夜間警備8

「ねえねえ、あんたにお見合いの話が来てるんだけど」

求人情報紙にかじりついている私に母が見合い話を持ってきた

「40代でバツイチなんだけど、公務員ですって。あちら側の条件は子供が産める年齢なのよ。あんたどう?」

「寝言は寝て言え。一生覚めずにいろ」

「よねぇ~あんたギリギリだから良いかなと思ったんだけど」

「良くねえわ。そもそも私は20代だから!そんな不良債権は即断れ!」

そんな阿呆の寝言に付き合う母達もアホの子だが

「そもそもソレに生殖能力が有るの?ソレが一番問題だわ」

「まっ!そう言う下品なこと言うもんじゃないの。それに万が一にも男性が原因でもプライドがあるから言うんじゃないの」

「その男のバツイチの原因も気になるわ」

「良い縁談だと思ったのに」

「悪縁じゃい!」

「まああんたも新しい彼氏ができたしねえ」

母がメールで断りを入れている

しかし

「彼氏って誰?」





「おはようございます」

「おっす!この間のデートは楽しかったか?」

警備室に行くと、先輩がニヤニヤしていて

「もしかして先日のウサギカフェですか?可愛かったですよ。うさちゃんだけでなくねこちゃんもいて

あー言うのを天国って言うんですね」

ねこちゃんゾーンとうさちゃんゾーン両方を堪能した


「それはあいつから聞いている

俺が聞きたいのは癒し動物さんでなくあいつとのことだ」

「え?ああ。わざわざ車で最寄り駅まで来てくれて帰りはうちまで送って貰って有りがたいです」

ガソリン代として今日はお菓子を買ってきた

「彼、今日も居残りでしょう?特設展示変わるし」

「おお。何なら呼んでくるか?」

「良いですよ。どうせ終わったらここに来るでしょう」

展示物の配置が終われば連絡に来てくれる筈

「お疲れ様です。準備が整いました」

噂をすれば、だ

「お疲れ。こいつがお前に用事だとよ」

見ればもう一人学芸員がいて、こっちを見てニヤニヤと笑う

「頑張れ」

霊媒師の肩を叩く

先輩の相手と言うのは余程面倒なのだろう

付き合ってる私も面倒臭い

「おい、用事があるんだろ?」

つつかれ我に返る

「ああ、この間はありがとうございました。これ、ガソリン代の代わりです」

持ってきたお菓子を渡す

「あっ!あーっ!お気遣い頂いて恐縮です!」

あたふたと受け取り、ペコペコと頭を下げる

落ち着きないなこの人

先輩がいるせいなんだな

可哀想に

「先輩が居るからって緊張しなくて良いですよ?」

「いえっ!確かに先輩はトラブルメイカーではありますがっ!」

「あ?」

先輩の睨みを無視し

「女性からプレゼントを貰えたのが嬉しくて」

異性からのプレゼントが嬉しいだなんて可愛いこと言うなー

歴代の彼氏でもそんな人居なかった

珍生物を眺めていると

「あの、今度合コンしませんか?」

別の学芸員が誘ってきた

「あー、俺既婚者でパス」

「先輩は誘ってません」

何故か先輩が断る

「こいつも参加させますから」

何で?

「何で?」

霊媒師のも不思議そうだ

「僕は気になる番組があるので」

速攻で断ってるし

「お前ー!誰のためにお膳立てしてると思ってるんだ!」

何故か先輩が怒ってるし

「土曜日ならシフトが休みです」

相手に説明すると

「じゃあ僕も参加します」

霊媒師よ

今日の予定だったの?

私は今から仕事だ

「では来週辺りに居酒屋の予約しときますね。ライン交換良いっすか?」

スマホを出した学芸員に私もスマホを出そうとしたが

「何をしてるんですか?」

厳しい声が響く

「あ、申し送りを」

霊媒師が代わりに応える

「知ってます。展示が終わったからさっさと帰りたいのに誰も来ないから」

メガネをかけた真面目そうな女の子

キリッと美人さんだ

同性ながら見とれるわ

こちらをさりげなく睨み

うん?

今睨まれた?

