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【裏話】「櫻の咲く頃に。」キャスト的な話

はじまり

現在絶賛配信公演中の「櫻の咲く頃に。-花灯/飛花-」を主催・制作しております、Until the DAWNの空閑暉です。
舞台の方は楽しんでいただけておりますでしょうか?
このnoteでは制作舞台の制作秘話や裏話など綴っていければと思っております。
もしお読み下さる方がいらっしゃいましたら、ネタバレも十分に含みますので
是非、舞台を見て頂いた後に読むといいかも知れません。
そしてさらにもう一度舞台を繰り返しご覧いただければ、また違った感想を抱くかもしれません。
文章を書くのは上手なわけではありませんが、フレーバーテキストのようなものと思って読んでいただけますと幸いです。

経験を積むということの大切さ

今回のキャスティングは、普段芝居を共にする信頼できる仲間を中心に
また、僕自身がボイストレーナーとして教えていた教え子にも数人出演してもらっています。
自分が制作に回り、演出をしたいという気持ちからのスタートではありましたが
その根幹には「芝居歴の浅い教え子にも舞台に立つという経験を」という思いがありました。

時は少しだけ遡り、数年前。
世の中はコロナ渦というエンターテイメントに厳しい時期真っただ中で
僕たち表現者は ‟舞台” という住処を殆ど奪われてしまいました。
予定していた朗読劇も、収録も、軒並み中止になり
今まで何度もお世話になった劇場など、何軒が廃業に追いやられてしまったかわかりません。
それでも何とか今の今まで生き延びて、ようやく少しずつ今までのように公演が出来る。
そうなった時に真っ先に思ったのが「若い子に経験を積ませてあげたい」でした。

僕の教え子は、みんな大体1年以上の付き合いがあります。
コロナ渦真っただ中に出会い、ずっと表現の勉強をしてきました。
1対1でのレッスンが主なので時間いっぱい個人を見ていられるのは大変大きなメリットなんですが
‟芝居” というものは、色んな役者と関わりあって初めて作り上げていくものです。
(一人芝居がしたいというわけではない限り。)
呼吸や滑舌の充分な基礎が整い始めたなら、色んな人と関わるのが次のステージでもあり
何よりも
「お客様に時間もお金も使って頂き、自分の表現を見てもらう事」
そして
「お客様から拍手を頂く事」
これらが生徒から‟役者”になるために必要だと、ずっと思っていました。
それを信用足るもう一人の主催に話し同意と快諾を得て、今回のキャスティングと相成ったわけです。
新人を起用するということは、主宰的な立場から見ると一種の博打でもあります。
吉と出るか凶と出るかは結果になってみないとわからない。
でも、僕自身あまり不安はありませんでした。
それだけの基礎や ‟役者” としての気持ちを持ってきてくれる子達だと信用していたし
その新人をしっかりと支えてくれる仲間たちだと信頼していたからです。
結果、本当にキャストのみんなが上手く噛み合ってくれて
これ以上ないほどの最高な舞台となりました。
新人は経験を積み、次のステージへ向かうきっかけにもなっているようですし
ベテラン勢は新人から学ぶこともたくさんあったんじゃないかと思います。
経験を積むということがいかに大切か、そういう場がいかに大切か。
そしてそれを作り上げるのは我々役者だけではない。
お客様あってこそなのだと、改めて思う次第です。

キャストそれぞれの話

ここからはキャストそれぞれのお話をしようかと思うのですが
この話に関しては「何故キャスティングになったか」であったり、
教え子の役者に関しては「先生として思う事」なんて言うのも書いていきます。
お客様が観劇しただけではわからない僕個人からの観点から書き記しますので
そういったものだと思って、裏側の一頁として目を通して頂けましたらと思います。

■伊多波樹奎さん

役:エリカ(花灯)

