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【短編小説】僕と人魚姫の夏休み

 この前、初めて日本語で短編小説書いたって話しました?
 あれから調子に乗って、また書いちゃいました。
 今回は、三題噺のお題「魚」「星空」「カギ」を使って。
 これがさ、意外と難しくてさ。
 魚と星空とカギって、どう繋げればいいんだよって、最初は頭抱えちゃっいましたね。
 まぁ、多少生成AIにアイデアを出してもらいましたが(笑)。


1

 夏休みの最終日。潮風が髪をなびかせる。潮の香りが鼻腔をくすぐった。
 いつものように防波堤に腰掛け、遠くを見つめていた。漁師の息子として生まれ育った俺にとって、海は常に身近な存在だったが、同時にこの町に縛り付ける枷のようにも感じていた。
 「いつか、この町を出て、バイクで全国を旅してみせる」
 そう心の中でつぶやきながら、立ち上がろうとした。
 けれど、それは口だけの夢だと、自分でもわかっていた。結局、今年の夏休みも、いつもと変わらぬ日常を、ダラダラと過ごしてしまったのだ。
 このまま、何も変わらない人生を歩むのか。窮屈に感じるこの町で、漁師として一生を終えるのか。そんな閉塞感に苛まれていた、朝七時のことだった。
 目の前の浜辺に、不思議な光景が広がっていた。海から現れた少女が現れた。
 長い黒髪を持ち、白い肌が朝日に照らされて輝いている。潮風に吹かれて、髪がさらさらとなびいていた。海藻や貝殻で作った簡素なものをまとい、スレンダーな体型で、目鼻立ちの整っている。
 息を呑んだ。
 「宇宙人...?」そう思った俺は、恐る恐る少女に近づいた。
 少女は、俺に気づいていないようだった。彼女は無心に星を見上げ続けている。
 そっと距離を取って、少女を観察することにした。
 彼女は、空を見上げている。時折、まるで誰かを待っているかのような仕草を見せる。
 混乱した。少女は一体何者なのか。何か怪しい儀式でも行っているのだろうか。
 少女が、灯台に登ろうとしていた。
 「まさか、町を見張って、何かを企んでいるのか...?」
 そう思った俺は、急いで灯台に向かった。
 少女を見つけた俺は、大声で叫んだ。
 「ここで好き勝手させるわけにはいかない!この地上は俺が守るんだ!」
 灯台の上で大声で叫んだ。目の前の少女は、きっと宇宙人に違いない。海から現れ、怪しげな行動を取る彼女は、地球侵略を企んでいるのだ。
 「わっ!な、何を言っているの?私は宇宙人なんかじゃないわ!」
 少女は慌てて否定した。
 「嘘をつくな!お前の行動は、明らかに地球人のものじゃない!」
 俺は、少女に詰め寄った。
 「だって、私は...私は...」
 少女は言葉に詰まり、必死に言い訳を考えているようだった。
 「怪しいと思ったら、やっぱり怪しいんだ!お前の正体を白状しろ!」
 追及すると、少女は後ずさりし始めた。俺は、さらに詰め寄ろうとしたが、足を踏み外してしまった。
 「うわっ!」
 バランスを崩して海へと落ちていった。
 ザブーン!海に落ちた俺は、必死に水面に浮かこうとするが、うまく泳げない。
 「誰か、助けて...!」
 呼びかけると、少女が俺の元へと泳いできた。
 「大丈夫よ、掴まって!」
 少女は俺の手を掴むと、海岸へと導いてくれた。砂浜に倒れ込むと、少女は隣に座った。
 「ごめんなさい、私のせいで危ない目に遭わせてしまったわ」
 少女が謝罪すると、俺は呆然としながら尋ねた。
 「お前、俺を助けて、どうするつもり...?本当に宇宙人じゃないのか?」
 「違うわ。私は...魚なの」
 少女は、足元の海水に手を伸ばした。すると、一瞬、脚が美しい尾ひれに変わったように見える。
 「そうよ。でも、どうか怖がらないで。私は、あなたを傷つけるつもりはないの。私が人間でいられるのは、一日だけなの」
 少女は優しく微笑んだ。俺は、彼女の瞳に宿る澄んだ輝きを見つめた。
 「お前はなんでここに?魚なのに、陸で何をしているんだ?」
 尋ねると、少女は星空を見上げた。
 「それは、教えない」
 そう言って、少女は海に戻っていった。

