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骨粗鬆症治療剤テリボン®用法・用量特許に無効判決

旭化成ファーマは、骨粗鬆症治療剤テリボン®を保護する用法・用量を特定した多くの用途特許を成立させました。これらの特許に対して後発医薬品メーカーにより請求された無効審判では、クレームの訂正を認めたうえで、請求を棄却する審決が多く出されていました。しかし、特許を無効と判断した審決取消訴訟の判決が出されました(令和3年8月31日、令和3年9月28日)。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/585/090585_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/548/090548_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/549/090549_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/550/090550_hanrei.pdf

1件のPCT出願に基づき、現時点でテリボン®を保護する7件の用法・用量特許が成立しています(特許6043008、特許6150846、特許6198346、特許6274634、特許6275900、特許6301524、特許6522715)。
いずれの特許も、1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与される、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤である点は共通しており、特許ごとに、対象となる骨粗鬆症患者の特定、骨折抑制のための治療ないし予防剤であること、または、皮下注射投与であることなどの要件をさらに追加しています。
いずれの特許に対しても、後発医薬品メーカーである沢井製薬および/または日医工により無効審判が請求され、8件の審決が出されました。特許6274634に対する無効2018‐800076における無効審決を除き、訂正を認めたうえで、請求を棄却しています。
これらの審決に対しては、すべて取消訴訟が提起され、そのうち、4件に対する判決が出されました。

知財高裁は、特許6043008、特許6275900、特許6301524の訂正を認めたうえで、特許無効と判断し、無効審判請求不成立審決を取り消し、また、特許6274634に対する無効審決取消請求を棄却しました(令和2年(行ケ)10056、令和2年(行ケ)10132、令和2年(行ケ)10038、令和2(行ケ)10004)。

審決と判決では、進歩性における判断が異なりました。
判決が出された事件のうち3件では、患者特定の4条件が構成要件となっています。
審決では、クレームで特定した4条件を満たす骨粗鬆症患者に対して投与をすることは、引例に記載も示唆もされておらず、また、本件4条件の全てを満たす患者において、顕著な骨折抑制効果が奏されることを当業者が予測し得たとは認められないと、進歩性を認めています。
一方、裁判所は、本件3条件と本件条件(4)とはその目的を異にする独立の条件であると判断し、本件4条件を一体として判断するのではなく、本件3条件を全て満たす患者と特定すること、および、本件条件(4)を満たす患者と特定することは、当業者に格別の困難を要することではないと判断しました。
そして、効果についても、本件3条件を全て満たす患者(骨折高リスク患者)に対する効果①と、本件条件(4)を満たす患者(腎機能障害がある、または、特定の前治療薬の服薬歴がある)に対する効果②に分けて判断し、効果①が顕著であることは明細書に示されておらず、効果②は予測し得る範囲内である、または、本件明細書からうかがうことのできない効果であると判断しました。
本件3条件を満たす患者(骨折高リスク患者)では、条件を満たさない患者(低リスク患者)よりも効果が良いことが明細書の記載から理解できないので、実験成績証明書を採用して効果①が顕著であることを認めることは相当でないこと、並びに、本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと本件3条件の全部又は一部を満たさない患者のグループ(低リスク患者)のうちごく一部のグループとを比較しても、本件3条件の効果が明らかになっているとはいえないことなどを判示しており、審決と比較し、顕著な効果により進歩性を認められるために明細書に記載すべき内容を、厳しく求めています。

なお、8月31日に出された判決に対しては、9月13日付で上告受理申立がされています(令和3年(行ノ)10039、令和3年(行ノ)10040、令和3年(行ノ)10041)。


(文責:矢野 恵美子)


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