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魔女の蕩けるスープ

私は愛に生きる魔女


愛のために生きていたい

だからあなたを全身全霊で愛する

代わりにあなたも全身全霊を持って私を愛して

俺の婚約者は変わった女だ

プロポーズは彼女から

見た目は美人で俺のようなゴリラに近い面相の男のどこに惚れたのか

「美女と野獣」

と揶揄された

「何であんたみたいな美人が俺みたいな不細工を?」

いつも疑問に思っていた

「あなたの顔もだけど心の色が綺麗だから」

俺の濃い胸毛を撫でる

「逞しいこの胸も大好きだけどあなたの身も心も…魂すら美しいあなたが大好き」

愛おしげに俺を撫でてくる細く白い指

俺も愛おしく感じ、抱き締めた

彼女が俺の背中に腕を回す

「あなたの体温を感じる」

素肌で触れあうと伝わる心音と体温

彼女はその時間を大切にしていた

「あなたの音が聞こえる」

俺の胸に耳を当て幸せそうに眠る

儚げな彼女を守り、共に生きていこう

そう決めて彼女にプロポーズした

おしゃれなレストランで婚約指輪を差し出した俺に彼女は涙を流し感動していた

「君と死ぬまで一緒にいたい」

「はい…はい…私もずっと一緒にいたい」

俺のプロポーズは成功し、改めてお互いの親にも挨拶した

「こんな素敵なお嬢さんがお嫁さんになってくれるなんて」

「我が息子ながら女性とは縁遠いと結婚を諦めていたのに」

号泣しながら握手してくる両親に俺も彼女も戸惑ったが、その後は和気あいあいと過ごした

彼女の両親も歓迎してくれ

「うちの娘はわがままで気が強いから結婚なんて無理だと思っていたよ」

冗談混じりで喜んだ彼女の父親に対し

「あなたはうちの娘を愛してくれるのね?」

彼女と同じ容姿の妖しい雰囲気の彼女の母親が尋ねる

「はい。必ず娘さんを幸せにします」

俺は答える

「そう。うちは魔女の家系と言うことは聞いた?」

「…ぇ?」

突然何を言い出すのか?

「もうお母さんたら!そういう時代じゃないでしょ?」

彼女が窘める

そういう時代も何も魔女なんてファンタジーか中世のヨーロッパの話じゃないか?

日本ならまじない師?陰陽師?

いやそうじゃない

まさか彼女のお母さんは…

「あなたの周りには幸運にも私のような頭のおかしい人間はいなかったようね」

クスクスと笑う彼女の母

まるで心の中を見透かされたのか?