エリカ自身はギャルという特性を持ちながらも、実は未来組の中で一番の常識人でもあります。
人の気持ちの変化に気付くことが出来、ああ見えて空気を読むことが出来、
それでいて自分の気持ちは素直に出すことが出来ない不器用さがある、所謂「若者」。
実は忙しなくハートを動かしていなければならない役をやってもらったのには訳がありました。
僕が知り得る限りではありますが、伊多波さんのお芝居はまだまだ発展途上で特に感情を隠さずぶつけるという点においてたくさん学んでほしいと思うところがあったからです。
難しいことなんです「何も包み隠さず感情を表現する」って。
現代社会の一般においては一番必要とされないことが、役者にとっては一番必要とされたりする。
感情をセーブしてしまう、どこかでブレーキをかけてしまうということはお芝居を始めた人が必ずと言っていいほど対峙する一つの壁です。
まだまだその壁を壊せずにいる伊多波さんに、しっかりと挑戦してもらいたかったというのが大きな決定打の一つでした。
そして実際キャスティングの発表をされてからの彼女は、果敢にエリカという役にしがみついてくれました。
「エリカ、めちゃくちゃいい人なんですよね!」
台本片手に、僕に助言を求めに来た時に、彼女がそう言ってくれたことを覚えています。
その言葉を聞いたときに、僕のキャスティングは間違ってなかったんだなと確信しました。
エリカは決してただのギャルじゃない、文字面だけでは気付きにくい ‟行間” をちゃんと読んでくれている。感じてくれている。
それは伊多波さんの強みである「素直な感受性」。
アウトプットはまだまだ難しいけれど、インプットは人一倍力のある役者です。
今回の役できっと一つ、殻を破いてくれたんじゃないかと僕は思っています。

■一和多良美さん

役:日向葵(花灯・飛花)

彼女は本当に明るく、いつでも現場に花を咲かせる「向日葵」のような人柄です。
今回のキャスティングも迷わず葵をやって頂きました。
本編を見て下さった方ならわかると思いますが、葵は吉野の浮気相手です。
公演によってはその浮気が悪意のあるものか、はたまた企てのあるものかにの違いがありますが
そういった「人に誇れるものではない汚れた部分」を持った役でした。
しかし、その根底にあるのは明るさである事。
これを維持したまま、悪意や企てを表現するのはとても難しかったと思います。
特に彼女の最大の武器である「高音」と「歌うような芝居」に関しては
今回のキャラクターとは幾分相性が悪い。
それを認識したうえで、あえてキャスティングさせて頂きました。
彼女なら出来るという確信と信頼があったからです。
彼女の台本は人一倍書き込みが多いことを僕は知っています。
それだけ色々な表現の可能性を、自分にできる最大限を考え模索してくれているからだと思います。
書き込み量が多いことが「正解」というわけではありませんが、彼女のそれは僕の中で「正解」だと思っています。
結果、今回の舞台ではいつもより低い音を使い、ナチュラルに近い芝居の仕方を手に入れてくれていた。
それが彼女の新しい武器となって、どんどん実力をつけていってくれるでしょう。

■小島朋親さん(Plot act color)

役:ジーニア(花灯・飛花)

小島くんは普段「Plot act color」という団体の代表を務めていて、
僕自身は役者として使って頂くことが数多く、大変お世話になっている方の一人です。
ただ、主催というものはとても多くの仕事があり、とてもじゃないですがおいそれとは舞台に立つことは出来ません。
小島くんもやはりその一人で、あまり自身の団体でたっぷりとプレイヤー側に回るということはしていない。
それが常々もったいないなと思っており、今回純粋なプレイヤー側としてキャスティングさせてもらった…という背景があります。
彼自身はとても不器用な生き方をするなぁと思っているのですが、芝居では逆にとても器用で、正直キャスティングは宇津城と迷った部分がありました。
キャスティングの決定打は「どちらが小島くん自身から遠いか」でした。
芝居歴は長いベテラン勢ですし、どれだけ出来るかというのはよくよく知っている間柄です。
だからこそ「役についていかに悩めるか」を考えて選ばせてもらいました。
花灯では、恰好ばかりつけて後ろ向きに悩み隠そうとする不器用な大人を。
飛花では、ストレートに男らしい包容力と勇気のある大人を。
同じ役であり全く違う境遇をしっかり自分のペースで噛み砕いてもらえたと思います。
稽古中、何度も眉根を寄せて悩む姿を見ていましたが
こうして役についてたくさん悩める時間も、僕は必要だと思っています。
この苦悩を乗り越えてこそ得られるものは確かにあるのだから。
ちなみに共演者に少女漫画を借りて読んだりしながら役の見解を深めていたようですよ。

