希少性の魔物
僕には魔物が潜んでいる。
その魔物はときに僕を苦しめ、またときに気持ちよくもさせてくる。
僕と同時に生まれて、僕とともに大きくなった。
正体は「希少性の魔物」である。
AB型という時点で、日本人の約10%しかいないという。
小さいころから変人のレッテルを貼られ、天才肌のプレッシャーをかけられてきた。
僕が思うに、AB型が変人なのはその気質によるものだけではなくて、周りからのそういう扱いに応えてきた結果でもあるのだろう。しかもちょうど多感な思春期のころ、世間では血液型ごとの「自分の説明書」なる書籍が流行していたのだった。僕もそれを読んで「合ってるな」とか「とっても合ってるな」とか「気づいてないだけで合ってるのかもな」とか思っていた。その「かもな」の部分によって、どんどんAB型らしく、変人らしく、矯正されていくのだ。そういうのが嫌になって心理学について調べまくった時期があるのだけれど、その天邪鬼さこそが変人に拍車をかけていると、今では思う。バーナム効果という言葉はそこで覚えた。なむなむ。
10%に入ったくらいでは満足できないのが、魔物の怖いところである。
最近はMBTIというものが単なる心理テストの域を超えて、すっかり話題の定番として挙がるようになってきた。
僕はENTJ、指揮官。これは日本人の3%らしい。調べると「合理的で冷徹」とか「恐ろしいほど無遠慮に他人の間違いを指摘する」とか書かれていてなんともろくでもないのだが、大事なのは3%、この割合である。MBTIは時間をおいて調べると結果が変わることもあるというが、僕は絶対に調べない。僕の中の魔物が調べるなと言っているのだ。だってたぶん変わるから。
僕がもう二度と調べたくないものとしてもう一つ、IQテストがある。
以前やったテストで、僕のIQは130と診断された。130を超えるのは日本人の2%。いいぞ、魔物は餌を得て、どんどん大きくなっていく。
とはいえ、僕は昔から脳トレとかその手の問題が好きで、ある程度の経験則があったので信ぴょう性は疑問である。しかし結果は結果。僕のIQは130。下がりたくないからもうテストはやらないし、信ぴょう性の高いテストなんて持ってこないでほしい。
初対面の人との食事の場で、「あ、右利きなんですね」と言われた。日本人の90%近くを占める右利きをわざわざ指摘するということは、どうやら僕はあまりにも左利きっぽいようだった。そう、これは僕にとって非常に痛いところなのである。AB型のENTJのIQ130。もう限りなく低い割合まで絞り込んでいるのに、僕は左利きではない。
「右利きなんですね」の前についた「あ、」の部分には心なしか落胆が込められていた気がする。「なんだ、普通の人じゃないか」と言われているような。違うんです。僕は希少なんです。右利きだってだけで、ほら箸の持ち方はちょっと変だし。