好きなだけ。

私の弱点は、君です。
病だと思っております。自覚はあるんです、ずっと前から自覚はあるんですよ、誰に言われなくたって。

君と会って別れた後が一番、喪失感に襲われて、私は虚無なのだと知るのです。自分には何もないと思い知り、今の時間は何だったのだろうと、何も握れなかった手にせめて幻影ならば残っていまいかと、じっと自分を顧みるのですけれど、やっぱり私は空っぽのままです。振り返っても改札に君の姿があるはずもないのは、重々承知しております。いっそ雷雨が私を一息に突き刺してくれたら、私は心臓が捥がれる痛ましさにじっと耐えなくて済むのに。

入学式を先取りし、桜満開の二年前に、私と君は出会いました。君にとっては、私なんて、たくさんいる知り合いの一人に過ぎなかったでしょう。コミュ力と行動力と才能と容貌に恵まれた君は、芸能人ばりのハードスケジュールで、日々を生き抜いていました。君はいつでも輝いていました。
後にそれが、どれだけの努力の元に成り立つ見せかけの輝きか知りましたが、そんな極限で戦う君にますます惹かれて、私は放っておけばいいのに、君に関わるすべてに揺り動かされる激流の中へ、自ら足を踏み入れました。

馬鹿はやめとけ、ともっと早くから罵倒されればよかったのに、人からそう言われる頃にはもう盲目で、思考回路なんてあるはずもなく、それ以前に身近に君の存在を置いていました。もはや君は、私になるところでした。
ハンマーで複雑骨折させられなきゃ、斧で肉を抉られなきゃ、そんくらい君にボロボロにさせられなきゃ、離れることも叶わないのではないかと、狂ったこれが、愛なのか、そうではなく引力なのか、魂の呼応なのか、もはやどうでもいいのです。

この気持ちが恋愛か友情かわからず苦しんだ時代はとうに過ぎて、全くわからない、今までに抱いたこともないこの衝動に、名前はなく、最初から答えなどなかった、それでも好きなのです。そうなのだとしか、言いようがない。

いや言葉が枯れるほどのこの熱量は何ものにも制御できず、私はいつだって壊れそうです。君から些細な連絡が来るだけで、心筋梗塞になるかもしれない。
距離を置こうとすれば、その後反動でさらに渇望し、気色悪いではないかと自分を叱ってもやっぱり君を想っていて、人も言葉も割り込む隙がなかった、異常性すらなぎ倒して私は君のことばかりに夢中になっていました。

どこが好きかと聞かれても、何も答えられません。顔だとか性格だとか知能だとか、そのどれをとっても私は別段好きではないのに、そう、正直言って私は君に対して好きな部分があるわけではまるでないんです、そうだというのに君ってやつは、有無を言わせず私を引きつける魔力があったのです。

必然であり運命であり自然なことでした。私が君を好きになるのは、仲違いしそうになっても嫌いになれないのは、もうそうなるしかなかった、私にどうか何も聞かないでください。

#小説 #手紙 #病

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