季節の香りブロッカー

季節にはその季節の香りが確かにある。
例えば、勢いよく伸びる青い草の香り、むわっとした夕立のあとのゲオスミン臭、どこかで花を咲かせた金木犀の芳香、凍える早朝から畑でやっている焚き火の煙の匂い。

そういったその季節特有の匂いももちろんあるのだけれど、そもそも、気温によって鼻腔の感じる匂いのレンジが変わっている気がするのだ。

夏よりも秋の気温のほうが、軽やかな匂いを感じやすい気がする。気のせいだろうか。

とおもって気温と匂いの関係について調べてみた。

要約すると、温度・湿度が高ければ高いほど、匂いを感じやすいらしい。匂い分子は揮発性して気体の状態で、または水蒸気と混じった状態で空気中を漂い鼻腔に入って感知されるので考えてみれば当たり前である。

でもでも、夏のほうがよりたくさん複雑な匂いを感じるわけではないと思うのだ。むしろ季節の匂いのうち言葉で表現しにくいのって秋とか冬とかだと思う。なんなんだろう、この匂いは。季節の匂いの正体を知りたい。

などと思うのも、今日歩きながら水を飲もうとしてマスクをずらすまで、この秋の匂いに気づいていなかったからだ。季節の変わり目の、一年に一度しかない香りの変化を楽しめていなかったなんて何たる失態!胸の中いっぱいまで鼻から空気を吸い込んだ。

外でマスクを外す習慣がなくなってしまった最近の子どもたちは、季節の匂いに気づいているのだろうか。例えば、例えばだよ、このままマスクをつけ続ける未来になったとしたらこんな話通じなくなるのかしら。食べ物や花から漂う香りではなく、大気、空間、ヒトの集まり、みたいなものから漂う正体不明の匂いというものがどんどん生活から切り離されて行くのだろうか。使わない能力が低下するように、嗅覚の精度も落ちていくのだろうか。

なんだかちょっと怖くなって、秋の夜の下、マスクを外して深呼吸しながら歩くことにした。

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