CoCやエモクロアの人気の理由からうちの卓に足りないものを考える
CoCやエモクロアに人気の理由を考えて、自分の卓に足りないものは何かっていう自省の記事です。
重ねて本編中言ってますが、批判とか非難したい記事とかじゃないです。
筆者は先日、TRPGコミュニティにおいてマイナーシステムユーザーとして、「サポートを充実させて人を確保する」という記事を書いた。
そもそもなぜあのような記事を書いたかと言えば、自分の卓に人が集まらない苦悩からだ。似たような境遇のGMがいるから参考になればという理由もあるが、最も大きな理由は自分のいまの感情整理や手持ちの持ち味を確認するためでもある。
0からスタートする気持ちで、シナリオの根っこである物語から見直そうと技術書も一冊読み終えた。ほかにも画像素材を作るためのソフトや素材サイトも教わった。やるべきことは多いが、ちょっとずつスキルアップできている。
だがすべての弱点を克服したとしてもCoC、エモクロアという巨大な壁には届かないだろう。
なぜ流行っているのか、なぜユーザーがこれほど多いのかを、自分なりに考えてみた。
よく遊ぶ方たちがエモクロアやCoCの動画から入った人たちなので、どうしたらより他システムでも楽しんでもらえるだろうと考えた。
結果見えてきたのは自分の未熟さだった。
至った結論としては、「メジャーシステムとそれ以外には大きなギャップがいくつもあり、逆にメジャーシステムには大きな求心力と遊ぶ理由がある」。
身もふたもない言い方をすれば「それCoC(エモクロア)で良くね?」という結論だ。
メジャーシステムから入った人が、それ以外へ移るには少々どころではない障害が多すぎると思い、この結論へ至った。
筆者は持っているどのシステムも好きだ。素晴らしいものだと思っている。だが、数えきれないほどある魅力を伝えるには、筆者の技量があまりに足りなかった。
なぜ敷衍しているのか、どうやったらプレイしてもらえるのか(彼らにあって自分にないものはなにか)の記事だ。
あくまでも優劣の話ではない。筆者は多少システムを持っているが、どのシステムはどれも大切なものだ。そこに優劣はないと筆者は思っている。
だがそれはあくまでシステムを知っている側の話だ。
CoCやエモクロアから入り、それをメインに遊んでいる人たちにとって、何がハードルになるのか、という記事だ。ひいてはなぜあれらは遊ばれているのかということでもある。
あらかじめ断っておくが、なにか批判をしたいわけではない。
どのシステムにも特徴があり魅力がある。
だが、CoCやエモクロアは特に遊ばれている。なぜそこまで触れやすいのか、どうやれば自分の卓も遊びやすいと思ってもらえるのかというのを、彼らの人気から紐解いていく記事だ。
考えれば考えるほど敵わないなぁとはなるが、同時に彼らがすごいということでもあるのだ。
CoCエモクロア圧倒的な知名度(人気)
日本においてTRPGはイコールでCoCかエモクロアになるだろう。少なくとも、動画や配信などの動画サイトやSNSをよくにぎわせるのはこの二つだろう。
この2つは絶大な人気と知名度を誇る。
YouTubeの動画から入るといった新規層はTRPG=CoCまたはエモクロアと思うのも仕方ないほど、配信や動画の本数は多い。
裏を返せば、ソードワールドやダブルクロスでさえ知名度や人気、動画の本数では見劣りする。
無論、ソードワールドやダブルクロスは今でもかなり人気なシステムであり、決して負けているとは思わない。
が、昨今の新規ユーザーから見れば、これらのシステムすらマイナーシステムであろう。
そもそも、TRPGが特殊な遊びである。よほどではない限りTRPGは動画から知るだろう。
友人から、実プレイからという人はこのネット時代少ない。筆者も始まりは動画だった。
CoCは以前より人気の高い=動画や配信の多いシステムだった。CoCフォロワー(だと筆者は思っている)のエモクロアもそうなるのは必然と言えよう。
