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客席から見える景色⑥ マヂカルラブリー

いちお笑いファンが、客席から芸人さんを見たときに覚えた感覚をエッセイ調で1000文字程度で書いていきます。

第六弾はマヂカルラブリーさん。


客席から見える景色⑥



走っている。逃げている。情動から。感傷から。心臓は早鐘を打って、地球と反対回り。都会の真ん中、取り残されたtokyo crossing。私は間違えるのが怖くていつも大事なものから目を背けていた。ある日宇宙から飛来したUFOに身体丸ごと拐われて、どこか遠く星々まで連れて行ってほしかった。友好的な宇宙人は、私を物珍しく丁重に扱って、私は満更でもなく歓待される。好きな人によく似た微笑みを浮かべて、UNIQLOの服を着ている。ピンクと橙の瞳の色は毒々しくて、サブカルチャーみたい。私は中央線の先頭に乗って、流れゆく惑星構造を眺める。高円寺の次が、月。その次が天国、無重力。私はイヤホンの音量を上げた。
混沌です。私たちに正義はあっても、logicは無い。倫理観を笠に着た正当防衛があるばかり。それら脆弱な俗物どもは寄りかたまって、うまく踊れない。大衆は大衆化されることによって大衆から免れている。狭く孤独的な歌詞は、清潔で排他的な唄はクルマのウーファーを響かせて、鼓膜を貫くその瞬間ポップミュージックになって霧散した。矛盾している。最も矛盾している。この世界の誰もが、一人残らず矛盾している。因果の鎖は私の足首を絡め取るけど、私何一つ説明できない。水溜りができるのは昨日雨が降ったから、でも私たちなぜ嘘が吐けますか。洞窟の中真理の影だけ追うのは、本当に昔神さまだったからですか。不安だッ。私の人生に理由が無いなんて、意義も恣意も思惑も無くただの偶然で、その全能の双眸にうっかり触れただけなんて! いくら泥を捏ね合わせてヒトのかたちを造っても、言葉や文字を与えても、火や道具を識っても、この星は未だ混沌なのです。われわれは未開拓で、無知で、動物的かつ悲嘆的で、自家撞着を肉体の裡に隠しているのです。だから私は人間や理性といったものが甚だしくおぞましく、見てはいられないのです。
そして時速100キロの銀河鉄道は私を最寄駅に下ろして、寒々しい日常へ帰した。考えれば考えるほど私は私の歩幅やコンクリートを疑ってしまうから、耳を塞ぎ瞼を下ろし息を潜める他なかった。私が宇宙人に改造された新人類であることを、隣人にばれてはいけないし。私は遂に鍵穴をこじ開け、四畳半に寝転んだ。くだらねえ。もっと単純に、あるいは狡猾に生まれたかった。

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