シンプルイズベスト

 雑味のあるものは情報量が多く含まれている。世界とは実に雑味で溢れた場所だ。私たちでは捉えきれない物質や感覚がたくさん存在する。だから楽しい。生きがいがある。

 コントロールできるものなんてほんのわずかだ。私が動かせるものなんて。しかし、ビリヤードである。私は私でない何かによって生まれ、都度あるいは初めから動かされている。押される球のごとく、自然に動いているはずなのだ。自然とは余計な介在物が存在しない状態。すなわち、そのままであること。だとすれば、私たちはみなそのままだ。そのままに生きている。

 あちらからこちらに押されるようにして感じ考え直観する。ただ、この仕組みはあまりに複雑で理解し切れない。だから、意志や偶然、運のように思える。そのようにスピノザは考えた。私たちは現象であると。

 この複雑さをそのままに捉えること。そこに自由はあるのだ、とも。シンプル、それは望ましく、美しいとされる。しかし、本来雑味で満ちた世界を単純化するだけでは、見えないものを増やしているだけだ。雑味をなるべく豊かに味わえるようになること、それがシンプルであるはずだ。少ない労力で多くのことを感じ、表現できるようになることである。

 それができる人は美しい。そう感じてしまう。自身が望ましいとしているあり方を、その人なりの方法で体現していること。シンプルイズベストとはこの謂いである。

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