■柴田透さん

役:吉野陵(飛花)

柴田くんは生徒の一人でもあるのですが、とても個性的な演者の一人です。
ご本人自身が大変いいひとであるが故に「吉野をいいひと(?)にしたら面白いな」と思い、
飛花の吉野が気弱なタイプになりました。
半分あてがきと言っても過言ではないかもしれません。
キャラクター性としても、Wキャストという点においても、違いが一番色濃く出たのは吉野だったと思います。
柴田くんにも「感情を大きく出す」という課題が僕の中でありました。
そして「演じているのは自分自身ではなくキャラクターである」ということを学ぶのももう一つの課題でした。
正直なところ、最初の稽古ではかなり不安が大きかったのですが
柴田くんのすごいところは、確実に一歩一歩掴んでくれるというところです。
稽古を重ねていけばいくほど、感情を表に出すことにも挑戦し始め
キャラクターであるということもしっかりとわかるお芝居に変わっていきました。心配や不安は杞憂でしたね。
悩むことも多かったと思いますが、常に楽しそうに稽古を重ねてくれていたのが少し意外で印象的でした。
楽しむことは一番の成長に繋がると思っているので、こうして楽しみながらも進んでいってくれる姿勢は先生という立場からも大変嬉しかったです。

■鈴懸大和さん

役:宇津城智人(飛花)

実は大和くんとは今回初めてしっかりとお仕事をさせて頂きました。
同じ舞台でご一緒したことがあったのですが、班が違ったので掠りも絡みもしなかったんですよね…!
今回、色々な舞台と掛け持ちしていらっしゃって中々役に集中するのも難しかったかと思うんですがしっかりと宇津城を演じてくれました。
実は僕の中では宇津城はどちらかというと陰気というか、光か闇かでいうと闇側のキャラクターを想定していました。
それも、飛花の宇津城は作中にも後ろ向きな台詞があったりするんですが
それを上手い具合に光側に持っていってくれました。
特にラストのラスト、独り言のところは「こんなにも明るくなるのか」と思うほどいい男を演じてくれました。
あの部分であそこまでいい男でいてくれたおかげで、飛花自体のエンディングが悲しいものにならなかったのだと思います。
お芝居の方向性も、主役格でありバランサータイプで
他の役者さんたちとのバランスをしっかりととりつつも、自身が埋もれたり隠れたりすることはない。
実力をしっかり兼ね備えた役者さんでした、安心して宇津城を任せられましたね。
稽古中、たまぁにアニメ銀〇のぎ〇さんが出てくるのが最高に面白かったです(舞台では禁じましたけどね!)

■髙夏有未さん(レイ・グローエンタテインメント)

役:エリカ(飛花)

髙夏さんも「しっかりと感情表現が出来る事」を課題としていました。
今は映像のお芝居を主にやられていらっしゃるので、お芝居の仕方が映像寄りになっているところがあるのです。
決してそれが悪いことではないのですが、本人が声優としても芝居が出来るようになりたいとおっしゃっていたので
そういう経緯もあり、エリカのキャスティングとなりました。
エリカはギャルという口調もあり、誇張して話さなければならないキャラでもあります。
特に前半はキャラを作っているような、後半は気持ちの溢れるままに言葉をぶつけるという見せ場もあります。
ぶつける相手が飛花ではヤエになるので、気持ちの持って行き方や立場が花灯と比べると全然違ってきます。
花灯では伊多波さんがしっかりと「先生に対して気持ちをぶつける生徒」を演じてくれましたが
髙夏さんは「弟のような同級生に気持ちをぶつける女の子」をしっかりと咀嚼してくれていました。
エリカも違いが大きく出る役どころで、飛花のエリカの方が賢いだろうという演出になったのも
髙夏さんが演じてくれたが故に変わったところでした。

