地名の話①

 友人とよく地名の話をする。それは大抵大きな災害や事故があった時だ。日本という国は災害が多い、一節には世界の災害の2割がこの国で起こっているという。国土の広さだけでいうなら、世界の1%にも満たないこの小さな国で、世界の災害の2割を請け負っているのだから、相当危険な国土と言わざるを得ない。ただ、災害は命や生活を奪う恐ろしい一面と、洪水のように栄養分の多い水を大地に供給し作物を豊かに実らすという嬉しい一面もある。災害があるけど、豊かな土地に住むためにはどうしたら良いのか、その答えが地名にある。危険な地域を避けて生活すればよいのである。最初からわかっていれば、毎年来る台風も最小限のリスクで最大限の利益を獲得できるというわけだ。

 たとえば、津、谷、洞という字がつく場所は水が出そうとか、平や亀とつけば、少し小高い土地なんだななど、漢字からその場所の地形をある程度は読みとることができる。しかし、この漢字が厄介だ。自分の住む街に「蛇」「崩」などが入っていてはどうもイメージが悪い。人口が増え、土地の開発がすすむと従来の地名を変えて、もっと良いイメージの名前をつけるようになる。私の住む街の近くに自由が丘という場所があるが、ここはもともと「衾村(ふすまむら)」といって、谷あいの場所という地名を使っていた。このあたりは、沢という字がつく地名もおおく、自治体のハザードマップで確認すると、浸水する地域が多く見られる。現在はここを流れる呑川も上流は暗渠になっているので、川の存在を知らない住民もいるかも知れない。「〇〇ヶ丘」などの地名は、もともとの地名を変えている可能性があるので、要注意な場所かもしれない。

 地名には、歴史的背景を持つものもある。以前修復した仏像の中から墨書が発見された。そこには、母の菩提を弔うために仏像を造ったとあった。施主は「引越村」にすむ人物。その仏像の造像年代は江戸中期〜後期と考えていた私は、鑑定を誤ったと考え、この「引越村」という地名を調べてみた。引越という言葉は現代の言葉だと思ったからだ。ところが、この引越という地名、全国にいくつかあるらしく、ある村の住民が別の地域に「引っ越してきた」から「引越」という地名をつけたという事がわかった。地域のお坊さんに聞いても、同じようなことを話され、お寺に残る過去帳にも「引越村」という地名が残っているという。そして、その場所はいまも「引越」という地名を使用している。つまり、「引越」という言葉は江戸時代にはすでにあった言葉で、現代の言葉などではなく、この仏像も江戸中期〜後期の造像でよいということになる。

 地名には、地理的背景や歴史的背景、あるいは現代のようによいイメージをもってもらえるように命名される。昔からある地名を変更することは、災害回避や歴史的背景を感じられなくなるので、あまり賛成しないが、地名謎解きがすきなものとしては、結構おもしろいと思っている。そして、地名のことはまだまだ書き足りないので、またいつか第2段をまとめたいと思っている。

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