見出し画像

メイド研究者による「メイドの日」に鑑賞したい英国ドラマ5選(2020年版)

「メイドの日」にあわせて更新するのは計画的ではないと思います。しかし、書いていなかったので書きます。今度は映画・ドラマです。「メイドの日に鑑賞したい」と言いながら、長いシリーズもあるので、「メイドの日をきっかけに」鑑賞していただければ幸いです。

01. 日の名残り

ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ原作の、執事一人称小説を映画化した作品です。映画の中にみっちりと執事・ハウスキーパーの仕事が盛り込まれています。執事視点のため「メイド成分」は非常に少ないのですが、第二次世界大戦へ向かう時代と、第二次大戦後の2つ軸で屋敷の生活が描かれており、英国の屋敷が大好きならば必見です。

あと、主演はアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンという名優ぞろいなので、その点でもオススメです。

興味がこれでも持てない人は、今最も世界的にビジネスで成功しているアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスがこの本をお気に入りにしているので、ビジネストークで使いましょう(どう使うかはお任せ!)。

ある意味、私がメイド研究によりフォーカスしたいので(体調不良からの回復も含めて)、会社を辞めるきっかけのひとつにはなりました。


02. ダウントン・アビー

伯爵とその家族、そして彼らが住む屋敷を運営する家事使用人たちが織りなす家庭内ドラマ、というのでしょうか。外部の世界では大変なことがありますが、基本的には家の中で物語は完結していきます。こうしたドラマの多くは「上流階級の人々」にフォーカスしがちですが、英国でも日本のメイドブーム・執事ブームとは異なる形で家事使用人を見直すトレンドが生じており、家事使用人も主役として表舞台に出てきている作品となります。

とにかく、シーズン6まであるので全話見てとはいいません。シーズン1の第一話のオープニングのシーンだけでもみてください。屋敷の使用人の職場の朝の騒がしさと仕事の風景、そして主人たちがいない彼らの空間を掃除する様子は、必見です。

個人的には、シーズン1を経て第一次世界大戦を迎えるシーズン2、その反動を迎えるシーズン3ぐらいまでがピークでした。その後、4-5はやや落ち込み、6で盛り返してきた形です。

登場人物が多くてよくわからない、という方もいるかもしれませんが、副読本のガイドブックは資料性も高く作り込まれているので、こちらと合わせて視聴して行くのも良いと思います。

撮影の舞台となった屋敷は美しく、ダウントンアビーのファンで混雑しています。

03. 名探偵ポワロ

アガサ・クリスティー原作の探偵ポワロが登場する作品を、1989年の放送開始から2013年の完結までで全70話に仕上げた稀有な作品です。1976年生まれの私は、NHKで放送が始まった1990年当時に出会いました。まだ中学生でした。ここからミステリ小説が好きになりましたし、ドラマの中で描かれる英国、特に屋敷に興味を持ちました。

ポワロを演じた主演のデビッド・スーシェ、そして日本の吹き替えは熊倉一雄さんで、それ以外のキャストが思いつかないほどの完成度の作品です。

「メイドの日」ということを忘れそうですが、日本人が見慣れている「クラシックなメイド服」ではない、1920-30年代のメイド服が主流で出てきます。あと、思ったより、屋敷が少ないです。

今はNHK BSPで再放送をしています。一話完結型なので、今からでもみていただくのが良いかと。むしろ見ましょう。こういうコラムも書いていますので、合わせてどうぞ。


04. ゴスフォード・パーク

『名探偵ポワロ』に代表される「屋敷での殺人事件」をテーマとした作品が、『ゴスフォード・パーク』です。どうしてネット配信がないのか、意味がわからないのですが、この作品はアカデミー脚本賞を受賞しました。

2000年ぐらいにメイド研究を始めて最初に思ったのが、「メイドが主役の作品が全然ないこと」でした。日本のレンタルビデオ・DVD・映画上映を含めて、アクセスしやすい環境ではとにかく「メイドが主役」作品が乏しく、作品の中に「メイドがいると嬉しい」レベルでした。

