都島工業学校の生徒作品④-地域のお宝さがし-36

所在地:〒534-0015 大阪市都島区善源寺町1-5-64

■卒業設計■
●公会堂(作者福永 昇、図集20~22)
平面図(2階平面、図1)を見ると、左側の「大集会場」棟と右側の「小集会場」「大衆食堂」棟が「歩廊」で連結されています。大集会場の入口は、客席両脇の「スロープ1階床ニ至ル」の記述から2階、小集会場は、「小集会場上部」の記述から1階にあることが窺えます。

図1

図1

外観は、中央部のガラスと時計が設置されたコンクリート壁面の左右は、ピロティとポツ窓で構成され、陸屋根と1階庇による水平線が強調されています(図2)。

図2

図2

この、中央部の壁面と左右のポツ窓・1階の庇などによる構成は、「大阪駅」(図3(注1)、昭和15年)を想起させます。

●湖畔ホテル(作者森脇秀樹、図集23~25)
平面図(図4)を見ると、扇形の庇で形成された「車寄」「ロビー」を中心に、左側に宿泊棟(4階)、右側に「宴会場」などが配されています。

図4

図4

図5

図5

外観は、陸屋根・ポツ窓と連続窓・外部階段の形態などから、インターナショナル・スタイルによるデザインであることが窺えます(図5)。この窓と庇の構成は、「高師附属小学校」(図6(注2)、昭和5年)を想起させます。同小学校は、関東大震災の後に建設された復興小学校で、インターナショナル・スタイルによる設計です。

図6

図6

注1)井上章一『アートキッチュ・ジャパネスク』(青土社、1987年)
 2)松葉一清『帝都復興せり!』(平凡社、1988年)

■平常課題■
●中流住宅(作者石橋久雄、図集33~34)
都島工業では、5年生の1学期に洋式、2学期に和式住宅の設計が課せられています(注3)。当時の住宅は、居住者の生活程度、社会的地位、家族構成などによって、①最小、②普通、③中流、④高級、⑤最高級に分類できるといいます。中流住宅の所要室には、普通住宅の所要室(応接兼客間、居間、茶の間、台所、浴室、押入、物置、玄関など)に加えて、書斎、子供室、納戸、化粧室、女中室、表玄関、裏玄関、上・下便所などが掲げられています(注4)。


平面図(図7)を見ると、ほぼ矩形の敷地の南西部に門扉が設けられ、西端の玄関に面する「応接室書斎」「女中室」、それに隣接する「居間」「食堂」(パブリックスペース)によって、客と家族の空間が明確に分けられています。「居間」の東側には、「主婦室」「寝室」「老人室」(プライベートスペース)、北側の廊下を隔てて、「台所」「浴室」などの水廻りが配されています。プライベートスペースは、南に縁側、北に廊下が設けられ、主婦室は居間と縁側、寝室は主婦室・廊下・縁側から使用できるなど、空間の融通性も確保されています。さらに、東端の老人室は便所にも近く、「サンルーム」によって一段奥まった位置とするなど、独立性を工夫した配置となっています。2階には、「客室」と「子供勉強室」が配されていますが、1階の応接を考慮すると、この「客室」は宿泊室として機能することが分かります。


「庭園」を見ると、「居間」の南側にテラスやパーゴラが設けられ、当時の住宅の特徴をよく示していると思われます。

図7

図7

外観は、屋根の瓦はスパニッシュ瓦、腰板は横羽目板張り、丸窓が設けられ、和風のプロポーションを示しながらも、モダンな感じを受けることから(図8)、洋式住宅と判断され、5年生の1学期の課題であったと推定されます。

図8

図8

注3)『卒業設計図集』(昭和6年度)「序言」
 4)渋谷五郎・長尾勝馬著『新版日本建築下巻』(学芸出版社、1979年)、なお旧版は昭和15年に出版されている。

■閑話休題■
『図集』に収録された卒業設計・平常課題のうち、気になる作品の印象などを紹介しました。こうしてみると、平面や立面などの計画において、コルビュジェやバウハウスにおけるデザインの傾向などが敏感に取り入れられていることが窺え、当時の世界的な建築界の潮流が工業学校の生徒達にも届いていることが分かります。どの作品も、設計に取り組む生徒の真摯な姿勢がよく感じられ、資料を集め、作品を研究し、その成果を設計作品としてまとめた努力に敬意を払いたいと思います。


一方で、この時期に行われた設計競技の応募作品に多く見られる、鉄筋コンクリート造の伝統建築、所謂帝冠様式による作品が見られません。『卒業設計図集』(昭和6年度)の生徒作品の「構造様式」を見ると、「近代式」「近代自由型」「日本味を加せる東洋趣味」「日本趣味を基調とする和洋折衷」「近代式にライト派を加味」「英国風、一部純日本式」など、当時流行の意匠を取り入れていることが分かります。作品選定の過程において、外されたでのしょうか。残念です。

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