「どうせ先輩が無駄話をしてたんでしょう?」

あ、先輩か

元学芸員だったしな

「ただでさえ先輩の時は展示品が動いて厄介なのに」

学芸員も大変だ

「もう申し送りも終わりですよね?私お手洗いに寄って帰ります」

「ああ、お疲れ様。俺達も帰ります。ちゃんとライン交換しろよ」

学芸員達も去り

「私もお手洗いに寄って来ます」

仕事前にトイレに行った


「あなた、彼の事どう思ってる?」

トイレに行くと手を洗っていた学芸員が話しかけてきた

「え?先輩ですか?妻子もちですよ?あの人」

多分

先輩の妄想でなければあの人は妻子もちだ

流石に不倫は見逃せない

「違います。彼には奥様と娘さんがいます。そうじゃなくて…」

「ああ、あの人!」

霊媒師の彼女かあ

「すみません。彼女が居るとは露知らず!あのお菓子はただのガソリン代です」

まさか彼女持ちとは申し訳ないことをした

「私彼女じゃないです」

俯いた彼女に片想いだと悟る

甘酸っぺぇ

年は私に近いのに甘酸っぱい恋をしてやがる

彼女に見つからないようにニヤニヤしてた




「あれ?どうしました?」

特別展示室に行くと霊媒師の姿

「ああ。今回は曰く付きだからな。念入りにして貰っている」

展示室に並ぶのは結婚式の花嫁、花婿を模した人形と絵

「何ですか?これ」

「花嫁人形とムサカリ絵馬だ」

「花嫁人形は知ってます。うちの祖母の十八番です。ムサカリは…アレ?金太郎が持ってた凶器」

「バ1カ。あれはマサカリだ。そして凶器でもねえ」

「ムサカリは方言で婚姻を指します。山形県の風習で、若くして亡くなった子供達の為に親が架空の結婚相手を供えます」

作業が終わったのか霊媒師もこちらに加わる

「花嫁人形もです。こちらは青森県の風習です」

「どちらにも決まりがあって、必ずの人物でなければいけない。この禁忌を破った話もある」

ある男性が亡くなり、ムサカリ絵馬(もしくは花嫁人形)に彼の好きだった女性の絵(人形)にした

そのせいで女性は事故に遭い、亡くなったと言う

「この手の話は多い。またあの世の結婚、冥婚はアジアでも行われている。中国では本物の女性の死体で、台湾では生きた女性にお金を渡す」

「中国と台湾は相手が女性って多いのですか?」

「男は跡取りだから嫁が来ないと可哀想なんだと」

「死体も嫌だけど生きてる女性はもっと可哀想です」


「死体もだが、人間も金品で取引されているらしい。死体の盗難も問題になっている」



祭壇を片付け

「一応鎮魂のお経は終わりました。この写真の故人達は皆成仏しています」

霊媒師が先輩に説明する

「良かった~!先輩が居るといつも変な目に遭うから」

未だにお化けは怖いからこうして安心を貰えるとホッとする

「人を怪異発生源みたく言うな」

いやみたくじゃなくて発生源そのものだよ

「先輩以外の人と組んでも何もなかったから、元凶はやっぱり…」

「先輩ですね」

2人で先輩を見る

「何故俺のせいにする?」

あんたしか原因がないからだ

「先輩は大学でも怪異を起こして貴重な品を壊した前科があります」

「やっぱり!」

「何がやっぱりだ!良いか?世の中名人の作って言うのは魂が籠るもんなんだ。それで奴らは命を与えられ動き出す。それが偶然俺の時にあるだけだ」

「先輩、その言い訳は苦しいです」

霊媒師の説得力に

「先輩が何かしでかしたと言うのは十分すぎるほど分かりました」

「やってねーわ!現にいま!何も起こってない!」

先輩が展示物を指差した瞬間

カタカタッ

「あー…」

「ですよね?」

絵馬と人形が動き出した





「それでは!只今より合コンを始めまーす!」

「はーい!」

座り合った男女が三三九度の盃を持って乾杯の音頭を取る

「それ乾杯するコップ違う…」

盛り上がる奴らは互いに好みの相手(あるのかは不明だが)話しかけている

「この人達って一応死者の花婿と花嫁なんですよね?」

「まあ、勝手に結婚相手を決められたけど、肝心のお相手は成仏してるから出会いを求めてたんじゃね?」

マジか

折角結婚相手として望まれた筈なのに相手は勝手に輪廻転生の輪の中に

そう言うことなら…ってお嫁さん達違う方向みてなくない?