ここで一度数字としてシステムの人気度合いを確認する。
TRPG専門SNSオンセン様ではやりたいシステムランキングが載っているが当然トップ3には新旧CoCが入る。新旧CoC人気とTOP10位入りしている他システムの人気を合計が等しくなる程度には人気がある(SWは2.0と2.5で重複しているので片方は省いた)。
エモクロアはランキングとしてはもう少し下位に存在するが、ここでは一旦割愛する。それでも16位と高くはあるのだが。
やりたいランキングとは別に一番やりたいランキングもあるが、これではより一層CoC寡占が進んでいる。
一番やりたいランキングでは、3位のシノビガミでさえ新旧CoCの人気の1/10になる。時点でポイントの多い国産システムはSW2.0だが、こちらだと新旧CoCと比較して1/15程度になる。
エモクロアは一番やりたいではSWよりも人気が高い。
この知名度と人気こそ、第一のCoCエモクロアの武器であり、当然動画の本数も他システムよりはるかに多くなる。当然TRPG=CoC(あるいはエモクロア)という人も多くなる。
動画から入ったCoC(エモクロア)プレイヤーと言葉にするだけならただの経歴なのだが、これだけ寡占状況にある中TRPGに興味を持ったプレイヤーだ。必然的に新規ユーザーの興味のあるシステムはCoCエモクロアになる。
それだけなら良かったのだが、良くも悪くもCoCエモクロアは他システムと比べてあまりにもシステム的にもギャップがある。
他システムからCoCに入るのは簡単だが、逆は難しくなる。
判定や処理(システム)、需要、シナリオ…あらゆる面でガラパゴス化していると筆者は考えている。
CoCエモクロアユーザーにとって、そして彼らと遊ぶにあたって次いで問題になるのがシステム…つまりは判定や処理の部分だ。
圧倒的にシンプルな判定と人間の行うあらゆる行動を再現した技能
CoCとCoCフォロワーである(少なくとも筆者はそう考えている)エモクロアは技能を参照し出目がそれ以下なら成功という下方判定を採用している。
昨今はそうでもないが、基本的に下方判定は珍しい。成功確率はおおよそ百分率で表され、非常に直感的だ。
エモクロアは百分率ともまた違って少し手間のかかる判定だが、下方判定のわかりやすさを引き継いでいる。
この下方判定は分かりやすいが、他システムで人を呼び込むにあたり大問題となる。判定がわかり易すぎるため他システムの判定=上方判定がまず難しいのだ。判定、それだけで足かせになる。
2D6の期待値を言えないユーザーもいる。確率がどうのとかそういう話でなく問題は、百分率の前ではそれ以外全てが直感的ではないということだ。
戦闘系システムと比べてデータの量や向き、セッションの傾向が違うなどもあるだろうが、2D6がまず難しいのだ。
そのうえでたいていのシステムが備えている戦闘も厄介だ。
CoCやエモクロアにはそこまで明るくないが、数度遊ばせてもらった感じでは、手番が来たらいくつかの選択肢が提示され、対応した技能で判定を行うのみというのが多い。
例えば「パンチで攻撃ができます、当たったら~~のダメージです」といった具合だ。それで十分なのだ。
逆に他システムの戦闘は、上記のような戦闘しかしたことのないプレイやーにとっては敷居が高い。
戦闘の進行、イニシアティブがどうこう、手番がきたらスキルがどれがあって、使用する能力値はなにがあってそれを参照する副能力値…エトセトラ。
そりゃ、直感的ではないし難しいとなってしまうのも仕方がない。
「成功確率は85%です、さて、何%で成功するでしょう」と書いてあるシステムと、「使うステータスがこれで、スキルが乗って、出た出目に足して、相手の(受動側の)判定で…」とやるシステム。わかりやすさは段違いだ。
他システムがCoCやエモクロアと比較して明確に豊富なものはスキルなどを始めとしたデータ類だろう。多くのシステムではキャラクターの表現の幅としてスキルや種族、能力で彼らの得手不得手やバックボーンを再現する。
