飽きることもなく何度も繰り返し聴いていたらこの順位に。
娯楽にせよ人生にせよ、気を抜くと答え合わせをするように生きてしまいがちな今の時代において、安易に理解や納得をした気にもさせてくれない本作の存在はかえって貴重でありがたい。来年以降もずっと聴き続けていくことでしょう。
■2023年 私的年間ベストトラック
曲単位の年間ベストでは昨年に引き続きウ山あまねの楽曲が1位。ここ数年は歪さがありつつもポップスのフォーマットからははみ出していないバランス感を持った曲のブームが続いています。
■(おまけ)2023年のよかった映画リスト
ほんとうにリストだけ。
『TAR/ター』(トッド・フィールド)
『わたしの見ている世界が全て』(佐近圭太郎)
『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ)
『スパイダーマン: アクロス・ザ・スパイダーバース』(ホアキン・ドス・サントス/ケンプ・パワーズ/ジャスティン・トンプソン)
『君たちはどう生きるか』(宮崎駿)
『フェイブルマンズ』(スティーヴン・スピルバーグ)
『ザ・キラー』(デヴィッド・フィンチャー)
■最後に
また来年。
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