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いま最も“損”している小説!『紅蓮の剣姫』

💛「璃奈えも〜ん! 虹ヶ咲の公式供給が足りないよ~!」

🤍「OVAも30分しかなかったからね。でも大丈夫、そんな時は~」

テッテレー

🤍「小説版 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『紅蓮の剣姫』~!」

🤍「これを渡しておこう。苦痛に耐えられぬとき読むがいい」

💛「それ知ってる。『幻日のヨハネ』みたいに、アニメとは別世界の物語を描いた小説なんでしょ?」

否。
実は違うのである。

かく言う私自身も同じ勘違いをしていた。
『紅蓮の剣姫』の世界に虹ヶ咲のみんなにそっくりな娘たちが登場する、ある種の外伝的スピンオフ作品なのではないかと。

しかし。
実はこの小説、アニメの世界線とそのまま繋がっているのだ。

という訳で今回は、いま最も“損”している小説こと『紅蓮の剣姫』について、ネタバレにならないよう細心の注意を払いながら紹介していこうと思う。


#1 小説の正体

小説化が決まった時の宣伝を覚えているだろうか?
映像で流れたキャッチコピーはこうだ。

『これは“闇”と戦う紅蓮の少女と、彼女に憧れた一人の少女の語られざる物語──』

『紅蓮の剣姫』

いやいや、これをみて誰が
「この小説はアニメとリンクしてる!」
なんて思う!?

この小説が“損”をしていると言ったのは、ひとえにこの売り文句が理由である。

たしかに小説の中では『紅蓮の剣姫』の物語も描かれている。
しかしそれはあくまで同時進行する作中作という立ち位置であり、本編はまごうかたなき『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の青春の日々である。

ここで改めて、今作のあらすじを紹介しようと思う。

アニメ化が決定したほど大人気のライトノベル『紅蓮の剣姫』。なんとアニメ化に先立ち、虹ヶ咲学園の生徒たちでミニフィルムを制作してほしいとの案件が出版社からやってきた! 作品の大ファンだった優木せつ菜をはじめ、スクールアイドル同好会がこの案件を引き受けることとなるが、主役を演じるうえで、せつ菜にはある迷いが生じて──

というものである。
いや、企業から案件が来るとか、虹ヶ咲学園の社会的信頼エグすぎないか? という野暮なツッコミはとりあえず置いておくとして。

このあらすじ通り、本作品ではミニフィルムとして撮影される『紅蓮の剣姫』の物語と、撮影に際して様々な悩みを抱える、思春期真っ盛りな同好会メンバーの物語が同時進行することになる。

さらに面白いのは時系列。
この物語は、同好会メンバーがしずくちゃんの家で合宿した後から、ファーストライブ開催までの間が舞台となっている。

つまり小説『紅蓮の剣姫』の正体は

『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 11.5話』
なのである!

これだけでも読む価値があることが十分に伝わるはずだ。
ただでさえ完成度の高かった虹ヶ咲アニメ。その明かされなかった部分が語られるのだから。

ネタバレになるので詳細には言えないが、思い返してみれば、虹ヶ咲アニメでは尺の都合上、描写の省かれた要素がいくつもあった。

たとえば、生徒会長の座が菜々から栞子へと渡った経緯。5人体制だった同好会がバラバラになってしまった時の、せつかす以外のメンバーの心情。
他にも、ランジュが空港でミアの歌をきっかけに日本に留まることを決意した時、ホテルに置きっぱなしだったスクールアイドルグッズはどうしたの? 愛の姉的存在、美里さんと出会った時、果林はどんなことを考えていたの? 先輩に囲まれる形となった『A・ZU・NA』において、しずくはどんな心境でユニットに居たの? エトセトラエトセトラ。

そういった微かな疑問が、まるでテトリスで一番欲しかった形のミノが降ってきたみたいに描かれ、ピッタリと隙間に収まっていく。そうして出来上がった綺麗な形は、作者である五十嵐雄策先生の整った解釈をそのまま表しているが如く美しい。

それともう一つ。
実は虹ヶ咲アニメには、描写がされながらもそこまでストーリー上で目立つ機会を与えられなかった重要な要素があるのだが……。
それも本作のクライマックスで見事に回収される。それが何かは、ぜひその目で確かめてほしい。