だがスキルなどがなくても、CoCやエモクロアはおおよその人間の行動を技能という形で表現できるのも強い。
百分率をもって「このPCはなにが得意か(ひいてはなにに興味があるか)」を簡単に表現できる。
作成方法も難しいことはなく、ルールブックの所持を問わずこのキャラクターは何ができるか分かりやすいのも特徴だろう。
戦闘系システムの大部分が肉体的あるいは魔法的な強弱に寄っている中で、説得や心理学をはじめとした人の内面へと踏み込む判定や技能があるのはこれまた珍しい印象を受ける。
それらの影響もあいまってか、CoCやエモクロアはシナリオへの傾向としてもドラマ性の強いシナリオが好まれる印象がある。
一方で、戦闘系は冒険そのものや世界観、戦闘自体を楽しむなどの傾向があるが、非戦闘系ユーザーのニーズと外れている。
まぁ、シナリオ傾向などは詳しくは後述させてもらう。
筆者はCoCエモクロアは「百分率のわかり易すぎる判定」と、「より内面に切り込める、分かりやすい得手不得手の技能というシンプルステータスの表現」が特徴だと感じている。
裏を返せば、これらとのギャップを他システムで埋められないならプレイヤーにはストレスを与えることになるということでもある。
特技やスキルを取る系のシステムはまず敷居が高い。つまるところCoCとエモクロア以外は基本的に敷居が高い。
配信者、動画投稿者という圧倒的求心力
CoC(とエモクロア)はそもそも知名度が高いという話をした。判定もシンプルで、エモクロアも個数カウント方式ではあるが下方判定で根っこのシンプルさは同じである。
だが、日本ではこれら以外のとあるシステムが人気だ。オンセンのやりたいランキングでは新CoCよりランキングが上で第二位となっている。
それはシンプルではあるが上方判定で、特殊ではあるが戦闘系システム、「シノビガミ」である。
これら3システムに共通するのは動画や配信者によって視聴者、ユーザーが大量に確保できたシステムといっていい。
共通点は他にもある。詳しくは後述するが、受け皿として優秀過ぎるという側面もある。あらゆる設定や世界観を受け入れられる。裏を返せば無茶苦茶やってもいいという風潮だろうか。
米津玄師の歌だけでやるやつとかあるわけだしね。
シリアスやギャグなどジャンル関係なしに多くの動画があがっている。そもそもの知名度に加えてそこにアップロード者の人気も加わることになる。
ルールやシステムの枠の外ではあるが、付加価値として「だれそれがやっている」という魅力がついてまわる。動画から入ったユーザーを呼び込む際にはそういう付加価値とも戦わねばならない。
TRPGは動画や配信から入る人は多い。そもそも自分も動画で存在を知った口だ。
推しているVが今度あのシナリオをやるから、好きな人があのシナリオ面白いって言ってたから。
配信や動画がはびこる昨今、これらがどれだけの大きな意味と優先度を持つかは想像には難くない。
さらには動画や配信、アーカイブでは様々なプレイヤーの反応が見られる。
自分が先に知っている物語を誰かが追体験する、あるいはその逆がどれだけの愉悦をもたらすか語るでもない。
…こういったものに親しむ新規層を自作シナリオかつ戦闘系システムの卓へ呼び込む以上は、求心力のある彼らや著名なシナリオと比較され、優先順位をつけられることは覚悟せねばならない。
なんであれ、来なきゃよかったことが起こればそれは悲劇だ。
きてもらう以上は楽しんでもらうのは絶対だ。頒布CoCガン回し環境で他システムと自作シナリオを持ち出すということが、こういったことと戦うことだとは思ってもいなかったが、やっていくしかない。
良質で膨大にある、シナリオという"規格"あるいは"小説"
いまTRPGシナリオは書くものではなく買うものとなっている。
少なくともCoCやエモクロアではその傾向が強いように感じるし、有償あるいは無償の、誰かが書いたシナリオを頻繁を回すという卓も存在する。
筆者も身をおいているのはこの環境だ。
