卒演に向けて日記書く、飽きたらやめる④コンセプト決まって、10月の制作計画

  自分はなんのために作曲をするのかということを考え、「自分が奏者として、自分から発せられる話し言葉的な音楽を楽しむため」ということに辿り着き、さらに使いたい楽器としてシンセサイザーとエレキギターを思いついた。

 どのような形でシンセサイザーとエレキギターを生かそうかを考えた時に、エレキギターは言わずもがな撥弦楽器であるが、それに対してベンディングを用いたシンセサイザーは、音程が安定しない笛のように扱えることに気がついた。

 音程が安定しない笛、撥弦楽器、西洋音楽の文脈ではないもの…。と要素が上がった時点で、参考にすべきコンセプトは決まった。
 ノヴェンバー・ステップスである。

 尺八と琵琶の卓越した奏者による斬り合いに、オーケストラが空間的な広がりを付与しているような楽曲。正直、初めて触れた時には良さがわからなかったが、自分の音楽に対する考えを深めた後で聞いてみると、随所で鳥肌が立つほど美しく感じた。曲を聞くというより、ある種のトリップ体験のようであった。
 西洋音楽に独奏楽器として和楽器をなじませているといった安易なコンセプトではなく、日本的とは何か、西洋的とは何かを高い抽象度で音楽にし、対比的に配置している。
 自分も、西洋の調性音楽が一度嫌いになりつつもその魅力を再度自分で発見したく、かつ自分の好む音楽を日本的な間の緊張感に求め、その二つへの丁寧な解釈、再現に向き合いたいと思ったし、何よりコンセプトが尖っていてカッコいいと思った。
 すぐにこれを手元に携えながら作ってみようという決心ができ、スコアも購入した。

 オーケストラにシンセとギター、だと、それこそエセ・ノヴェンバー・ステップスになってしまうので、オーケストラをピアノに置き換え、ピアノ&シンセ&ギターの三本のみで、よりソリッドな緊張感のある作品を目指そうと考えた。

 さらに、構成に関してもオリジナリティを付与する。
 ノヴェンバー・ステップスという曲名は、初演が11月であったことと、曲の構成が11段であることから名付けられたようである。11段という比較的細かい区切りかたにより、全体としてみた時の緩急自体はそこまで大きくない。
 3人という人数もあり、また自分がまだまだ若造なのもあり、やはり緩急はこれよりは激しいものを作りたい(ただし西洋的にはならないように)と考え、自分の作品には「序破急」の構成を持ち込むことにした。

 作りたいものが急ピッチで決まった上で、これを実行できる制作計画を立て、自分に納期を課して制作を進めて行こうと思う。
 序破急という構成をどのように計画するか。
 モチーフの切り貼りが通用する場面が非常に少ない、話し言葉的な音楽を作るということの難しさを、どのような手順、方法で解決していくか。  

 序破急に関しては、ひとまず、映画脚本などにおいてもスタンダードな形として、1:2:1の時間配分を設定しようと思う。全体を15分として、
序→3:45
破→7:30
急→3:45
と仮に置いて、中身を埋めて行ってみる。
 序破急の構成を取っている音楽を実際に聴いてそれらの中で気に入った時間配分を借りるということも考えたが、序破急と言う物自体、様式というよりも、広く時間芸術に応用可能な心構えのようなものであるため、自分もその程度に扱い、あとは作品との対話で決めて行こうと思う。

 問題はその中身の埋め方である。
 参考とするノヴェンバー・ステップスのように、ピアノによって横の推進力を作り、そこに縦の衝撃としてシンセおよびギターを挟む、といった技法は使いたい。が、性格的に、「序」の部分に向いている技法であり、「破」および「急」に関しては、別の方法論によって動きを作る必要が出てくるだろう。
 それら動きが必要になってくる部分はおそらくノヴェンバー・ステップスに比べアンサンブル的になる。囃子のような、モチーフの構成力というよりも音色の差と登場頻度によって彩りをつくる囃子的なアンサンブルを作り、かつ横の流れと縦の流れの対比は忘れないように作っていく…可能なのだろうか?場合によってはピアノすら打楽器に見立てる必要があるかもしれない。

 ここの考えを詰めるというのが、まず自分がやることになりそうだ。「序」からいかに発展していくか…そしてその発展の仕方がとってつけたようなものにならないようにするにはどうしたら良いか。

 そして、一段階ミクロな視点にも目を向けなければならない。ピアノに関しては、どのような響きを作るか。シンセとギターに関しては、そもそもどんなソロ部分を演奏するか。
 この部分に関しては、ノヴェンバー・ステップスを多いに参考にしようと思う。
 参考にはしつつ、ピアノで表現できる限界はもちろんあり、心地よいボイシングの仕方なども異なってくるため、まずは楽譜と音源に向き合い、書く瞬間においてどのような音響効果を狙ってオーケストラが動かされているかを日本語にして、ではそれをピアノに落とし込むにはどうするか、という発想でピアノ譜を書こうと思う。
 また、武満徹氏が作曲時にドビュッシーの立体的な響きを参考にしたという逸話と、単純に自分がドビュッシーの作り出す瞬間的な響きが好きなこともあり、ドビュッシーの和音をコラージュして素材として確保しようと思う。
 ソロ楽器に関しては、そもそもノヴェンバー・ステップス内での記譜が図形楽譜であり、そのままでは自分の表現したいニュアンスの記譜も再現もできないため、いくつかの演奏を参考にある程度図形と演奏を自分の中で辞書化しておく必要がある。その上でこの曲のシンセとギターに適した記譜法を編み出す必要が出てくるはずだ。
 また、尺八にはできるがシンセにはできないこと、琵琶にはできるがギターにはできないこと、それぞれ逆に対しても分析をし、使える音素材を手元に揃えることが必要になる。

 構成にオリジナリティを持ち込む以上、こちらのミクロ部分の分析、素材集めの方を先にやるべきなのかもしれない。ミクロ部分に何があるかを受けて初めてその後の展開が思いつきそうな予感がする。
 楽しいがなかなか膨大な作業量になりそうだ。

◯オーケストラ&ピアノ→10/8,10/11
◯尺八&シンセ→10/12,10/14
◯琵琶&ギター→10/16,10/18
 それぞれに対して、分析、素材集めの日を設けて、研究結果を記事にするということからはじめようと思う。
 それが出来次第、構成の確定に向けて頭を働かせる。大まかな構成ができたら中身を埋めて、急ピッチで記譜をして、10月中にはなんとか奏者に楽譜をお渡ししたい…

 さらに演奏のディレクションに向けて、日本的な間の緊張感が支配する音楽に対しても、審美眼を養わなければならない。二人三人で演奏される日本音楽の名演を聴き感覚を作って行こうと思う。
 また、武満徹のエッセイ集を祖父母の家から発掘したため、その思想に触れつつ、例えば西洋的なるものと日本的なるものの高度な抽象化など、自らの音楽に対する考え方もノートに言語化する。

 自分の他の予定とも照らし合わせ、わあ大変だ。楽しみつつ頑張って行こう…。 


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