生霊のはなし
出産後「怖いもの」を見なくなった。
特に霊感が強い自覚も無いのだがいわゆる「恐怖体験」を一つや二つではなく話せるということは、それなりに何かを持っていたのかもしれない。
白い着物の女の子に連れて行かれそうになったり、庭に火の玉が乱舞していたり。まだまだあるので興味があればお声掛けください。
生き霊にも遭遇したことがある。ただしこれは怖い話ではない。
はじめてのお産は里帰り出産をした。
無事に娘が生まれてくれて、しばらくして自宅に戻った頃のこと。
夜中にふと目が覚めた。すると部屋のドアのそばに誰か立っている。
その人は近くの窓から外を眺めている。
何を見てるんだろう、と、その人は私が寝ている方へ近づいてきた。
どう考えてもその人、私の体の上に立っているような状態なんだけど、重くもないし息苦しくもない。
その人は私の隣に眠っている生まれて1ヶ月過ぎの娘を見、次に私の上に正座するような格好で座り、顔を近づけてきた。
祖母だった。
「おばあちゃん!?」口に出したと思う。
怖くはなかった。祖母はすーっとまたドアの方へと歩いていき、消えてしまった。おばあちゃん子で育った私はもしかして祖母に何かあったのかと、今にでも良からぬ電話が鳴るんじゃないかとドキドキしながら布団の中にいた。結局朝まで電話は鳴らなかった。
どうにも声を聞かないと安心できない。
朝、祖母に電話をかけたら逆にどうしたのかと聞かれてしまった。
これこれこうで、夜、おばあちゃんこっち来とったよと言うと、驚きもせず「知らん土地に行って子育てするんは心配じゃけえなあ、行ったかもしれんなあ」と言う。
そうか、窓から外を見ていたのは私がどんな所に住んでいるのか見ていたのか。遠くに嫁いでしまってごめんね、おばあちゃん。
心配かけてごめん。本当にごめん。
祖母が亡くなってからもずっと守られていると感じている。
私と子どもたちのそばにいつも居る気がしている。
これはもう本当にそうなのだ。何がどうって説明はできないけれど。
不思議なことにそれが娘もわかるらしく、ときどき、「ひいおばあちゃんが助けてくれた」と言うことがある。「ひいおばあちゃん、こっち来てくれとるわ」と。
私の「霊感」のようなものは娘にまるごと移ってしまったらしい。こういうのは、「霊感」とはまったく別物かもしれないとも思うけれど。
私が大好きだった、祖母の気配を、娘が感じてくれているのはとても嬉しい。
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言葉と写真の小冊子にエッセイを連載させていただいていた時のものです。
これは、2014年「プチパピエ/ホットレモネード号」掲載
ちょこちょこっと修正あり。
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