夜間警備6

「…容疑者を乗せた飛行機が今空港を飛び立ちました

ネットニュースを見ていると見知った顔が写し出される

「あれから半年経ったんだ…」


半年前

「私怖いの全然ダメだけど、あんなお化けなら大歓迎です」


先週涙ながらのお別れをした幽霊画達を思いだし呟く

「まあ、あいつらは脅かしまくってストレスフリーだからな。人に優しく出来るし、楽しい話題にも飛び付く」

「ドラマなんかの悪役の方が実は優しいみたいな感じですかね?」

仕事場である博物館の展示室は人が出入りして忙しそうにしていた

「今日は何だか賑やかですね」

「ああ、展示品が届いたからな」

次の特別展の準備だそうだ

「荷物の搬入が遅れてこんな時間まで仕事だなんて大変ですね」

「届いた荷物は即開封、確認だからな。送付前に傷のチェックしたリストが入っているから照会して他に傷が無いか確認する」

「トラブル防止ですね」

「責任の所在をはっきりさせ無いとな。配送の途中で傷が付いてないか届いて直ぐに…はい」

突如警備室のドアがノックされる

「すみません。届いた荷物の確認で、その…女性の…協力が欲しいのです…」

俯き加減の若い女性学芸員が顔を赤らめていた

「トラブルですか?でしたら私が…」

立ち上がる先輩を制し

「女性でないと…その…」

私に耳打ちする

「成る程」

行こうとする私を先輩が心配するが

「女性の大事な部分に関わる話です!」

「ああ、はい…行ってらっしゃい」

先輩は顔を赤らめていた





「一応向こうの博物館にも確認しました」

台の上に寝そべった女性のミイラ

腹部の膨らみから妊婦のようで

「妊娠中に亡くなるなんて親御さんは辛かったでしょうね」

「この女性は貴族の娘で、宝飾品と共に埋葬されていました」

肝心の宝飾品はなく

「盗掘されてめぼしいものはありません」

「呪われても仕方ないですね」

「それで…」

肝心の場所を学芸員の彼女が見せる

「これは酷いですね」

ミイラの局部には裂傷の後

「盗掘された時にされたのか、発見した時にはこの状態でした」

「…ミイラに欲情するなんて…とんだ変態だ」

「そうですね。写真の裂傷と違いがなければ大丈夫です」

傷の具合を確認し、警備室に戻る

「お疲れさん。帰ってきて早々だけど見廻りだ」

2人で懐中電灯を持ち、巡回する


「ミイラ展準備も順調みたいですね」

ケースに入ったミイラにお化け屋敷の様相を感じる

「何か怖いんですけど」

暗いなかに浮かび上がるミイラが突然動きだし、襲ってくる姿を想像してしまう

現に今先輩が…

「先輩!ミイラが先輩の首を締めてます!」

思わず叫ぶ

「たずげでぇ…ミイラは傷つけないで…」

首を絞めるミイラは何かを叫んでいるが

「…日本語でプリーズ」

何を喋っているか分からなかった

と言うか心なしかポキポキ言ってるような?

「何か変な音もしてるんですけど?」

「乾燥してるくせに動くからだ!」

ミイラは私に目もくれず、先輩にのみ群がっていて

「先輩はミイラに何かしました?」

「やっとらんわ!誰かミイラと話せるやつを連れてこい!」

先輩に言われ、開封作業中の学芸員に知らせる

「それならこいつだ」

細身の男性が現れる

「この人通訳が出来るんですか?」

良く言えば真面目、悪く言えば根暗の男性

「いや、こいつの家系霊媒師」

一気に胡散臭くなった

「さようなら。先輩のことは諦めます」

背を向けて去ろうとしたが

「まあまあ、言葉が通じなくても心で通じるから」

「…ぇ?」

どうしよう…

ヤバい奴来た…

「…あ…すみませんお忙しいのに失礼しました」

頭を下げ去る

「ちょっと待って!君の言う通りミイラが暴れてるなら僕達の出番だ!