これら頒布シナリオは非常に凝っており面白い。シナリオを通してPCとPLの情緒はグチャグチャになり、プレイを通して様々な属性や関係性が付与される。
…当然動画や配信との親和性も高いし、人気システムと人気配信者(投稿者)に人気シナリオ(人気ライター)という組み合わせは高い相乗効果を生み出す。
これらのシナリオはある種の規格やミステリ小説のように扱われているように感じる。相手がプレイしているか、する予定があるかなどの区別をしながら、知っている者同士であれば盛り上がれるわけだ。
「あの映画面白いよ」とか「あの小説のオチすごいから話したいけどこの人やってないんだよなぁ」とかそういうことだ。そしてこれは通話する間とは別に、SNSでも厳格に区別され、やったかやってないかでプレイ感想記事を読む資格すら区分けされている。
ソーシャルメディアの時代においてこういった資格があるなしは大きな意味を持つし、当然面白いのだからあれもやろうこれもやろうとなるのは当然だろう。
しかもシナリオの数はどれだけやっても消化が追い付かないほど膨大だ。
結果、筆者の未熟な自作シナリオは「求心力になるような人もやっておらず、他プレイヤーとネタバレありであーだこーだと話すネタにもならず、そもそもシステムが難しいうえにニーズを満たさないもの」となった。
まとめるとこれらのシナリオはどれも良質であり、またそれぞれのシナリオが一種の規格となっており、数があまりにも膨大な点だ。
自然とこういった環境ではこれら頒布シナリオを通過した未通過だといった話になるし、頒布シナリオの数があまりにも多いため次々にセッションが立つ。
自作シナリオはそれらと比較されるし、頒布シナリオに割ける時間を使ってまでやるべきか検討される。
結果生まれるのがプレイヤー不足である。どのシナリオのどの卓も常に人がいない。シナリオが星の数ほどあるからだ。シナリオ掲載サイトTALTO様では新旧CoCは別カテゴリとして扱われるほど多いし、boothでもめちゃくちゃシナリオが売られている。
クローズド環境のみとはいえ、今まで長いことGMをしてきてPLが不足するという現象には初めて出会った。
凝ったシナリオは話以外も凝りようがすごい。
NPCの立ち絵を含めた素材が全てついてくるのは当たり前、ものによっては表情差分すらあり、中にシナリオのイメージソングが売られていることもある。
プレイ時間も短いものから50時間かかるもの、業を背負うものからロストがほとんど確定しているのにも関わらず誰しもがやりたがるものもある。
それらが600円とかで頒布されている時代だ。それをプレイした暁には、それをプレイした人気配信者のアーカイブがある。
システムの話をいったんなしにしても、これらのシナリオとそれがもたらす経験やアーカイブがあるか、自作シナリオはどうしても比較されるしかない。
詳しくは次の項目で話しているが、こういったものを好む人たちは人間ドラマを非常に好む。筆者ももとよりドラマを好むたちだったが、PCやNPCへの愛着が半端ではない。
こういったプレイヤーに「冒険で魔法撃ったり斧振り回したりしてゴブリンたちボコボコにしようぜ!」といっても暖簾に腕押しだろう。
内面や関係性への傾向が強いならそうするだけの話ではある。が、冒険や魔法、固有の世界観が全くなんの魅力にもならないことすらあるというのは、少々悲しいが。
苦悩や葛藤、関係性の付与というニーズ(冒険と戦闘が魅力にならない)
CoCやエモクロアは戦闘スキルを振り回すシステムではない。探索して謎が深まり、新たな事実で他キャラクターや自身の内面が変化していくことに重きを置く。
上述したようにつまるところプレイを通じての人間関係にこそ魅力を見出されるシステムだ。戦闘や冒険、固有の世界観は魅力の担保にならない。
プレイヤーの傾向だ好みだと言えばそれまでだが、これまでも申し上げてきたように「他のシステムの動画はなく結果知る機会もない、人気の動画かアーカイブでメチャクチャ凝った関係性の動画を見て入った膨大な数のユーザー」はどうしてもこういった好みの人が多くなるだろう。
