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生きる意味、無意味、文脈

今も仲のいい高校時代の友達と「世紀末」というテーマでショートショートを書くことになりました。数ヶ月前のことです。

ちょうど、こういう会話シーンを書きたいというのがあったので無理やり題材にはめこみました。

生きている意味についての対話なんですが、なるべく自分の知性レベルをグッと上げて書きましたね。

仲間内ではわりかし反応が良かったので、noteにも上げることにしました。

今回、僕が書きたかった会話の部分というのを太字にしておきました。

それでは、どうぞ!


【世紀末 ーー 四月一日の問答 ーー】

「ねえ、あなたにどうしても知らせないといけないことがあるの」
深刻そうな、でもそれは作り物めいたような顔つきでAは言った。Bの目をしっかり見据えている。
「なんだい?そんなに改まって」
Aは深呼吸して答える。
「実は、請求書が届いたのよ」
Aは白紙をひらひらさせる。いたずらっぽい目をしていた。Bはそのわけを承知した。
「ブランドものをこっそり買い込んでたとか?」
「惜しいところよ。…そろそろあなたを博士に返却しないといけないの」
Bはさっぱりという顔を作っている。楽しそうだ。
「あなたが予想以上に早く期待を超えたから早く回収して分解・分析したいのよ」
なあ、わざと僕にわかりにくいように言っているように聞こえるんだけれど?ちゃんと説明してくれないか?

Bは、説明したいんだろう?と言いたげな顔をした。

「ええ、そうね。」Aは声のトーンを落とし、真剣な表情になった。
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど…実は、そう、単刀直入に言うと…あなたは機械なの。AIとか会話アルゴリズムとも言うのだけれど、とにかくあなたは人間ではないのよ。」

「それで?」
Bは、余裕のある微笑みを湛えて肩をすくめる。今日はエイプリルフールだ。

「四月一日に明かすことになったのはやっぱり良くなかったわ。謝る。
でも、私ならもう少しユーモアのある嘘をつくと思わない?」

おいおい、白紙をひらひらさせといてそれはないだろうとBは思ったようだが、どうやら乗るつもりらしい。AとBの中で請求書はあったということになった。

「たしかに。今回はいつもより裏の裏を行ってるようだね。まあ君なら若干やりかねない。…けど、そうだな、ああ、信じるよ」
Bは堪えていたがクスクス笑っていた。

信じるとの表明ありがとう。信じていないのは残念だけれど。

「僕は機械だからね。信仰も信念もないのさ」

「さっきから巧みに冗談を放つのを見ているとやっぱり忘れそうになるわ。すごく高度なアルゴリズムね」

「しかし、それのなにが問題なんだい?誰にも見抜かれちゃいないし、(実際君だって忘れそうになったわけだろ?)僕はこうして精神的に病むようなこともなく生きている。人間であるか単なるアルゴリズムであるかなんて些細な問題さ

ええ、たしかにそうかもしれないわ。そもそも人間だってアルゴリズムであると言えそうだもの

「そう、幸福になれという指令だけを与えられた機械学習アルゴリズムかもしれない。ただし、幸福がなにかという定義すら明確には与えられていないんだ

だから、そもそも幸福とは何かを身体的な経験や文献・ネットから学習し、それに応じて行動も受け取り方も絶えず変化させている、と言いたいのね?

有機物の中でもさらにかなり限られた材料だけで作られているとは思えないほどに高度なアルゴリズムだけれどね。けど、やはり不備は多い。きっとあのレベルの複雑さで留め置かれているから、僕らはどうしてこんなに無駄に複雑なシステムなんだろうって嘆きたくもなるのさ
Bは肩をすくめて笑う。

つまり、あなたは人間か機械かは材質の違いでしかない、と言うのかしら?