2

 「先のが何なんだったの?」と思いながら、俺は図書館に入り、夏休みの宿題を片付けようとする。
 図書館に入ると、いつもと違う雰囲気を感じた。静寂の中に、ページをめくる音が響いている。その音に導かれるように、奥へと進んでいく。
 そこには、例の少女の姿があった。彼女は積み上げられた本の山に囲まれ、一心不乱に読み耽っている。星や宇宙に関する本ばかりだ。
 俺は少し離れたところから、少女の様子を観察することにした。そこには信じられない光景が広がった。
 少女は本を手に取ると、まるで魚が餌を食べるような動作で、本をパクパクと口に運び始めたのだ。周りの人は、彼女が本を食べようとしているのかと思って、ギョッとした表情を浮かべる。
 次の瞬間、少女は床に寝そべって読書を始めた。まるで海底で休憩しているかのように、ぷかぷかと浮かんでいるような姿勢だ。足元を通りかかった人は、彼女に足を取られそうになって、慌てて転びそうになる。
 図書館内は、一時騒然とした。「あの子、何してるの...?」「変な子ね...」囁き声が聞こえてくる。
 このままでは、ルビーが図書館から追い出されてしまう。俺は咄嗟に、彼女の元へと駆け寄った。
 「皆さん、すみません。ちょっと変わった妹なんですよ...」
 周りに頭を下げながら、俺は彼女の手を引いて図書館を後にした。
 人目を避けるようにルビーを連れて、俺の家の隣にある空き倉庫へと向かった。錆び付いた扉を開けると、埃っぽい空気が二人を出迎える。
 「ここなら、しばらく隠れていられるはずだ」
 倉庫の中には、古びた機械や工具が積み上げられている。俺の趣味の空間だ。
 彼女は興味深そうに辺りを見回す中、ふとシートに覆われた物体に目が留まった。
 「これは何?」彼女が近寄って、シートを剥がす。現れたのは、埃を被ったオートバイ。
 「わぁ...!何これ!?」目を丸くして、不思議そうにバイクを眺めている。
 「触ってもいい?」そう言って、そっとバイクのハンドルに手を伸ばした。
 「ああ、それはバイクっていう乗り物なんだ。人間が乗って、遠くまで走るための機械だよ」
 俺は、彼女の反応を見ながら説明する。
 「へぇ...人間て不思議。魚だったら泳げばいいのに、わざわざ機械を作るなんて」感心したように呟くと、バイクの座席に腰掛けてみる。
 「ねえ、これに乗れるの?乗ってみたい!」
 「乗らないよ。もう」俺は寂しそうに微笑んだ。
 「カギは海に捨てた。昔、親友にこのバイクで旅に出ると言ったら、笑われたんだ」
 彼女は、俺の表情を見つめる。相手が魚だからか、なぜか今まで何にも言えなかったことをすんなりと言えた。
 「人間になるの、難しそうね...」とつぶやいて、彼女は胸元から何かを取り出した。
 「ねえ、これ知ってる?海で拾ったの」
 手のひらには、小さな赤い宝石が乗っている。
 「これはルビーだな。宝石の一種だ」
 「ルビー...音、可愛い!じゃあ、私の名前はルビーにするわ。あなたは?」
 「海斗よ」
 嬉しそうに微笑む。
 「一日しかいないだろう?せっかくだから、ゆっくりと過ごさないか」
 「わかった!!」
 これが俺たちの夏休みの最後の一日の始まりである。