それが大きなひとつの潮流として新規層を生んでいる以上は、個々の好みと断じれるような数でもない。
だからこそ、冒険や戦闘はなんの担保にもならない。そう感じている。
冒険や戦闘にも魅力は勿論あるが、上述してきたような環境下で「戦闘も面白いんだよ」とは言えない。
それよりももっと、別のプレイフィールやシナリオの根幹である物語で切り込んでいくのがニーズとも合致するだろう。
これらのニーズや傾向が端的に表れているのが「秘匿ハンドアウト、秘匿シーン」の存在であるように筆者は考えている。シノビガミが流行った理由のひとつもここだろう。あれは明確にルールブックで秘匿ができるシステムだし、公式でPvPができる数少ないシステムでもあるわけだし。
秘匿情報は明確にPCの根幹に、あるいは関係する他者への設定を付与し、それは苦悩や葛藤、プレイを通じて昇華していく。
知らない、知りたい、なんだろうという疑問や好奇心は、どうしても相手を意識せざるを得ない。それがともに遊ぶPCならなおさらだ。
体感秘匿ありなしのシナリオ比率はありが2~4、なしが6~8くらいの比率で多めの印象がある。
というか秘匿なんてシノビガミくらいでしか見たことなかったし、そう考えるとあまりにも多い気もする。
探索システムはもとより謎解きや人間関係、苦悩や決断を見せ場とする。それをさらに加速させる秘匿システムは相性が良いだろうし、それを公式で採用しているシノビガミがウケたのも納得だ。あれは決別からの敵対もあるわけだし。
そうでなくても、人間関係は物語の根底を支えるものでもある。
こういった層を呼び込むなら絶対に抑えておきたいところでもある。
世界観がほとんどない受け皿としての側面(固有の世界観が魅力にはならない)
CoCとエモクロア(おそらくシノビガミも)の極めつけての特徴は「あらゆる世界観や設定を受け入れる」点にあると思う。
CoCはクトゥルフ神話を題材としたホラーシステムではあるが、現在はホラーを中心として遊ぶクラシックと、ホラーに縛られず遊ぶモダンの2つに分けられるのだとか。
筆者の観測範囲ではほとんどが後者……モダンに分けられるように思う。
そのような遊び方ではクトゥルフ神話要素はなんでもありを支える多様性を担保しているし、エモクロアはそもそもなんでもありのシステムだ。
たいていのシステムには固有の世界観が設定されているが、彼らにはそれがない(と言って差し支えないだろう)。作り手と受け取り手にとってこれほど分かりやすいものもない。
3者とも共通して「現代が舞台」であり、「不可思議な要素の担保が存在」しており、「シナリオによって自由度の高い舞台設定ができる」点だ。
つまるところ「自分たちの日常と何が違うかだけ分かればシナリオに没入していける」という部分だ。
たいていシステムを買ったなら「その世界観を理解していかなければならない」。歴史のお勉強から始まるわけだが、そのギャップを取り払うのがこれらメジャーシステムでもある。
簡単に言えば現代を起点とし、必要とあらば好きな設定や時代背景を持ってこられるのが特徴だと思う。
シナリオを買うものにした理由のひとつでもあると思っている。
こんな世界観で遊びたいとなったらそれに近いシステムを探すというのが往年の遊びだとすれば、やりたい世界観や雰囲気のシナリオを買ってCoCやエモクロアで遊ぶのが今の遊び方だ。
受け皿としてフラットすぎる世界観は、多様なシナリオと多様な世界観を受け入れるにはちょうど良かった。
固有世界観のもので現代シナリオをやるのは難しいが、現代から別の時代へはそう難しくはない。
シナリオと世界観は買うもの、だがもうひとつ理由があるだろう。それは値段だ。
シナリオ1つは高くても1000から2000程度だ。良質なシナリオで素材もついてくるのに600円とかのものすらある。