修復も僕達の仕事だし!」

学芸員に説得され、渋々案内する

「遅いわ!」

ミイラから逃げ出した先輩が怒鳴りながら走ってくる

「だって通訳の人がいなくて代わりに厨二病っぽい人を紹介されました」

「あ…僕そう言う奴って思われたんですね」

霊媒とかまじでヤバすぎるし…

「おお!助かった!早速頼む」

…え?

「あ、あなたが今夜の警備だったんですね」

2人とも知り合いなのか

「こいつは中学からの後輩で、霊媒師の家系なんだ。

また出た

「なんだその顔は。気持ちは分からんでもないけど、こいつは霊の言葉を伝える事が出来るんだ」

学芸員が床に座り込み、数珠を取り出す

「お坊さん?」

お経で悪霊退散とか?

それこそ漫画の世界だ

だが、彼は目を閉じ、何かをぶつぶつと唱える

「お経?」

「しっ!」

思わず聞いた私に先輩が指を立てる

暫く唱えていると彼の頭が前のめりに傾く

まるで気絶したように

息を確かめようと近づいた瞬間、彼は顔を上げた

先程の気弱な印象は消え、キリリとした顔つきになる

「成功したな」

「…へ?」

間抜けな声を上げてしまった

「我が娘…」

先程迄とは違う声音

「これ…」

「あいつは霊媒師の家系だって言っただろ?自らに霊を降ろして霊の言葉を伝えるんだ」

直ぐ側のミイラが口をパクパクと動かすと、彼の口も動く

「我が愛する娘がこの国の男に汚され、子を孕まされた」

悔しげに唸る

「えっ?まさか…」

あの妊婦のミイラ?

