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あの日本当にタイムカプセルを埋めたのか?【6】

【これまでのあらすじ】
小説家の佐倉真人さくらまことは、小学6年(1993年)の時に学校の中庭にうめたタイムカプセルのことをふと思い出した。しかし具体的な内容が思い出せない。かつてのクラスメイトにタイムカプセルのことを訊ねていくうちに、真人は自分の記憶がところどころ欠如していることに気が付く…

みんなが覚えているというタイムカプセルや人気の女教師だった、さくら先生の記憶…その記憶を取り戻そうとする真人の元に、年下のヒデキから一通の手紙が届いた。そこに書かれていた内容とは…

最初から読む/マガジン→あの日本当にタイムカプセルを埋めたのか?


2021年―オレ、40歳。タクシー内。


ヒデキの手紙はまだ続く……

当時の状況を知っている人の話を聴いた結果、意外なことがわかってきました。

それは、さくら先生がつきあっていたらしいという恋人のことです。

真人さんも、すこしはその存在に気が付いていたんじゃないんでしょうか?

mixiで書いていた「タイムカプセル」…あの先生はさくら先生がモデルじゃないかとオレも思っていたんですが、あの先生にも恋人いましたよね。

もう一人のオレ=小説家・桜真実さくらまさみが書いた【タイムカプセル】という小説。【さくら先生】とオレのことをモデルにしている……と恵くんにも指摘されていた。

小説はmixiで今も読めるので、オレも再読してみた。

作品には【ヨシノ先生】という女性が登場する。先生が「結婚して好きな人のお嫁さんになりたい」と主人公男児の前でぽろっと本音をこぼしているシーンがあった。

あまりにも古い作品なので自分の書いたものではないような感覚があったが……自分で読んでみてわかった。確かに”モデル”がいる時の書き方をしていた。

【さくら先生】がオレに対してそんな話を実際にしたことがあったのか…それともラブホテルから出てきた【さくら先生】をどうにか理由づけるために「ちゃんと将来を約束している恋人と出てきた」と、無意識に彼女を正当化したかったのか…?

頭の中でまとまらない考えをこねくり回しながら、ヒデキの手紙を読み進める。

オレはさくら先生が失踪する前・1993年の足取りを追いました……当時、さくら先生の住んでいたアパートに行き、近所の人の話をきいたのですが、さくら先生のもとを訪問したり、送り届ける人がいたそうです。夜22時くらいにワンボックスカーがよくアパートの前に来ていた。が、1994年以降はパタッと来なくなったと。

オレは、その人がさくら先生の失踪の原因だと思いました。

そして、学校をやめることになった原因でもあったと、思います。

前述のとおり、さくら先生は、タイムカプセルの実行委員の一人だったので、実行委員の先生方に話を聴けば、何かわかるかもしれないと思い、タイムカプセルを探し始めためくるさんにお願いして、あちこち同行したんです。

夜の小学校に行ったとき、めくるさんもいってましたが、実行委員の先生は6人…2人はもう亡くなっていました。連絡とれたのは2人、連絡とれないのも2人。主導権握ってたのはサワダ先生だった。

オレは一番情報を持っていそうなサワダ先生と話がしてみたかったけれどサワダ先生の連絡先を特定することはできなかった。オレ、サワダ先生の元奥さんに事情を話して、いそうなところに心当たりがないか再度尋ねてみたら、こういわれたんです。

『どこか、若い女の家にでもいるんじゃないんですか』と

…2000年に離婚したそうなんですが……どうやら、サワダ先生、昔から…同じ学校の先生に手を付ける悪癖があったらしく、これまでもいくつかの学校でそういうことが幾度もあったそうなんですね。もちろん、1990年代にも。

それ以上詳しいことが聴けなかったんですが、元奥さんは、話をしている最中にサワダ先生の友人だったという男性のことを思い出し、連絡先を教えてくれました。そしてその男性に経緯を話したところ……同封した新聞記事の内容にぶち当たったというわけです。

新聞には名前が出てないけど……
54歳男性っていうのは、真人さんの担任だった、サワダ先生なんだそうです。

オレは驚いた。
【さくら先生】だけなく【サワダ先生】も失踪?