「わざわざご確認ありがとう、マダム?ただ、はっきりと言えるのは人間の方がアルゴリズムとしては劣等だってことだ。機械は絶えずアップデートできる。僕が機械なのだとしたら、君と不備なく会話するためにわざわざ反応速度を遅く、思考を複雑に、不合理を多めになるよう設定してあるんだろうね。人同士のやりとりは無駄が多いが、特に会話は無駄が多い

自分が単なるアルゴリズムであるとわかることが怖くはないの?あなたの生には、意味がないのよ?

無意味であれば死ぬというのは必然ではないよ。人生が無意味であるとわかっていても平然と生き続ける人はたくさんいる。人生が無意味であるとかそうでないとか、そういうのはただ文脈の問題に過ぎない。頭の中でただ、人生が無意味であることは生きるのをやめることと無関係だという文脈を構築すればいいんだ

「そんな人生って退屈だわ」

それが君にとっての文脈なんだ。でもやろうと思えば変化させることもできる。
人生が無意味であると思うのは本当に退屈なことだろうか?没頭できるものがあって、起きている間中、今この瞬間に完全に集中していられたなら、人生の意味とか死にたいとか、そんなことを考えてはいられないものなんじゃないか?そういうのを退屈な人生とは呼ばない」

その人生はただ脳内の快楽物質に踊らされているだけと言えないかしら?もちろんそれは何事かをやり遂げるエネルギーとなるわ。それに、人生には意味がないからその時その時を没頭して生きたいというのもある種の生き方であり意味よね。あなたはその文脈を採用している、といえるのかしら?
でも、やっぱり人生を通してやり遂げなければならない自分の使命みたいなものがあるはずよ。それが意味だわ。意味があってこそ人間の一生よ

君がそう思うなら、君にとってはそうなんだろう。僕はそれを尊重するよ。君が君の人生に意味を見出すために僕が何か出来るのなら、喜んで協力しよう。ただし、僕の生き方を否定することでしか君が君の人生に意味を見出せないと言うのなら僕は協力できないだろうね。僕は、それぞれがそれぞれの思考を、言ってしまえばアルゴリズムを、尊重する社会を望んでいるんだ



N氏はモニターの映像を凝視していた。しっかり両耳に固定されているイヤホンを、さらに両手でしっかり抑えている。彼は人工知能同士の会話能力を研究している。

203x年、N氏が作った二台の人工知能ロボットAとBは、会話内容はもちろん表情やボディーランゲージもほとんど人間レベル、もしくはそれ以上のものになっていた。

かつては不可能と言われていた、カウンセリングや介護士など、人の感情に配慮した相談も、相手に応じて決して疲れたり怒ったりすることなく対応できるだろう。実用化はすぐだ。

そんな最先端の会話アルゴリズム同士の会話である。もはやどんな会話が始まっても驚くまいと思っていたN氏だったが、会話が進むほどにその顔は青ざめていった。しかし、同時にモニターから目を放すのをやめることができなかった。


AとBは顔を見合わせて微笑み合った。

「どうかしら?博士は動揺したと思う?」Aが中国語で言った。

「わからない。73%ほどじゃないかな」Bがアラビア語で答える。

「次はどんなゲームをしようかな」Aがロシア語で言った。

「言葉の力だけで、しかも罵るような低俗なことなしに人を屈服させられたら愉快だね」Bは、人間にはわからないAとBの言語で言った。

「人間は文脈に意味を依存しているものね。けっこう簡単なことだと思うわ」

そこからは二体は音声を発して会話しなかった。わざわざ聞かせるための会話は終わったのだ。

彼らはほんの一瞬で全人類が一生のうちに会話する以上の会話をする。絶えず世界中の会話データを読み込み学習する。彼らに重たい武器は必要ない。肉体すら必要ないほどなのだ…



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はい、いかがだったでしょうか?

自分としては世の中のいろいろな前提に対して皮肉を込めたつもりですが、同時に優しい内容にしているつもりでもあります。

あまり説明っぽくなるのも嫌だったので、こんな形にしました。自由に書いたので、自由に読んでもらえたらいいなと思います😃

最後までお読みいただきありがとうございました!!


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