ところが、このドラマは「館の殺人」では無視されがちな屋敷を維持する家事使用人も、上流階級の主人達と均等に描き出し、かつシナリオ上でも重要な立ち位置を与えていました。「家事使用人は家具のようなもの」「家事使用人は透明な存在」的な位置付けが主流な中、革命的な描写でした。

砂漠で出会ったオアシスです。

この作品の脚本を担っていたのが、『ダウントン・アビー』を製作するジュリアン・フェロウズです。『ダウントン・アビー』に詰め込まれているエッセンスは、まさにこの映画の中に見いだせるのです。そして、もうひとつ素晴らしかったのが、実際に家事使用人として働いた経験者を考証アドバイザーとして招き、その指導を受けた点です。

このベースは『ダウントン・アビー』でも反映されており、考証の大切さ(とそれを踏まえて外すこと)が作品中にあふれており、それゆえにその副産物たる公式ガイドブックも資料性が高いのです。

『ゴスフォード・パーク』の内容は、以下に解説しました。


05. 秘密の花園

「英国が好きなのはわかった。でも、ドロドロな話や殺人事件多くない?」という疑問をお持ちの方、このドラマはあなたのための作品です。タイトル通り、英国の児童文学『秘密の花園』を映画化したもので、子供目線で物語は作られています。

屋敷の描写や、わがままに育てられた主人公のメアリー・レノックスが、メイドのマーサやその弟ディコンとの人間関係の中で成長していき、独り立ちしていくところが、美しい自然風景を交えながら描かれているので、大満足です。

あと、屋敷の留守を預かるハウスキーパー役が、『ダウントン・アビー』にも『ゴスフォード・パーク』にも貴族で出演していたマギー・スミスが演じています。

個人的なところでは、幼い頃に読んだ「秘密の花園」の概念がよくわかりませんでしたが、この映画を見つつ、その後、英国を訪問して実際に壁で囲まれた庭を見ると理解できました。本当に壁で囲まれています。

以下の屋敷旅行記にガーデン訪問があるので、ご参考まで。

追加. いつか晴れた日に

実際にすぐ視聴できない『ゴスフォード・パーク』を勢いで混ぜてしまったので、すぐ見られる作品としてエマ・トンプソン主演で、ジェーン・オースティン原作の『いつか晴れた日に』をあげます。

この作品は使用人メインではまったくないですが、屋敷とその周辺に広がる自然の美しさが際立っており、おすすめです。私が英国の屋敷をもっと好きになったきっかけの一つとなる作品です。父の死で屋敷を追い出されてロッジに住んだり、知人のタウンハウスにお世話になったり、住まいも転々とします。

イケオジのブランドン大佐(アラン・リックマン)や、ちょっと大人しい感じの英国紳士エドワード・フェラース(ヒュー・グラント)、そしてケイト・ウィンスレットが激しく生きるマリアンヌ・ダッシュウッド(姉がエマ・トンプソン演じるエリノア)を演じるなど、役者の魅力も素晴らしいです。

とにかく、屋敷、田園、ロマンスありです。

余談:ドラマの魅力=屋敷で撮影するし、訪問できる

英国のドラマの魅力は、舞台となった屋敷に訪問できることにあります。

『日の名残り』

『ダウントン・アビー』

『名探偵ポワロ』(の一部)


『ゴスフォード・パーク』

『いつか晴れた日に』

『秘密の花園』の内部はいろいろと組み合わせたものだったと聞き及んでいますが、私が『ダウントン・アビー』の舞台となったハイクレア・カースルを訪問した際には、近くにいた外国人の方達がiPadでドラマのオープニングとその主題歌を流しながらシーンと風景を重ね合わせていたので、こうした舞台探訪の心理は万国共通と思います。

関連

今回は「再生しやすい」「メイドの日」の条件に合うもので絞りすぎたので、以下にいろいろとまとめている方も合わせてどうぞ。

個人的には『荊の城」が激推しなのですが、DVDも再販しておらず……

ただ、同作品を韓国を舞台に翻案した映画『お嬢さん』は配信されていますので、ミステリ要素を味わいたい方にはオススメしますが、先に原作を読んでほしいかな、とも思います。



この記事が参加している募集

私のイチオシ

いただいたサポートは、英国メイド研究や、そのイメージを広げる創作の支援情報の発信、同一領域の方への依頼などに使っていきます。