彼女と彼女の父の顔を見ると困ったような笑顔を見せる

ああ顔に出ていたか

「すみません」

謝罪する俺に

「いやうちの家内がいきなりおかしな話をしたからね」

彼女の父が笑う

「あら、冗談だと思うならそれでも良いわ。でもね、この子を裏切ったら命はないと思った方が良いわ」

赤い唇を歪ませて笑う彼女の母に恐怖を感じた

「お母さん、そういう話しは終わり!食事にしましょう」

そういって彼女が席を立ち、暫くすると食事を持ってきた

メインのステーキと共に真っ赤なスープを持ってきた

「我が家オリジナルのスープよ。うちの母が父のハートを射止めた伝説のスープ」

赤くドロリとしたスープからはトマトの香りと魚介?様な香り

「このスープは病み付きになるよ。何せ毎朝このスープを飲まない1日が始まらない」

旨そうにスープを飲む彼女の父

それにならい俺も口にした

思ったよりスープはあっさりとしていた

魚介と思っていたが肉の旨味が口の中に広がる

メインを引き立てるかのような少しの酸味

肉を頬張り、噛み締めれば最初の一口のようなリセット感

他のサラダにも合う

「旨いです」

「そう、良かった。この子にも調理の仕方は教えているから毎日作ってもらってね」

スープを飲み干すと胃が刺激され、更に食欲が増す

「沢山食べてくださいね」

その後は彼女の両親とも打ち解け、旨いワインまでご馳走になった


「あのスープ凄く旨かった。君も作れるんだろう?」

翌日から俺はあのスープの虜になった

何故か彼女の作ったスープの方が旨かった

「何だか君のお母さんのスープより旨い。こくがあるのに全然胃にもたれないし、飯が進む」

おかわりを要求する俺に

「このスープはその人に対する愛情がそのまま現れる魔法のスープなの。だからあなたが美味しいと言ってくれるのが一番嬉しい」

「成る程。だからお母さんのスープは旨いけどあっさりしてたんだ」

お互いに笑い、楽しく食事をした

彼女と同棲して気づいたが、彼女は完璧だった

毎日の旨い食事に清潔な部屋

退屈させない会話

昼間は淑女の嗜み

夜の方も俺に合わせたかのような情熱的な一面を見せる

まさに理想の彼女


だった



それが退屈に感じ、俺は彼女の親友と浮気した



「こちら私の小学校からの大切な友達。あなたに紹介したくて」

彼女の親友という女性はお世辞にも美人とは言いがたい物だったが、活発な性格に惹かれた

「あの子は昔から優等生で性格も良くて…」

そんな事を自慢げに話しながらも彼女の親友の目には嫉妬の炎が揺らぎ

「本当は完璧なあの子が嫌いだった」

酒の勢いで本音を吐き出させ

ホテルで一夜を明かした

正直彼女の親友とは相性は良くなかったが、彼女への罪悪感と背徳の快感が気分を盛り上げた

そしてその隠れた関係にあの敏い彼女が気づかない訳がなかった

いつものように実家に帰った彼女のいない隙に彼女の親友と抱き合っていると

「あなた達そういう関係だったのね」

いつもより笑顔の彼女

「私はあなた達が大切で、愛してるから3人で一緒になりましょう」

頬を紅潮させ夢見るような彼女の笑顔が薄れ、真っ暗になった後

俺と彼女の親友は裸になって木の床に寝そべっていた



私は婚約者である彼と小学校からの友人が浮気している姿を偶然目撃した

私たちが一緒に住んでいるアパートの私達のベッドで

彼と友人が体をくっつけてキスをしていた

体は汗でしっとりと濡れ

重ねた唇から出るねっとりとした音

恋人が違う人体を合わせ、睦合うこの不道徳な関係

おぞましい光景である筈なのに美しいと感じた

私の大切な人達があんなにも絡み合って

家畜のような下品な鳴き声すら愛おしいと思える

なんて素敵な光景

裸で抱き合う2人につい声をかけてしまった


「違うんだ!誤解だ!」

「そ、そう!ちょっと汗をかいちゃって!」

そんな見え見えの嘘なんか吐かなくて良いのに

「大丈夫。全部分かってる」

出汁を取り、沸騰した湯の入った鍋にトマトと愛する2人を投げ込む

あのサイズでは大きすぎるから人形サイズにまで縮めて上げた

「助けて!」

「許してくれ!」

抱き合った2人がスープに浮かび助けを求める

「大丈夫。肉体は溶けても痛みも苦しみも無いから」

2人を怖がらせないように言った筈なのに何故か泣き叫んでいる

「ごめんなさいごめんなさい!」

「もう君以外には見向きもしない!だから許してくれ!」

私が怒っていると勘違いしているみたい

「心配しなくて良いよ。私はあなた達を愛してる。あなた達と夢のような時間を過ごしたいの」

2人の入ったスープを煮込みながら私は2人をどれだけ尊敬し、愛しているかを語った

やがて2人の体は煮溶けて、骨も綺麗に溶かした

真っ赤な2人への愛情がこもった私のためのスープ

「頂きます」

とろとろのスープを口に含む

爽やかなトマトベースに2人の肉体と魂の濃厚な旨味が一杯に広がる

「美味しい」

ため息と共に放たれる声

一口一口味わいながらゆっくりと飲む

「ああ美味しい。美味しい」

身も心も満たされる美味しいスープ

こんなに暖まるスープは他にはない

全て飲み干す

「ごちそうさまでした」

お腹を撫でると溶けた2人の存在を感じ、更に温かくなる

「これからも一緒だよ」


愛のこもった美味しい魔女のスープ


魂のこもった蕩けるスープは魔女の愛を強くする




終わり



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