■髙橋玖瑠美さん

役:英芽依(花灯・飛花)

英役は迷わず髙橋さんにお願いしました。
理由の一つは「普段出す声が恐怖を演出しやすい音使いだから」という事。
もう一つは「ただ純粋な役もやれるようになること」という課題からです。
狂気、恐怖の芝居が出来ることは一つの武器ではありますが
その武器ひとつだけで戦っていくのはとても難しい。
なので普段あまり触れないであろう、純粋無垢なお嬢様を演じてもらいました。
花灯は純粋無垢な被害者を、飛花では狂気を内包した加害者を。
その差を出すのは本当に大変だったと思います。
実際、稽古中もとてもとても悩んで本当に苦しい時期を過ごしていたのを見ています。
その姿を見ていても、助けてあげられないのは演出の辛いところですね。
悩むことは本当に大事で、すぐには答えは出ないかもしれません。
演出で伝える言葉も理解できないことや、分っていても表現まで繋がらないことも多々あります。
そこでしっかり悩んで悩んで苦しい思いをして、やがてどこかでハッと気付くものなんです。
今回の悩みもまたいつか、未来の髙橋さんが今回のことを思い返したとき「ああ、そういう事だったんだ」と思う日が来ると信じています。
本当によく頑張ってくれました。

■竹内瑞希さん(Plot act color)

役:犀木かな(花灯)/ ヤエ(飛花)

竹内さんは普段僕自身がお世話になっている「Plot act color」に所属の役者さんです。
今回は無理を言って、シングルキャストなのに役を変えるという無茶をお願いしました。
キャスト選考視点で犀木もヤエもどちらも見たい(同じく役を交代する遠藤さんも同じく)と思ってしまい
甲乙つけられなかったので二役をお願いする形になりました。
彼女の泣きの演技と言いますか、キャラクター的に「不安定でいて、それでも確固たる芯がある」という表現がとても好きで
今回はどちらの役も、そういった立ち位置だったかと思います。
それは勿論見事に本番でも発揮され、犀木やヤエの言葉や態度に共感した方も多かったんじゃないかなと思います。
とても真剣に役と向き合ってくれるのですが、それこそ鏡のような構築の仕方なんですよね。
彼女の前には大きな鏡があって、もちろん彼女自身が映っているわけですが
その虚像が稽古を経てだんだんとキャラクターになってくる…そんなイメージです。
普段はあまりそう言った面を見せない彼女ですが、かなりストイックなタイプだなぁと感じております。
だからこそ、犀木やヤエの「自分一人で何とかしてしまおうとする」といった部分が際立って表現されていたのではないかな…と。
劇場でも感化されて涙するお客様もいたくらいでした。

■沼倉章子さん

役:カスミ(花灯・飛花)

僕が個人的に元気な芝居をする沼ちゃんが好きなので、カスミは迷わず沼倉さんにお願いしました。
良く絡むエリカ役がルーキー組だったこともあったので、沼ちゃん自身のお芝居の安定さを信頼してキャスティングしました。
カスミは劇中では明確に表現されていない設定がいくつもあるのですが
沼ちゃんにはそれを説明する必要も全くないほど、とても明るく元気なカスミを演じてくれました。
特に暗くなりがちな未来組において、常に周りを照らすような子で
良くも悪くも場を掻きまわすような役割のキャラクターでした。
緩和剤として、そして起爆剤として。しっかり両立してくれていました。
それもこれも、ご本人に面白い二面性のようなものがあるからかもしれません。
楽しく明るく盛り上げてくれるような一面もあれば、冷静に場を分析する面も持っている。
稽古中にもそんな場面を何度か目にしておりました。
そういった性格があって、カスミの複雑な役割をしっかりと演じられたのかなと思います。

■松本春樹さん

役:吉野陵(花灯)

