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三月九日

先日、大雨の昼下がり突然ケイタイモと映像作家のキヨシくんが近所にやってきたので、海辺のファミリーレストランでお茶をした。
せっかくのシービューも意味をなさない豪雨の中に現れるあたりが、いかにもケイタイモらしい。

ひさびさのとりとめのない会話で、キヨシくんが仕事でお手伝いしたという『小金沢健人×佐野繁次郎ドローイング/シネマ』展の話になり、招待券をありがたくいただいたので伺ってみることに。

この日は晴れた週末だけに近代美術館近くの八幡宮あたりは人出が多く、鎌倉別館まで人ごみを縫うようにして歩く。

ずいぶんと昔、初詣の時分に沖縄からRYUKYUDISKOの双子と三線奏者の奈月、事務所のボスとここらで昼から酒を飲んだのを思い出す。

展示は二人の作家の時代を越えたコラボレーションといった趣で、過去に生まれた平面の画を現代の映像技術で再生するという、興味深くチャーミングなものだった。

暗い館内のベンチに座って映像をぼーっと観ていると、音楽の現場とは真逆の静寂が心地よい。

美術館を出るとまだ陽は高く、八幡宮を失敬して横切り(お参りはする)、散歩がてらよく通っている一番好きな沖縄料理屋へ足を運ぶ。

糸満出身の店主は不在で、最近調子が良くないと訊き、心配になる。

「お昼に来るのめずらしいね」と店員さんが泡盛のボトルを出してくれるが、僅か一杯分も残っていない。前回それで帰った過去の自分に頭を捻る。

次はゆっくり夜に来よう、店主が早く元気になると良い。

帰りしな岐れ道の魚屋で天日干しの鯵とカマスの干物、すぐ隣の工房でハムとソーセージを買い求める。
若宮大路まで戻り、鎌万で旬の栗蟹、浅蜊、平目一匹、鯨ベーコン。

帰路は急ぎでもないのでバスに乗ってみる。

ゆっくりと海岸まわりを走り、停留所ごとに地域のひとたちを降ろしていく。

陽が海に落ちる夕暮れどき、光明寺を抜ける材木座あたりの海町の風情がいつも好きだなと思う。

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