3

 ルビーと一緒に商店街を歩いていた時、彼女はキラキラと輝くアクセサリーショップの前で立ち止まった。
 「わぁ...こんなに光り輝く小魚の群れ、初めて見たわ!」
 彼女が宝石を魚に例えるなんて、思わず笑ってしまった。ルビーは宝石を一心不乱に見つめ、何かを口に入れようとしたので、急いで止めた。
 「ダメだよ、ルビー。これはお金を払わないと持って帰れないんだ」
 「お金?食べ物と交換する小魚のこと?」
 彼女の言葉に頭を抱えてしまった。人間社会との距離の大きさを感じて、   呆れを通り越して愛おしさすら覚える。
 その後、散歩しながら公園に着くと、ルビーはすぐにブランコに飛びついた。
 「海斗、これ、浮遊するための道具なの?」
 彼女が座面を前後に揺らしながら無邪気に尋ねた。
 「違うよ。ブランコは遊具だよ。こうやって漕ぐんだよ」
 背中を押しながら、ブランコの乗り方を教えてあげた。
 「キャッ!風を切るみたい!」
 彼女が無心にはしゃぐ姿を見て、思わず微笑んでしまった。次に噴水のところに行くと、ルビーは躊躇なく水の中にダイブした。
 「ルビー!何をやってるんだよ!」
 慌てて彼女を引き上げた。周囲の視線が痛い。
 「だって、あんなにきれいな水が出てるんだもの。泳がないともったいないでしょ?」
 彼女が一方的に濡れた髪を絞りながら微笑んだ。呆れを通り越して、胸が締め付けられる思いを覚えた。この子は一体何なのだろう。そう思いながら、ルビーの手を引いて公園を後にした。
 夜、ルビーを連れて、賑やかな露店が並ぶ川沿いを歩いていた。
 「ねえ海斗、今夜は何の騒ぎなの?」
 ルビーが興味津々に尋ねた。
 「これは灯籠流しっていうんだ。みんな灯籠に願い事を書いて、川に流すんだよ」
 「灯籠に願い事を書くと叶うの?」
 「そうだと言い伝えられているよ。ほら、あそこで灯籠を配っているよ」
 俺は灯籠を受け取って、ルビーに渡した。ルビーは真剣に灯籠に何かを書き始めた。そっと覗き込むと、「星空に触れたい」と書かれていた。変わった言葉だ。
 俺たちは並んで川岸に座り、灯籠に火を灯した。
 「せーの」
 一緒に灯籠を川に流すと、灯籠はゆらゆらと川面を漂い、夜空へと溶けていった。その時、川下で会話が聞こえてきた。
 「ねえ見て、この灯籠。星空に触れたいだって」
 「何よそれ、ありえない願い事ね」
 「そうよね。宇宙飛行士にでもなるつもりなんじゃない?」
 「この町で?」
 「夢見すぎなんだよ。現実を見ろって感じ」
 女の子たちが嘲笑するように話していた。その言葉は、まるで過去の自分に向けられたものだった。ルビーの灯籠が彼女たちの手に渡ってしまった。ルビーの方を見ると、彼女は無言で遠くを見つめていた。冷たい笑い声が夜風に乗ってルビーの元へと運ばれていく。かつて、バイクで全国を旅すると言った自分を笑った奴らの顔が、頭に浮かんだ。夢を笑われた屈辱が、胸の奥から込み上げてきた。

4

 夏祭りの喧騒から離れ、私たちは砂浜に座っていた。私とルビーは、夜空に打ち上げられた花火が美しい色彩を描き出すのを見つめていた。周囲の騒音から遠く離れた私たちの耳には、静かに打ち寄せる波の音だけが聞こえてきた。
 「ねえ海斗、私、海の中から、ずっと星空を見上げていたの」
 と、ルビーがふと口を開いた。
 「海の中から?」その言葉に、私は不思議そうに尋ねてみた。
 「ええ、私、ずっと海の底で暮らしていたから。陸に上がることなんて、 考えたこともなかったんだよ」ルビーは微笑みながら、遠くを見つめて語り始めた。
 「でも、海の底から見上げた時、星空がとても綺麗だったの。まるで、海の中に無数の小さな光が散りばめられているみたいに」
 ルビーの瞳に、星空の輝きが映り込む。
 「だから、いつか私、星空に触れてみたいとずっと夢見てきたんだ。海の中からでは、星はいつも遠くて、一度も触れることができなかったから」
 そう言って、ルビーは悲しげに微笑んだ。
 私は、ルビーの横顔をじっと見つめていた。海の底で、ずっと星空を眺め続けていたルビー。その姿を想像すると、胸が締め付けられる思いがした。
 「あと半日もないでしょう。今から行こう、星空のもとに」私の言葉に、 ルビーは驚いたように目を見開いた。
 「本当に...?」
 「ああ」
 私は力強く頷いた。

