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片ペン読書録 『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』

大木毅 著 『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』 岩波新書1785 2019年

1.読書の意図
 独ソ戦に関する映像を観た後で関心があった、ということも手伝って久々に勢いで買ったものだった。今でも語られる戦争の一つであるので、まずは教養としてその概観を知りたいと思い、着手した。

2.内容
 本書はドイツ、ソ連がそれぞれどのような位置づけにおいてこの戦争を展開したかということに着目して叙述する。ドイツにとっては、人種主義に基づいた戦争であったとともに、物資の不足から収奪を並行しなければならないという事情があった。またソ連にとっては、共産主義、すなわち祖国の防衛という正当化が、ドイツ軍に対する報復としてソ連兵の行動をエスカレートさせるとともに、その後戦況が優勢に転じると勢力拡大への意欲へと指導者の思惑が膨らんでいく。このような国家間の対立に留まらない意味合いが、空前絶後の惨状を招いたのである。

3.批評、感想
 この戦争では、各地で不毛な敵の深追いやしかるべき撤退を認めないなどの非合理的な選択がされている。しかしそれは上記のような、勝利以上に敵の殲滅を目的にしていたことがこれらの行動の背景にある。
無論、これらの行動が非合理的であり、そのために戦争をより苛烈なものにしたことは指摘するべきである。しかし、これを単に非合理であったのだ、で済ませるのは早計であったわけである。軍事的には非合理的に見えても、本書が示すこの戦争の「性格」から考えると、これらの行動にも文脈があることがみえてくる。
とのように、物事を読み解くには、1点だけにとどまらない多角的視点が求められることを示す1冊だったと思う。

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