「イケメン」

「可愛い」

「え?僕?」

霊媒師がターゲット変更されとる!

「あいつ格好はダサいけど俺の次にイケメンだからな」

黙れ

「大丈夫なんですか?あれって」

「良くないに決まってんだろ?あいつはお前と付き合ってんだし」

付き合ってねえわ

「いや、彼には彼を想う相手が居るんですけど?」

「それに奴らに引きずり込まれたら戻ってこれなくなる」

そんな危険なことを何故言わない

「ちょっとお客様!それは商品じゃありません!」

慌てて間にはいる

「これは非売品です。お客様がたにはこちらのイケメン共がお似合いかと」

「あの…僕の事これって…」

助けようとしてんだから黙ってろ!

「えー?あんたこの人のなんなわけ?」

「てか何?その髪型?男じゃないんだから」

ショートボブだっつーの!

癖毛が酷いから伸ばせられないんだよ!

「あ、凄くお似合いです。パーマも似合ってます」

「これ天パです」

「色も良い具合に染められて」

「染めてません」

「…すみません…」

謝るな

そして今誉めるな

「でも嬉しいです…コンプレックスだったし…」

ぽそっと呟く

「これって恋って奴じゃないんですか~?」

両手でハートマークを作って遊んでる先輩マジウゼェ


そもそも先輩のせいでこんな目に遭ってんだよ

「マジあり得ないんですけど~!」

「何でこいつがモテんの?」

「クリクリ頭だし」

「私達なんて艶々黒髪だしね」

「女の良いところ教えてア、ゲ、ル」

「逆セクハラやめい!」

こいつらぶっ飛ばしてやろうか?

「やだー!暴力に訴えるの?」

「こわーい!」

キャーキャーと霊媒師にしがみつく女達

「ぶっ壊す!」

「止めろー!全国の神社と寺を敵に回すなー!」

先輩の悲鳴に我に返る

そうだ

こいつらを黙らせる方法

「すみません!」

一言断りをいれ

霊媒師の襟首を掴み

うっちゅー

「ふごっ!」

霊媒師はじたばたともがくが押さえつけて角度を変える

ついでに歴代彼氏達を腰砕けにした舌技もお見舞いする

「え…?」

「な…痴女?」

濃厚なキスシーンに誰もが呆然とする

てか誰が痴女だ誰が

「は…はしたない…」

「いやぁ…」

そのうち奴らが顔を赤らめ

視線を反らす

そろそろか

「はぁ…この程度のキスができなきゃ今の時代通用しないんだ。分かったら引っ込んでろババア共!」

思いっきり中指を立ててやると奴らは元の絵と人形に戻った

「やった…勝った」

ぐったりとした霊媒師を支えながら勝利の余韻に浸る

「まさか一足飛びでそこまでの関係になるとは…はっ!」

近頃の若い者はとブツブツ呟いていた先輩が何かに気付き青ざめる

「先輩、どうし…はっ!」

そこには携帯を握りつぶしそうな勢いで握っている女性の学芸員が

「今…何をしていたんですか?彼とはなんの関係もないって言ってたのに」

「あの!これにはふかーい訳が…」

必死で宥めようと思ったが誤解は解けないだろう

「すっごくふかーいキスでした」

うっとりとしながら語る霊媒師

お前は黙ってろ

「最っ低!」

女性学芸員が肩で風を切りながら去っていく



我が教え導いていくアホの子…もとい後輩よ

世の理不尽は多い

酸いも甘いも経験していくだろう

今回は特にバカデカイ試練だ

だがそれも乗り越えられるタフさがお前に備わっている

だから

「誤解なんですぅー!」

「ファーストキッスなんですぅ」


辞める何て言わないでくれ

人材が揃うまで




終わり





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