5

 ルビーが人間の姿を保つことができるのは、夜明けまでのわずかな時間だけだった。その限られた時間の中で、彼女が目指すのはこの町で最も高い天神山の頂上だった。
 「海斗、これを持っていけばいいの?」
 ルビーが尋ねた。彼女は小さなリュックを背負い、冒険の準備をしていた。リュックの中には、水と食料、そして懐中電灯が詰められていた。ヘッドライトを装着し、地図とコンパスを手に取った。月明かりが山道を微かに照らし出す中で、二人の冒険が始まった。
 カサカサと、足元の枯れ葉が音を立てる。真夏の夜とは思えない冷気が、肌を刺すようだ。「海斗...ちょっと...息が...」突然、ルビーの弱々しい声が聞こえた。「ルビー、どうしたんだ?」振り向くと、ルビーは蹲るようにして座り込んでいた。
 「私、呼吸が苦しい...」ルビーは、息を切らしながら言った。「高いところの空気は薄いから、呼吸が困難になるのか。魚のくせに」俺は彼女の肩を抱き、ゆっくりと立ち上がらせた。「無理するな。ここは俺に任せろ」そう言って、ルビーを背中に乗せた。
 「でも、星空に近づかないと...私の夢が...」「大丈夫だ。俺が必ず、星空の下まで連れて行く。約束する」そう告げて、険しい山道を黙々と進んだ。ルビーの吐息が、首筋に感じられる。彼女を背負いながら歩く足取りは、どこか力強かった。
 夜明け前、ついに二人は山頂に辿り着いた。
 「ルビー、目を開けてみろ。ほら」
 俺の言葉に、ルビーがゆっくりと目を開ける。ルビーの瞳に、天の川が映り込んでいた。満点の星空が、二人を祝福するように輝いている。遥か彼方まで続く星の海。まるで、天空の大地を踏んでいるような錯覚さえ覚える。
静寂の中、聞こえるのは二人の息遣いだけ。俺は、はしゃぐ彼女を見つめて微笑んだ。ルビーの髪が、星明かりに照らされて煌めいている。
 「でも、やっぱり遠いね」ルビーが星空に向けて手を伸ばした。
 その時、東の空が白み始めた。夜明けが近づいているのだ。
 「ルビー、もう時間がない...」
 俺は言葉を詰まらせた。
 ルビーの体が、徐々に透明になっていく。
 「海斗、ありがとう」
 ルビーは微笑んだまま、次第に輪郭がぼやけていく。
 そして、かつての魚の姿に戻っていった。
 俺は、そっと彼女を拾い上げ、リュックから取り出した簡易水槽に移した。
 このときのために、準備しておいたのだ。
 「さあ、帰ろう、ルビー」
 そう呟いて、俺は山を降り始めた。

6

 朝日が昇る浜辺に、俺は立っていた。水槽からルビーを取り出し、そっと海に放す。
 ルビーは、一瞬こちらを振り返り、ピチャリと尾びれを跳ねせた。まるで、「さようなら」と言っているかのように。
 砂浜で、俺はぼんやりと海を眺めていた。
 ふと、目に留まったのは、小さな鍵だった。ルビーがいた場所に落ちている。
 「これは...」
 拾い上げた鍵を、じっと見つめる。
 俺は、まるで導かれるように、倉庫へと向かった。
 ほこりを被ったバイクの前に立つ。
 カギを差し込み、そっとエンジンをかける。
 バイクが、低く唸るような音を立てて動き出した。
 「ルビー...」
 そして俺は、風を切って疾走した。
 夏の思い出を載せて。

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