システムを買うのは大体それより高くなるし、各種判定やシステムに慣れるには時間がいるし、他プレイヤーとの断絶も進んでしまう。なんでもCoCやエモクロアでやろうというのは、まぁわからいでもない。
CoCの日本パブリッシャーであるアークライトはSPLL(スモールパブリッシャーリミテッドライセンス)という制度を持つ。エモクロアは個別の許諾なしに販売が可能である。
そりゃ、作り手がメジャーシステムに飛びつくのも納得だ。
簡単な判定、頒布シナリオ、細かすぎる戦闘を省いたフレンドリーなルール、そして舞台設定はシナリオについてくる。
スキルやアイテムなどをデータを抜きにすれば「それCoC(エモクロア)でよくね?」となりかねない要因がここにそろったと思う。
新CoC(7版)が旧CoC(6版)と比べて普及率が高くない要因もここだろう。
かねてより6版の人気が高かったのもあるだろうが、「それ6版でよくね?」となるのではないか。
システムやサプリメント、あるいはシナリオを買ってもらうには理由がいる。だがCoCはそのまっさらな受け皿としてここまで人気を博してきたし、筆者自身詳しくないが、どうにもスキルがどうこうアイテムのデータ量がどうこうというシステムでもないようだ。
判定システムのシンプルさは既に完成されている、世界観が死ぬほどめちゃくちゃ変わったわけでもない、もとより非戦闘系ということで魔法や戦闘スキルとかをPCが取得するシステムでもない。
幸運ルールだとか回避がどうこうとか変更はあったようだが、版が絶えた後の版上げというわけでもないわけだし、積極的に買う理由はあまりないように思える。
システムはCoCで良いし、スキルとかのデータを競うシステムでもない。世界観はシナリオについてくるもので他システムを買ってまで世界観は買うものでもない。
なら1冊でフルプライスゲームくらいする似通ったシステムを買う理由はあるのだろうか?
現状のままでいいなら無理に買う必要もないといえるのではないか。
閑話休題。
筆者は世界観でシステムを買う人間だ。買ったシステムの世界観を読むのが好きだ。
だが、新規層にとっては固有世界観は足枷になりうる。
慣れないシステムや判定で四苦八苦しているところに戦闘のルールが、スキルが、アイテムが、武器がと言われている中で「世界観はね」なんて言われたら混乱もするだろう。
固有の世界観があるのはそれはそれとして魅力だが、これらは新規層にはオーバーヘッドになりかねない。
ロストを前提としたセッションと経験
あらかたメジャーシステムが市場を寡占する要因については語らせていただいたように思うが、最後にセッション傾向の話をしたい。
CoCとエモクロアは戦闘系と違い、ロストがある程度想定される。
もっと言えばロストをある種の前提として、PCへの決断や苦悩を迫ることが求められているのではないか。
関連NPCの謎が判明し二律背反に苦しむ。PCたちには各々の事情がHOで渡され、どこで明かすか、明かしたところですれ違いに苦しむなど。
物語の根幹は人間関係だ、というのは先日買った技術書の受け売りだが、人間関係の、ドラマのない話は大味になるだろう。
元々日本人は情緒や感情面の機微に敏感だ。込み入った事情とドラマを求めるのは分かる。それが現代舞台のシステムならなおさらだ。
戦闘系でこれを担保するのはかなり正直難しく感じる。
順当にシステムを借りてセッションをするなら、クライマックス=戦闘であり、ロストする場面=クライマックス戦闘ということも多いだろう。
シナリオ面でのドラマは担保できても、クライマックスに戦闘を持ってくるならプレイヤーの慣れによって難易度も変わる。
逆に戦闘以外で決着させようとした場合、例えば説得を試みた場合だろうか。それこそCoCやエモクロアで良いのでは、ともなる。
話が少々それたが、ロストをある程度覚悟する傾向があり、そのうえで物語を楽しむユーザーは多い。
外敵によるロストではなく物語や関係性に切り込んだうえでのロストという塩梅だ。
そういったものを求めるプレイヤーへの戦闘系システムで戦闘含め、セッション全体の担保をするのはかなり厳しいように感じる。