今回春樹に吉野をキャスティングしたのは「気持ち悪い春樹を見たかったから」に他なりません。悪い意味じゃないです!
前にも舞台を主催させて頂いたとき、キャスティングしたのはクールで心優しいキャラクターでした。
彼自身の声質もあってか、割と正統派といいますか…
良い人の役であったり、正義側のキャラクターを演じていることが多いイメージがあったんです。
故に、正義ではない春樹を見てみたかった。
特に花灯の吉野は純粋な下衆です。悪役というわけではなく、下衆。
お客様に愛されるようなキャラクターではありませんが、吉野がいないことには話は進みません。
どこまで突き詰められるか。どこまで嫌われ者になれるか。
その思い切りが見てみたかったのですが、とっても最高に気持ち悪く演じてくれました。誉め言葉です!!
花灯を見た人の大半は、吉野に怒りや嫌悪感を覚えたんじゃないでしょうか。
それだけ、春樹が突き詰めてくれていたということに他ならない。最高でした。
毒を盛られて膝をついているシーンも大変いい表情をしているので、改めて見てみて下さい。

■御影さん

役:宇津城智人(花灯)

御影くんはキャスティング前の声掛けから、割と早い段階でお呼びしたいなと思っていたキャストの一人でした。
僕が個人的に好きな声なんですよね。
舞台の後にも別所でお仕事ご一緒させてもらって、改めて思ったんですが
彼は「主人公」側の声の持ち主だと思っています。
所謂イケメン声であり、技術もしっかりと持っている。
そして良くも悪くも型にはまっていることが多い。
もっとはっちゃけてもいいのに、もっとハメ外したっていいのに(お芝居の上で)
そういう姿を引き出したくて、自由度の高い花灯の宇津城をお任せしました。
大和くんの宇津城とは外す場所が違っていたり、思わぬところで面白いものを持ってきてくれたりと
まだまだ爪を隠してる役者なんだなぁと思いました。
気持ちを爆発させたり、ストレートに包み隠さず表現することは苦手そうなので
今後はそういった役にもチャレンジしてほしいなとも思います。
とはいえ今回の、犀木さんとの喫茶店のやり取りは大変良い絞り出し方をしてくれてたので、その辺り注目してみてくださいね。
本が売れた報告をした後に犀木に手伝いをお願いされてついていくときの「さ、犀木さぁ~ん…」はお気に入りです。

■遠藤まりえさん
(INSPION エージェンシー/Einsatz Konzert association)

役:ヤエ(花灯)犀木かな(飛花)

遠藤さんにはまず、主催関係で大きくお世話になりました。
今回の舞台は二人主催だったので、本当に数多くのお仕事をやって頂き本当に感謝です。
その上で、最初から配役するという形で話が進んでいたのですが
キャスティングにおいて妥協は一切したくなかったので
遠藤さんには竹内さんと同じく、シングルキャストなのに役を入れ替えるということをやってもらいました。
器用な彼女なので大抵の役がこなせることも僕は知っていて、その中でも
「繊細・華奢・ヒロイン枠」という役どころはあまり触れてこなかったところなのかなと。
出来るのは分かってるんですが、本人があまりやりたがらないというのもあって。
ヤエくんに関しては不意に出てしまう遠藤さん自身の核たる強さをいかに弱めることができるかが目標でした。
隠した中に一つ筋のある子ではあったけれど、それが前面に出てしまってはいけないキャラクターだったので
ヤエくんをやる上では結構な我慢(忍耐?)が必要だったんじゃないかと思います。
犀木に関しては「ザ・ヒロイン」のために、わざとらしくないあざとさをかなり演出しました。遠藤さんがヒィヒィ言ってたのをよく覚えています。
時に二度繰り返すセリフや、振り向いてはにかむ姿は可憐でとっても可愛かったですね。
今後もたくさんチャレンジしていってもらいたい所です。

■白井翔太さん(Until the DAWN)

役:丁字元晴、謎の男(花灯・飛花)

