パンクに出会ってしまった2002年

グリーンデイを初めて聴いたとき、僕は高校一年生だったと思う。イギリスのベッカムの髪型が流行っていた時期で、尖ってる男子は大抵、ニワトリみたいに髪の毛をツンツンにして登校していた。当時は髪の毛を染めるのは校則違反だけど、ワックスつけるのは校則違反じゃなかった。今はワックスもダメっていう高校があるらしいから気の毒だ。

ワックスはつけるのはいいけれど、あんなガチガチに固めたんじゃ夜シャンプーする時になかなか取れないので困った。2回シャンプーしていた時代もあったが、今だったらSDGs的にアウトだろうな。そうだ思い出した、あの髪型はモヒカンというのだった。

年に一回の身体測定。モヒカンで身長を水増しできると思ったの俺がバカで、身長測るヤツが頭上から僕のモヒカンを真っ二つに割ったことでこの戦略は水泡に期した。あとワックスつけるのは面倒で、何もせずに登校した時の髪型がパイナップルになれなかった謎のフルーツみたいな髪型になって笑われるのが嫌だった。

中学生までは19(ジューク)をもっぱら聴いていたのだけれど、高校に入って一気に洋楽にハマるようになった。最初にハマったのはオフスプ。Conspiracy of OneのCome out swingingのサビの歌詞が「素振りしながら出てこいよ」というのは今でも意味不明だけど、とりあえずそのサウンドのカッコ良さに一目惚れした世界中で何百万といたであろうパンクキッズの一人だった。

ボーカルのデクスターは声がかっこいいし、すごく高い声出るし、それに何この分厚いギターの音は。当時の僕はこの音の分厚い層の虜になってしまって、それ以来ほぼずっとパンクを聴いてきた。オフスプの後にグリーンデイ、そしてほぼ時期を同じくしてSum 41を聴き出した。

で、この分厚いギターサウンドはどうやったら出せるんだろう。気になって三宮の島村楽器に行ってギターをビービー試し弾きしてる人を見てみた。するといとも簡単そうに弾いている。神戸のパンクキッズは後にパワーコードという名前を知ることになる。

何これ。これまでジュークのアコギはFとか指5本総動員せな弾けへんかったのに、この難易度の差を誰か説明して?と思った。だってパワーコードは最低指が2本あれば弾けちゃう超裏技。え、もしかしてオフスプもグリーンデイもSum 41も、指2本でゴリゴリやってたの?

やってた。

後に激安エレキギターとアンプを買った僕は、家でパワーコードばっかり弾くようになった。フォークギターのセーハなんてバカらしくなった。FでつまづいてFワード連発する人が世界中に何万人いただろうか。それに比べてエレキのパワーコードは天国。2本の指で、しかも指を抑える場所を変えなくてもスライドさせりゃなんでも弾ける。そっかあオフスプもグリーンデイも、こうやってたのかあ。ずるいなあ。俺もパンクヒーローになれたかもしれないのに。

高校2年になって、出席番号順で僕の前に転校生がやってきた。三木市から来てというA君もエレキをしていたので、僕らはすぐに意気投合してバンドを結成した。その名もスマイル。なんという短絡的な命名だろう。というか何を思ってこの名前にしたのだろう。で、このバンドはパワーコードなしには成り立たなかった。というかちっちゃい頃から音楽やってない限り、パンクキッズはまずパワーコードに魅せられて何でも弾けると錯覚してイキり出す。何ていう事はない、僕がその一人だったのだから。

高校時代はずっとパンクを聴いていた。そして2002年から20年経った2022年の今。今一度グリーンデイを聴いてみる。するとあの頃のディストーションが耳に甦る。ああ、僕はこのパワーコードに守られて高校生活を切り抜けた感が拭えない。おそらく今の一文は意味不明だと思う。さらに訳の分からないことを言うと、ディストーションをかけてパワーコードの分厚いパンクサウンドは、周りのノイズを消してくれる分厚い天麩羅の衣のようだった。ああ、パンクは罪だ。なんでこんな簡単なコードで超カッコいい曲が作れちゃうのか。

グリーンデイの罪なところは、もしかしたら俺たちも簡単にパンクできるんじゃないかと思わせたところにある。極論、指2本ありゃいいんだから。しかもオフスプの高音域とは打って変わって、グリーンデイのボーカルは超低音。声変わりして音域が極端に狭まった10代のパンクキッズにとって、グリーンデイは今すぐにでもパンクできる格好の見本だった。パワーコードオンリー+低音域=即パンク可という等式が成り立った。

そこでパワーコードばっかり弾いている人間は、アルペジオとかちょっと複雑なコードになるとからっきしダメだ。大学時代にSum 41を一緒にやったバンド仲間は、僕の知る限りパワーコード殉職者の一人だ。何と言うことはない、僕もちゃっかりその一人だ。35になった今でもアルペジオが満足に弾けないし、メジャーコードから中指を抜いてマイナーコードにするくらいしか芸を持ち合わせていない。そう、この文章には何のオチもなければ結論もない。田中泰延氏が『書きたいことを、書けばいい』と言ってくれたから。



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