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それってパクリじゃないですか?第1話

4/12(水)22:00から、日本テレビ系列にて「それってパクリじゃないですか?」第1話が放送されました!

このドラマは知的財産と会社の知財部・弁理士にフォーカスしたドラマとなっているようで、私どもが主に取り扱っている業務が取り上げられていくようです。
そこで、今週から各回の放送後に感想だったり、実務家の視点や豆知識のようなものだったりを、できる限り分かりやすく書いていきたいと思っています。

さて、今回は、月夜野ドリンクの開発部に所属する芳根京子さん演じる亜季が開発したキラキラしたボトルと同じ内容の特許が同業他社であるハッピースマイルビバレッジに取られてしまった!というお話でした。
通常であれば、他社に先に特許を取られてしまった場合、特許を回避するか、無効とするか、ライセンスしてもらうことになりますね。
(ドラマでは、特許を回避するために開発部員が熱心に研磨剤を検討していましたし、ハッピースマイルビバレッジに訪れた際にはライセンス料5パーセントというお話もでていました。)

今回は「冒認出願」を理由に、特許権を取り戻そうとしていました。冒認出願という単語は、一般の方からするとやや難しく聞こえるかもしれませんが、要するに勝手に他人に特許を出願されてしまうことを言います。冒認出願がされ、それが権利化されてしまった場合について、特許法は、真の権利者への特許権の回復を認めています。(冒認出願は特許権の無効理由にもなります。)実務でよくあるパターンとしては、共同研究開発をしていた片方の企業が、もう片方の企業に何も言わず単独で出願するパターンだと思います。

特許法第123条第1項第6号(特許無効審判)
その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第74条第1項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。

冒認出願は無効理由の1つです。

特許法第74条(特許権の移転の特例)
1 特許が第123条第1項・・・第6号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。・・・

冒認出願の場合、真の権利者は特許権移転請求が可能です。


冒認出願であることを示すために、重岡大毅さん演じる弁理士、北脇が亜季に対し、自分が同窓会で他社従業員に発明内容を漏らしたという虚偽の証言をさせようとしていたあたりは、(法律上も弁理士倫理上も)大丈夫なのかこれは?と思ってヒヤヒヤしていました。実現しなくてよかったです。

結果的に、「きゅるんきゅるん」の有無から開発情報が漏れた時期が特定されて同窓会より以前であることが判明し、さらに、社長が講演会後に発明が使われているボトル(試作品1号)を他社の従業員に見せてしまっているところが写っている映像が発見され、これらに基づいて冒認出願であることを明らかにできたので救われて安心しました。

ところで、少々細かい話にはなるものの、この返してもらった特許は果たして特許として「有効」なのでしょうか??
前提として、発明を公表した場合にはその発明の新規性がなくなってしまい、特許を受けることができなくなりますし(特許法第29条第1項)、すでに特許となっている場合には無効審判によって無効とされてしまいます。実務上よくある事例としては、プレスリリース、学会発表、発明品の展示などがあります。
ただし、特許法第30条は、そのような公表により新規性を失った発明であっても、一定の場合には例外的に新規性を失わなかったものとして取り扱うこととしています。
具体的に、特許法30条は、以下のように規定しています。

第30条(新規性喪失の例外)
1 特許を受ける権利を有する者の意に反して第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第2項の規定の適用については、同条第1項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす。
2 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第2項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から14日(在外者にあつては、2月)以内でその期間の経過後6月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

新規性喪失の例外は1項と2項の2パターン

上記のとおり、新規性喪失の例外は2パターンあります。
2つ目のパターンは第2項の特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開が行われた場合ですが、この場合、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出する必要があります(同第3項)。今回はライバル社であるハッピースマイルビバレッジによる冒認出願なので、当然、そのような手続は行われていません。したがって、第2項のルートで新規性喪失の例外を主張することはできません。
そのため、第1項の「意に反する」公開であると言えるか、が問題になってきます。今回、ハッピースマイルビバレッジの従業員に守秘義務契約等を締結せずにボトルを見せてしまったのは社長です。社長が会社名を出した講演会の直後に自らの意思で講演会参加者であるハッピースマイルビバレッジの従業員に開示したということを考えると、特許を受ける権利を有する者(=会社)の意に反してとは言えない可能性があると思われます(※ここでは、月夜野ドリンク社には職務発明規程が整備されていて特許を受ける権利が会社に移転しているという前提で考えています。さすがに職務発明規程は存在すると思います。)。そうすると、この特許は、新規性欠如の無効理由を抱えたまま、ということになるように思われます。

もし、ここに何らかの手当をするとすれば、今回、移転自体は「この件を表沙汰にしたらハッピースマイルビバレッジも困りますよね」ということで交渉でまとまっていますから、ハッピースマイルビバレッジから月夜野ドリンクへの特許権譲渡契約書において、社長が公開した事実及び内容を第三者に開示または漏洩しない、といった内容を入れてもらうことが一応考えられると思われます。
(※なお念のため述べておけば、このような対応をとっても、新規性がないということに変わりはなく、客観的には無効理由が残るということにはなります。とはいえ、講演会後のやりとりで新規性を喪失したという事実は、社長とハッピースマイルビバレッジの方の2者しか知らないことですから、ハッピースマイルビバレッジの方さえ口止めしておけば、第三者から無効を争われる可能性は実質的にない、ということになるとは思われます。)

さらに、個人的には、「きゅるんきゅるん」感を出すために改良がおこなわれそれも「発明」に該当すると北脇さんが述べていたことから、こちらの改良発明についてもできる限り早期に出願しておいた方がよいものと思います。特に今回、基本になる特許が権利化されて特許公報として既に公開されていますので、この特許公報に基づいて第三者が改良発明を先に出願してしまうというリスクもあります。そしてその場合、新規性喪失の例外や冒認出願といった救済は使えませんから、改良発明(つまり、これから月夜野ドリンクが実施しようとしている技術に係る発明)を第三者に取られてしまう可能性があります。

このように、新規性喪失の例外は有用な規定ではあるものの、上記のような問題もありますし、また、外国における法制度は必ずしも日本と同一のものではないため、とくに国際出願を考えている場合には、公表前に出願を行うべきものと思います。
(※国によっては、中国のように、新規性喪失の例外に係る展示または発表といえるためにはその国が認めた展覧会等でのものでなければならない、といった法律になっている国もあります。)

第1話はとても楽しく見ることができたので、次回の放送も楽しみにしています!

文責:鈴木佑一郎山田康太


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