「娘は良家に嫁ぐ予定だったのに台無しにされた。

犯人を捜しだし、償いをさせる」

恨めしげに先輩を睨む

「貴様が犯人か?」

「まったまったまった!俺は断じてそんな趣味はない!」

慌てた様に先輩が否定するが

「逆に怪しい」

疑わしい眼差しを向ける

「やってねーよ!先輩を信じろよ!」

焦る先輩への疑惑は深まった

「兎に角犯人を差し出せ。でなければこの国の人間を全員殺すのみ…」

「捜しましょう!」

自分が殺されるのはヤダ!…もとい

「やはり同じ女性として卑劣な暴行犯は許せません!」

「お前自分が殺されるのはヤダって思っただろう?」




「…ふぅ…彼らの暴走の意図は分かりましたね?」

先程の鬼気迫る表情から直ぐに戻る

「ああ…確か妊婦のミイラが居たよな?そのミイラを孕ませた変態野郎を捜してる」

「…は?」

疑惑の眼差しが強い

分からんでもないけど

「霊媒師もいい加減うさん臭いですけど」

「すみません。では先程の妊婦ミイラに聞きましょう」

先程の展示室に戻り、学芸員に説明する

「このミイラは1年間のレンタル期間があるから妊娠は可能ですね」

学芸員達は大して驚いていなくて

「おかしいとは思わないんですか?」

「ええ。日本と違って海外の博物館は大雑把な所もあります。妊婦ミイラもきちんと調べなかったんだろうなという見解です」

「へ…へー」

「でも破壊や欠損が見つかったら容赦ないけどな」

「怖っ!」

改めて妊婦のミイラの前に立つ

「日本で妊娠したから、あながち向こうの博物館は間違ってませんね」

「そうですね…と」

寝ていたはずの妊婦ミイラが起き上がる

「あ、霊媒師さん出番です!」

「ああはい」

体を起こすミイラはこちらを見る

「あ、通訳の方は結構です」

流暢な日本語来た

「凄いですね」

「行き交う人々の言葉と、肌を重ねた彼の言葉を覚えたくて」

恥らうミイラ

うんキモい


「大丈夫か?仏みたいな微笑になってるぞ?」

「普通の人間の神経の限界を超えたらもうこんな顔になるしか無いですよ?」

もう限界突破してるし

「それより早く犯人を捜し出さないとな。この博物館探偵が!」

先輩もナニカ変なのにトリツカレテマスネー

「だって人類皆裁判だぞ?エジプトのあの世の裁判は有罪か無罪かの二社択一だ。執行猶予も恩赦もねえ」

「まあ、死ぬのは嫌ですものね」

「いざとなったら先輩を犯人として突き出すか…」


そして捜査は始まった



「妊娠期間から逆算してちょうど東京に来たばかりの頃ですね」

「その時夜間に出入りしていたメンバーは警備員の他は大学の研究チームでした」

「ただ保存状態維持のためごく少人数かつ警備員が側に付いていました」

あからさまにそう言う行為をしたらバレるわけで

「梱包も破られた形跡がないことから配達員仕業ではない」

先輩は暫く考え、廊下を歩き回る

「本当に探偵みたいですね」

「俺探偵ドラマ好きなんですよ!」

「サスペンスじゃないの?」

わいわいと皆盛り上がってきた

皆残業でツカレテマスナー…

「大丈夫ですか?」

霊媒師からも聞かれて

「もう限界です…ハハ…」

おうちに帰りた~い

「よし!分かったぁ!」

廊下に響き渡る迷?探偵のすっとんきょうな声

「先輩、分かったんですか?」

「全員アリバイがあり、犯行に及ぶ時間も暇もない!この事件は…」

「この事件は…?」

先輩はゆっくりと呼吸し

「この事件は迷宮入りだっ!」

自信たっぷりに宣言する先輩

もうだめだ

こいつを犯人として突き出そう

学芸員に目配せし、足を肩幅に広げ腰を落とす

体格の良い相手は下半身に向けてタックル…

「うわああああーっ!」

いきなり学芸員の1人が叫ぶ

「もう分かってんだろ!ぁあ"?」

血走った眼差しの学芸員

「あんたが犯人か」

先輩が今更ながら格好付ける

「あの人!東京の博物館から確認に来たって!」

霊媒師が説明してくれる

「そうだよ!俺はあのミイラに惚れたんだ!だってあんなにスリムな女はいねえだろ?」

あー変態さんでしたか

「最高にキモッ!」

「あっ!コラッ!刺激するな!」

先輩が止めるも学芸員はこっちに突進する

その勢いのまま私は服を掴み、自分の体に引き寄せそのまま背負う形で

「一本背負い!」

床に叩きつけた

「あちゃー…だから言ったのに。うちの後輩は柔道の有段者で地方大会で個人3位になったんだぞ」

「スゲー!」

凄くないし

先輩は空手で全国に行ってるし




「あいつは結局器物損壊で捕まった」

警備員と他の学芸員が居ない僅かな時間の犯行で

「一発勝負で当たりを引くって凄いですね」

ニュースを見ながらしみじみ話す

「一発だけじゃないらしい」

ハアとため息を吐く

「皆どれだけ席をはずしたんですか!」

警備薄いなおい

「飲み物に下剤を仕込んだそうだ。無味無臭の物があるからな。多少の時間差があるが、皆トイレに駆け込む」

「うわぁー…」

間に合わなかった事を想像し手を合わせる

「傷害罪もプラスだがまずはこっちだな」

ミイラ損壊(実際は性的暴行)は国際問題に発展し、彼の身柄はエジプトへ更迭される

「ガリガリのミイラしか愛せないってとんだ変態でしたね」

「ああ」

ニュースの画像

エジプトから来た政府の人間に挟まれた犯人

「エジプトって治安が悪いんですね」

「ああ、日本並みに秩序のある国の方が珍しい。どうした?」

「この人達包帯だらけで…え…?」

サングラスとマスクの2人は

「お前さんの想像通り、奴らはあのファラオの臣下だ」

「じゃあ…まさか…」

あの犯人は

「ミイラにされる。しかも心臓は確実取られるタイプだ」

ミイラ作りでは生き返る事を考慮され、腐食の進む内蔵は取り除かれるも心臓は残される

「あの世で心臓を秤にかけ、羽根の重さと比べて罪の重い心臓は不気味な動物達に喰われる」

だが、心臓のないものは?

「裁判すら受けられず永遠にこの世をさ迷う。だがその前に生きたまま処理をされるんだろうな」

あまりにむごい結末に




「まああくまで推測…あれ?」

私はトイレにダッシュした



ミイラ取りがミイラになる前にもう辞めよう



終わり




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