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照葉樹林が燃えている

やっぱり頼むと思った、とバイトの先輩に笑われる。私の心は一つだった、バイトが終わったら冬限定カクテルのホットグリーンティーウーロンを飲むのだと。

透き通った深緑は妖艶な揺らぎを魅せ、素直に美味いと言えない味にも関わらず数日後につい欲してしまうような罪なカクテルなのだ、照葉樹林は。

削られた氷に浸る冷えた照葉樹林だけでなく、湯気を揺らめかせる温かな照葉樹林もまた試してみたいものだ。グリーンティーリキュールと烏龍茶のコンビは何とも日本的な落ち着きと、年が過ぎ去る言いようのない侘しさを、密やかに醸し出す。

照葉樹林という意味不明な名前のカクテルとの出逢いは、今年の梅雨、京都へ旅したときだった。京大構内には、学生が経営しているバーがあるのだ。そのバーカウンターの頭上に掲げられた殴り書きメニューに、照葉樹林の名はあった。
京大生がプラスチックのコップに注いで差し出してくれた初めての一杯。何とも形容し難い味にどう反応していいのか迷ったが、時間が経つにつれ、あの不思議な味を口にしたいと願うようになった。

半年経って再度京大のバーを訪れたとき、もちろん照葉樹林を頼んだ。一杯200円。昨日も今日も十二時間飲んでいるという人間離れした肝臓を持つ京大生と談笑しながら、懐かしく新しい照葉樹林を味わった。(その京大生はロンティーのチェイサーで、という驚異的な注文をしていたし、ウヰスキーの試飲で全種類のウヰスキーを当てていた。)

人を落ち着かせながらも惑わせる魅力を持ち、その深淵たる深緑はいつまでも包み込まれていたい包容力と、一度入ったら抜け出せない妖魔の如くまやかしを発揮する。
京大のバーで照葉樹林に出逢ってから、私はずっと目標としていた。
照葉樹林のような人になりたい。

#エッセイ #カクテル

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