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知財高裁、他人のツイートのスクリーンショットを自己のツイートに添付する行為を「引用」と認める

Twitterにおいて、他人のツイート(元ツイート)の内容を批判する場合などに、元ツイートを引用リツイート(引用RT)するのではなく、元ツイートのスクリーンショット(スクショ)を撮って自己のツイートに添付して投稿することは、結構頻繁に行われています。
このような元ツイートのスクリーンショットを添付する行為が、著作権法における「引用」に該当し、著作権侵害とならないと判断した知財高裁判決が最近出ましたので、ご紹介したいと思います。(知財高裁令和4年11月2日判決(令和4年(ネ)第10044号))。

事案の概要

本件で問題となったのは、氏名不詳者Aが行った以下の2件のツイートです。

① 本件ツイート1:
 「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立て上げるのやめてくれませんかね?」「捏造したところで信用の問題で誰も信じないとは思いますけど」「そんなクソDM直に送るような人でもないんですよ、あんたと違って」という文章に、本件の原告(控訴人)であるX1が投稿したツイートをスクリーンショットした画像(本件投稿画像1)を合わせて投稿したツイート

② 本件ツイート2:
 「ちなみにX1’さんに触ると」「意味不明なクソリプされたり」「ツイート文章を改竄して捏造妄想作話するんで要注意だよ!」という文章に、X1が投稿したツイートをスクリーンショットした画像(本件投稿画像2)を合わせて投稿したツイート

なお、本件投稿画像1および2には、X1が投稿したツイートが含まれており、各ツイートのアイコンとしてX1のプロフィール画像(本件控訴人プロフィール画像)が掲載されていました。このプロフィール画像は、本件のもう一人の原告(控訴人)であるX2が撮影したX1の写真に、X1が加工を加えて作成したものでした。

X1およびX2が、本件ツイート1を投稿したAの発信者情報開示を求めて、経由プロバイダである株式会社TOKAIコミュニケーションズ(被告)を提訴したのが、本件訴訟になります。
第一審の東京地裁判決は、被告は「開示関係役務提供者」に該当しないとして、X1およびX2の請求を棄却したことから、X1およびX2は知財高裁に控訴していました。

知財高裁判決

本件訴訟において、X1およびX2は、本件控訴人プロフィール画像についての著作権侵害(送信可能化権侵害)を発信者情報開示の理由として主張し、また、X1は、自己に対する名誉毀損を発信者情報開示の理由として主張しました。

このうち、名誉毀損については、知財高裁は、本件ツイート1および2はいずれも意見・論評の表明による名誉毀損に該当すると判断しました。

他方、著作権侵害については、知財高裁は、本件ツイート1および2における本件控訴人プロフィール画像の利用は著作権法第32条の「引用」に該当し、著作権侵害とはならないと判断しました(以下では、本件ツイート1についての判示部分を抜粋します。)。

(本件ツイート1)は、控訴人X1が「DM画像を捏造した」という行為を批判するために、控訴人X1が捏造した画像として、本件投稿画像1を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認められる。
・・・
上記控訴人X1 の行為を批評するために、控訴人X1のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。 画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。

最高裁HP

X1およびX2は、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張しましたが、知財高裁は、以下のとおり述べて、この主張を退けました。

そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない・・・。そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。・・・そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえない・・・。

最高裁HP

もっとも、前述のとおり、知財高裁はX1に対する名誉毀損を認定しましたので、結論としては、知財高裁はX1の発信者情報開示請求を認め、名誉毀損を主張していなかったX2の請求は棄却しました。

所感

最初に述べたとおり、Twitterにおいて、他人のツイートの内容を批判する場合に、当該ツイートを引用RTするのではなく、当該ツイートのスクリーンショットを撮って自己のツイートに添付して投稿することは、頻繁に行われています。
このような方法のメリットとしては、知財高裁判決が述べるとおり、(1)引用RTの場合には、元ツイートが削除された場合には元ツイートが表示されなくなるのに対し、スクリーンショットを添付する場合には元ツイートが削除されてもスクリーンショットは消えないことが挙げられますが、他にも、(2)自己のTwitterアカウントが元ツイートの投稿者によってブロックされている場合には引用RTはできないが、スクリーンショットを添付することは可能(ログアウトした上で元ツイートのスクリーンショットを撮り、再度ログインすれば可能)であることや、(3)引用RTは元ツイートの投稿者に通知が行くため、直接的に喧嘩を売る行為であると見なされる場合があるのに対し、スクリーンショットを添付する方法ならば元ツイートの投稿者に通知は行かないこと、などが挙げられます。

このような、引用RTに代えて元ツイートのスクリーンショットを添付する方法については、以前、東京地裁において「引用」には該当しないと判断されたことがあります(東京地裁令和3年12月10日判決(令和3年(ワ)第15819号))。この判決では、引用RTという方法が用意されている以上、スクリーンショットを添付する方法はTwitterの規約に違反するものであり、公正な慣行に合致しないとして、「引用」を否定しました。
また、今回の知財高裁判決が言い渡された後、つい最近にも、ツイート本文よりも元ツイートの方が文章の分量が多く、ツイートの本文が主で元ツイートの文章が従の関係にあるとはいえない等として「引用」を否定した判決があります(東京地裁令和4年12月14日判決(令和4年(ワ)第8410号))。
他方で、スクリーンショットを添付する方法について、「引用」該当性を認めた東京地裁判決もあります(東京地裁令和4年9月15日判決(令和4年(ワ)第14375号))。こちらの判決では、スクリーンショットを添付する方法がTwitterの規約に違反するものであるか否かは必ずしも明確ではなく、また、そのような利用態様が規約違反として削除等規制されているという実態もうかがわれないとして、引用RTを用いなかったからといって公正な慣行に合致しないことにはならない、と判断されました。

今回、知財高裁は、「ツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない」として、「引用」該当性を肯定しました。今回の判決は、引用RTの方法によらずにスクリーンショットを添付したとしても「引用」に該当し得ることを認めた、初めての知財高裁レベルの判決となります。
なお、今回の判決は、「『トレパク』を指摘するツイートの発信者情報開示事件、知財高裁は一転して開示を認めず」の記事で以前ご紹介した判決と同じ、知財高裁第2部(本多裁判長)によるものですが、トレパクの判決と同様、今回の判決も、Twitterユーザーの感覚に比較的近い判決であるといえるように思われます。

もっとも、今回の知財高裁判決の考え方によっても、他人のツイートのスクリーンショットを添付する行為が全て「引用」に該当する訳ではないことには、注意が必要です。
今回の知財高裁判決は、あくまで、本件ツイート1および2が批評を目的とするものであり、スクリーンショットを添付する行為が批評の妥当性を検討するために資するものであり、かつ、元ツイートをそのまま示す目的を超えてX1のプロフィール画像が利用されているものではないことを理由に、批評の目的上正当な範囲内での利用であると判断しています。従って、例えば、批判とは無関係なツイートのスクリーンショットを添付したような場合には、「引用」は否定され、著作権侵害が成立すると考えられます。

(文責:乾 裕介)

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