セッションは一期一会であるがゆえに文字通り一度プレイしたら二度と同じプレイフィールを味わえない経験を、新規層を相手にする際は提供せねばならない。
だからこそ頒布シナリオはあれだけ流行っているわけだし、システムに翻弄されるのが分かっているならたとえシナリオ傾向が近くても参加するハードルは高い。
筆者は愛したシステムの魅力を伝えきれなかった
最後は負け犬の遠吠えと愛で締めたい。
凝ったシナリオで、各種素材が豪華で、それらをSNSを通じてインフルエンサーはじめ様々なプレイヤーに一層楽しんでもらい、ロストがあっても面白いと言わしめる人気システム。それが現状のCoCエモクロアの優位性だと思う。
他システムでこれら全部をクリアして初めて張り合えるシステムが彼らだ。逆を言えばそれだけやって初めて同じ土俵に立てるのだろう。
そのうえ、CoCではない、エモクロアではないことはPLへの負担を意味する。
CoCやエモクロア以外はそもそも判定がちょっと分かりにくい。それだけではあるが、それは最も大きな問題でもある。
素晴らしいシステムは世にはたくさんある。本当にそのどれもが各々の魅力を放っている。
当たり前だが、人には好みがある。自分はいろんなシステムが好きだし、特定のシステムをたくさんやるユーザーも当然いる。
筆者も含め、みんな自分の好きなものを愛しているのだ。
この記事の発端は、自分の好みが人には受け入れてもらえなかったというだけの話ではある。あるのだが、これほど魅力的なシステムたちを、自分の筆ではどうあがいてもその魅力を十全に伝えられないらしい。
なんだかんだとのたくってきたが、自分の好きを伝えきれなかった負け犬が、なんだかんだと理由をつけては「あれが強すぎる」と悔しがっているに過ぎない。
文字を、シナリオを書くようになって天狗になっていたようだが、どうやら本当に伝えたいことの1%だって伝えられないほどの腕しかなかったようだ。
いや、文字を、物語をそれっぽく書けるだけで止まっていたからこうなったのかもしれない。
なら、0から始めるしかない。技術を身に着け、伝えたいものを考え、楽しんでもらえるように努力をする。
足りないなら補填するしかないのだ。画像のサマリがうらやましいなら、ツールを習熟し、素材を借り、作るしかない。
リプレイがないなら自分でアップロードすればいい。
インフルエンサーがプレイしているからと嘆く暇があるなら自分で配信でもなんでもするべきだろう。
わかりにくいのなら彼らに合わせたシステムの調整をもっとすべきだ。今でも十分やっていたと思っていたが、それは自分の中での十分に過ぎなかった。
彼らに「こういうのもあって楽しいんだよ」と、「これが好きだ」と、自分の好きを伝えるしかないのだろう。
これからも努力は惜しまず研鑽していくが、歯がゆくて仕方がない。
最後になったが、また言わせてもらいたい。
これはユーザーやシステムを批判したいわけではない。あくまで「なんでメジャーシステムはああも遊ばれてるか分かれば、自分の卓にも参加してもらいやすくなるかなぁ」という程度の記事だ。
TRPGは自由だ。いろんなシステムを遊んだっていいし、ひとつだけを遊んだっていい。
データを中心にプレイしたっていいし、データよりもキャラ表現を優先したっていい。
なんだったらシステムを作ったっていい。
TRPGは自由で本当に楽しいものだ。だが、システムとシナリオを決定する多くはGMだ。
GM……筆者は楽しさと自由を満喫しているが、それはプレイヤーに新システムという不自由を背負わせているのではないか、というだけの話なのだ。
どうやったらその不自由を補填できるだろうかというだけの話なのだ。
そして本当に最後にひとつだけ言いたい。
2D6の期待値は7だぜ。
でも体感7じゃなくて6な気がするんだよな。7って結構難しいんだよな。
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