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お坊さんの死生観日記 ~思想と臨床~ #003


訪問介護 新規案件――。41歳男性。介護保険適用対象…

上記情報のみで、介護ケアマネージャーは初回訪問の際に、気が重くなると言う。大方が、余命宣告されるような、末期がん患者と分かってしまうからだ。

40歳から課される介護保険が適用されるのは、通常65歳以上。しかし、40代という若さで適用となる例外ケースもある。末期がんやALSのような、回復がほぼほぼ見込めない難病指定である。

41歳男性。子供3人。末っ子は、まだ2歳未満。男性には珍しい「乳がん」で発見が遅れて、手遅れだった。あれよあれよ、よもやよもやで余命半年。ロールプレイをするのは自分自身だ。妻の老後を気に掛けつつ、子供達の成長やライフイベントを共有できないのが、一番の心残りだった。結婚式や大学受験、卒業式や成人式などなど。父親として何か子供達に遺すメッセージはないだろうか。。。死ぬまでの半年間で、妻と3人の子供達の未来に宛ててメッセージを録音し続けようか? 子供達の楽しかったこと、悲しかった出来事、母親(妻)には話しづらいこと、うんうん、とその報告をリアルタイムで聞いてあげたい。いや、自分が認知できずとも(死んでいるので)、妻子にとって共有できる父親、聞いてくれる存在として、あり続けたい。 

ここで、昨日紹介した声を再現するAIシステムが、最大限活用できる。既に実用化されているのが驚きだった(存命の人の声であるが)。近い将来、スタッフが文章を打ち込まずとも、チャットボットのように、自然な会話までできるのではないだろうか。仏壇には専用のスマートスピーカーが設置されていて、妻子の報告もそれぞれ記憶している。そうしたら、声だけでなく、10年後 teenagerとなった末っ子と日常的なSNSのやり取りも可能になるのだ。相手方は、著しく私に近い、AIシステムなのだが。。。 私は気にしない。死んでしまっているし。。。きっと子供達ももはや気にしないだろう。 

自分の声が残せる。肉体は朽ちても。自分の思考もAIが模倣するだろう。

お父さんが死んでも、お父さんと会話ができる。いや、本当はお父さんは死んでいなくて、この世界のどこかにいて、ただ帰ってこれないだけ。。。


別のこんなシナリオはどうでしょうか? 小学校に入学したばかりの一人娘が、不慮の事故で命を落とす。。。 一方で、その娘さんの声のデータベースは出来上がっており、AIシステムに搭載することが可能である。成長に伴い変化する声色もシステムが調整してくれる。。。いつでも、「パパ、ママ、今日はこんなことがあったよ。・・・」と話しかけてくれる。彼氏ができたという報告だって、ママだけに打ち明けるかもしれない。。。 両親も、娘の元気な声があるからこそ、突然の死別・喪失にも、何とか持ちこたえることができた。


・・・この話がどこに着地するのか、分からなくなりましたので、ここいらで、妄想は辞めにしましょう💦 

昨日のキーワード③についてですが、皆さんは、携帯電話で聞く声は、実は合成音声だと知っていましたか? 例えば、故郷の母親と携帯で話す時、母親の声は、本人の声に限りなく近くした機械の音なのです! 声を似せる、再現する技術は、近未来の話題ではなく、もはや現代の日常的なものなんですね。下記は参考資料です。

徹底究明! 「携帯電話の声は、本人の声ではない」説は本当なのか?【後編】 ~電話での通話のしくみ~
https://time-space.kddi.com/feature/tsushin-chikara-sp/20160412/

茅ヶ崎市のAI声のプロジェクトは、実際、加山雄三さんが御逝去されたら、継続するかどうか、一定の議論が必要だと思います。もしかしたら、打ち切りになるかもしれません。なぜなら、亡くなった方のフリートークを日常的に聞くというのは、ほとんど全ての方が未体験のゾーンだからです。宗教的な、仏教的な、倫理的な、哲学的な、生理的な、、、、様々な観点から議論が誘発されそうです。

死後の供養は、忘れ、忘れられる という側面もあります。49日が過ぎたら、おじいちゃん(おばあちゃん)の所有物は全て処分し、使っていたお茶椀も湯呑み、ガシャガシャ割って、生きている家族に部屋もスペースも明け渡すということが行われる地域もあります。意地悪だった姑の声など、二度と聞きたくないというお嫁さんもいるでしょう。横暴なワンマンだった先代社長の指示を、死んだ後も聞き続けなきゃいけないなんて、交代した世代の生きる気力が失われてしまいかねません。。。

四苦八苦の愛別離苦を乗り越えることは、人類の一つの願望であり、一方で良いことですが、他方で、自然の摂理に逆行して、死後の忘却の権利を失うことは、慎重にならないといけません。

時間切れなので、今日はここで終わりにします! 皆さまの御意見・ご質問、御待ちしております!!

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