白井さんはもう10年以上の仲なので、何ができるか何が不得意かはなんとなく把握しておりますし
いつでも、彼をキャスティングする時は「今一番脆い部分、弱い部分、強化しなければいけない部分」を念頭に置いて配役することが多いです。
今回に関しては「主軸」という役割に重きを置きました。
もともと丁字自体が半分ほど白井さんを想定して書かれていたということももちろんありましたが、
物語というものの中心に立ち、軸の役割を果たすことがそろそろ出来ていい芸歴でもあるので、それが目的でもありました。
振り回される側でもあり、振り回す側もある丁字は、キャラクターそのものがとても不安定で掴みどころが難しいキャラだったと思います。
花灯にしても飛花にしても、一番真意を隠して話していたのは丁字だったかもしれません。
その芝居をどのくらいお客様にバラすか、完全に隠してしまってもダメだしおおっぴろげてもいけない。
塩梅が言葉一つ音一つで変わってしまう繊細な芝居が必要でした。
本人が繊細な割に芝居はちょっと粗削りな部分があるので、その強化が今回少しできたかなと思っています。
ちなみに物語冒頭の謎の男に関しては、実は僕と彼とが初めて作った作品のキャラクターを再度出演させています。
10年以上前のキャラクターをちゃんと聞き返したりしたそうです。

□柑まあちさん(ゲストVtuber)

役:管理AI SAKURA(花灯)

柑まあちさんは可愛らしい伊予訛りVtuberさんで、ご本人も声優のお仕事をされています。
今回、主催で話し合っている段階で「まあちちゃんにお声掛けして、本編に出てもらおうか」という提案がすぐに上がってきました。
管理AIはロボット(システム)であり、本来なら無機質な声が想定されやすい所なのですが
実はこの管理AI、とても人間を愛しているんです。
なので温かみのある声を求めて、まあちさんに辿り付きました。
普段のはつらつとした元気さは少し抑えてもらって、聞き方によっては冷たくも聞こえるようにお願いしました。
それが変わる瞬間があるんですが、どこだか気付いてもらえましたかね?
改めて探してもらえると楽しいかもしれませんね。

□宵乃御影さん(ゲストVtuber)

役:管理AI SAKURA(飛花)

宵乃くんの管理AIもすぐにお声掛けが決まりまして、前枠後枠もものすごい速さで応えて頂けました。
まあちさんとは違う声自身の優しさであったり、柔らかさであったり。
やはり無機質からはかけ離れた「Vtuber」だからこそ出せる声で彩ってもらいました。
花灯・飛花同じく管理AIの口調が明確に変わるところがあるのですが
宵乃くんの方はそれが実に人間味あふれているAIでした。
まあちさんが人間の母親とすれば、宵乃くんは親しい友人のような差がありました。
その違いも両方を見比べる時には感じてもらえたら嬉しいです。

配信公演、残り数日

つらつらと全員分書くのに一カ月かかってしまいました。
そんなこんなで28日の配信公演終了まで残り数日。
ぜひ、皆様には最後の最後まで楽しんで頂ければと思っております。

お芝居というのは不思議なもので、お客様にお届けできるのは基本一瞬です。
舞台であれば1本だいたい90分前後。
今回はそのお芝居を2日で1回ずつ。
初日を終えればもう翌日は千穐楽。
そんな一瞬の為に、何カ月もかけて稽古を積み重ねていきます。
役に悩んで本当に苦しい時間を過ごすことも、とにかく楽しくて仕方がないという時間になることもそれぞれありながら
お客様に楽しんでもらいたい、その気持ちで積み重ねていきます。

そして、この公演が
同じキャストで、同じ熱量で、同じクオリティで
「同じ」で再演されることは絶対にありません。

たとえ同じ絵の具を混ぜて色を作り出しても、まったく同じ色が出来ないように
今回のこの公演は、どんなに頑張ったとしても同じものを作ることは不可能です。
そんな果敢無い一瞬を、全力でお届けしています。
桜の花びらが散るように、皆様の心に残せるのは一瞬の出来事かも知れませんが
「ああ綺麗だな」「素敵だったな」そう思ってもらえるように。
あるいは「また見にこようぜ、櫻の咲く頃に。」と
そう思って頂けていれば、とても幸せです。

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