この小説のためにわざと描かなかったのではないか、そう思えるほど矛盾なく、そしてよりアニメの解像度が上がるように、細かく裏側が描かれる本作。

『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 11.5話』と紹介した理由、おわかりいただけただろうか。

だが、ここまで話した単なるアニメの補完という魅力で終わらないのが、雄策先生の手腕の光るところである。


#2 虹ヶ咲への愛

雄策先生は、もともと虹ヶ咲というコンテンツが大好きだったようだ。
その言葉に偽りはなく、なんと本作ではアニメだけでなく、楽曲やドラマCD、『にじよんアニメーション』、果てはキャストによるリアルライブまで、幅広いコンテンツが元ネタとして組み込まれている。

楽曲もアニメで使われたメジャーなものだけでなく、たとえば『ミチノサキ』や『祭花』の作品内で登場する。またMVや歌詞からさらに解釈を広げ、キャラの心情と結びつける粋な演出もあり、楽曲ファンにはたまらない仕上がりになっている。

正直読んでいて
「あ、こんなネタたしかにあったな!」
と膝を打つレベルで、本当に細かいところまでネタを散りばめ読者を楽しませてくれる。

虹ヶ咲はほとんどのコンテンツで世界線が繋がっていて、どの出来事もキャラクターたちにとって大切な思い出として心に残っている。
そう実感させてくれる本作の魅力は、ぜひ読んでもらったうえで、ファン同士熱く語って欲しいものである。


#3 『紅蓮の剣姫』の重要性

ここまで同好会の青春物語に焦点を当てて魅力を語ってきたが、無論、タイトルにもなり本作の重要な要素である『紅蓮の剣姫』にも、読者を虜にする魅力が詰まっている。

あくまで、本編と同時進行するミニフィルムという立ち位置であることに違いはないが、そのストーリーは、本編での同好会メンバーの心情とリンクする部分がある。

小説全体は
『紅蓮の剣姫』のシーン

同好会の日常

『紅蓮の剣姫』のシーン

以下略

といった風に物語が交互に展開されていく。
これにより、先に読んだ『紅蓮の剣姫』のシーンを参考に
「次は〇〇と〇〇がメインで、こんな感じのお話が展開されるのかな」
と予測しながら読むことができる。時には和み、時には不穏な空気を感じ取り、時には感動する。情緒がめちゃくちゃにされがちな構成だが、こんなにエキサイティングで心温まる体験はなかなか得られるものではない。

それだけ重要な役割を務める『紅蓮の剣姫』、それに対する掘り下げも尋常ではない。
残念ながら『紅蓮の剣姫』パート自体は全部をまとめても1万字程度のボリュームなのだが、実は雄策先生は、『紅蓮の剣姫』だけで文庫本一冊を完成させられるほどのストーリーを練っている(あとがき談)。そこから厳選された一部が本作に収録されている訳である。

これだけ本編に関する魅力を語り、告知もそれを全面に押し出すべきだと訴えた手前ではあるが、『紅蓮の剣姫』自体も王道でありながら抜群に面白いストーリーになっているので、是非とも今度は正真正銘の『紅蓮の剣姫』が刊行されてほしいものである。


#4 まとめ

この記事を書いている8月14日現在、『紅蓮の剣姫』は売り切れが相次いでいる。
私はAmazonで書籍と電子版を同時に購入したが、特典が欲しい場合は少し待つ必要がありそうだ。
だが電子版があるということはつまり、今この記事を読んでくれているその指でそのまま画面をスワイプし、Amazonですぐに読める訳である。

私は親切なのでURLも添えておく。
購入URL

これですぐに『紅蓮の剣姫』を楽しめるはずだ。

今頃みんなAmazonで電子版もしくは書籍を注文し終えた頃だろうから、これ以上語る必要はないと思う。
あとは読み終えたのち、ぜひ仲間同士で熱い感想と“大好き”をぶつけ合ってほしい。

そして電撃文庫様に要望を送ろう。

正真正銘の『紅蓮の剣姫』も刊行してください!!!!!
(クソデカボイス)

あと、最初の挿絵でのしおぽむ要素ほんとうにありがとうございました。

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