友人の男性によると何やら、昔の仕事の内容で悩んでいた様子だったらしく、行方不明になる直前は常に落ち着きがなかったと、聴きました。

ここまで情報を追い続けて、オレが聴いて回ったそれぞれの情報をつなぎ合わせた結果、一つの仮説が浮かびました。

さくら先生が大好きだったオレにとって、そしてマコトさんにとって、とても残酷で、非情な内容となりますが…

最後に書かれた言葉をみてオレは一瞬気を失いそうになった。

さくら先生とサワダ先生は
人目に触れてはいけない、赦されざる関係だったのではないでしょうか。


そして二人の間に、なにか事件が起きたのだと思います。

そして、その文章を読んだ瞬間
オレがずっと思い出せなかった【さくら先生】の笑顔が、脳裏に浮かんだ!

「うううううっ!」

オレは前かがみになった。

激しい頭痛で、吐きそうだ。

でも吐き出すものはない。

肚から憎悪と悲しみが上がってくる、そんな感覚だ。

「お客様!?大丈夫ですか!?ちょっと車、寄せて止めますね!」

タクシーの運転手が、オレの様子にびっくりして気を遣ってくれる。

「病院行きましょうか?大丈夫ですか?」
「すみません……大丈夫です……びっくりさせちゃってすみません。落ち着かせますから……大丈夫……」

寒気がして、変な汗が出ている。

オレがずっと思い出せなかった【さくら先生】の姿。いまオレの瞼の裏に、はっきり映っていた。


その姿……なんて美しいんだろう……夕日の図書館で楽しく語り合ったあの日々……ときめく胸の高鳴り……思い出が堰を切ったようによみがえる。

あれだけ懸命に思い出そうとしても思い出せなかった場面が、フラッシュバックする。

そして……隆夫と、紫陽花公園で遭遇した夏の日の出来事も。


すべて思い出した。




あの日、あの時、【さくら先生】はたしかにあのラブホテルから出てきた。




そして、【さくら先生】の隣にいた男……


【サワダ先生】だった。



【さくら先生】がそんなことをする女性だと認めたくない。


相手は自分の担任……ましてや既婚者……白昼堂々……


自分が心底あこがれていた女性が、
そんなふしだらな女性だったと認めたくない!


あの日の真人少年は、そう思って、記憶を消し去った。


……真相は、そういうことなのだろう。



オレは顔を手で覆う。嗚咽が止まらなかった。タクシーの運転手に多大な心配をかけてしまったが、そのまま事務所まで送り届けてもらった。

◇   ◇   ◇

2021年―オレ、40歳。事務所にて。


事務所に戻ったはいいが、こんな心境で仕事など、できない。

いや、過去のことではないか。子供のころのなんて事のない出来事だ。そう自分に言い聞かせてはみたが、心はさざめき、落ち着かない。
真っ暗な事務所の中、長い時間、ひとり机に突っ伏して、頭痛と戦いながらまとまらない考えを整理しようとしていた。

どれくらい時間がたったのかもわからない。ふと、頭痛が止んだ。

(そうだ、隆夫……)

頭の中に、隆夫のことが浮かんだ。

オレがこの記憶を持っているということは、隆夫もあの場面をしっかり目撃したということになる。しかし、札幌であいつはその事実を言わなかった。その男が誰か、一目瞭然だったはずなのに。オレに気を遣って……知っていたのに言わなかったということなのか?

隆夫と話がしたい。

時計を見た。

深夜3時を回っていた。

もう眠っているだろうと思いつつ、オレは電話をかけた。

2コールで電話がつながる。

「真人?!こんな夜中にどうした?!」

オレは普段、隆夫にめったなことでは電話をしない。だからびっくりしたのだろう。隆夫の声が上ずっていた。

「オレ、思い出してしまった」
「ん…?何を?」
「……さくら先生のこと」
「えっ?」
「ヒデキから手紙をもらって……それで…オレ」
「待て。落ち着いて話してくれ」

激しい胸の痛み。
息が荒くなる。

オレはとにかく隆夫に話を聴いてもらいたかった。

(つづく)

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