見出し画像

シュガーソングス2023年5月号

道草レスカさんと岡田奈紀佐さんの短歌ユニット。
発行・編集は「うみべの喫茶店」

部屋を出る瞬間ときの絶望世の中は今日も回っているありがとう

道草レスカ『素晴らしい日々』

外は絶望だと分かっていて出て行く、と最初思ったのだが、違うね。
部屋を出る「瞬間」に絶望するのだな、世の中に。
その絶望を目の当たりにして、尚そのまま外へと向かって行くのだろう。

自分の話になって申し訳ない。仕事に行くのがやたらと億劫な時がある。
もう休んでしまおうかと上司への言い訳まで考えて、ちくしょう、と玄関を出た時に、人が行き交う、信号が変わる、ネコがいる、花が咲いている、お店が開いている、その中に人がいる、車が走る、風が吹く。地下鉄に人がたくさん乗っている、あの人も仕事かあの人も、あの人もだな。あと10時間もしたらこの道を私は帰り道として歩いているんだよな、と思う。
そのとき確かに「ありがとう」と思うんだ。私だけがしんどい思いをしているわけではないよなって、それを再認識できて「ありがとう」なんだ。

ネガティブで皮肉な読み方もできると思う。
でも私はそうは読めなかった。

絶望感は恐らく無くならない。でもあくまでも「感覚」のみであり、絶望ではないんだ。だって世の中は回っている。私がここに居る。
はっきりと主体が認識しているわけではないがそこに希望を感じているんじゃないだろうか。この歌に、私は、力強い生きる力を思った。


明細を三つ折りにした指先は紙飛行機を久しく折らず

岡田奈紀佐『きゃく』

そういえば明細って、誰かが折って封筒に入れてくれてるんだよなあ。
いや、今は機械でやっちゃうんかな。これは自分の明細を折ってるだけ?
WEBで確認するところも多くなっているとは思うけれど、私の職場は紙の明細を手渡しだ。今月もよろしくねと上司が一言添えて渡してくれる。

私は職場での景を思った。たくさんの明細を淡々と三つ折りにしている。こういう作業の時って無心。ふと思う。紙飛行機ってどうやって折るんだっけ。そういえば紙飛行機なんて随分折ってないなあ。これ、ぜんぶ紙飛行機にして飛ばしたら面白いだろうなあ。あー、私何やってるんだろ。
と、この歌の主体が思ったかどうかはわからないが、やけに血の通った歌だなと思った。すごく人間味がある。

そして、目線がきっと動いていないだろうなということも感じた。
明細を見つめている。これは、仕事として何枚もの明細を折っているにしろ、自分の明細を折っているにしろ、その明細を折っている指先を見つめている。頭の中で、紙飛行機を折っているのだろう。

日常の中での虚しさがとてもよく表わされていて、それでも私はこの歌にも、ちょっとの希望を感じたんだ。紙飛行機というモチーフが思い浮かぶということは希望だよと思う。
このあと、紙飛行機をコピー用紙の裏紙を使ってでも折ってくれてたらいい。そんな風に思った。

妄想もいいところである。ごめんなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?