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とくお組 第26回公演 林檎の軌道(2021年3月10日)

□登場人物

篠崎友……刈谷/二次隊隊長
北川仁……ゼウス/二次隊(AI)
堀田尋史……長田(おさだ)/二次隊
鈴木理学……鶴丸/二次隊
柴田洋佑……エバンス重行(しげゆき)/二次隊
高良真秀……ニイスケ/エレベーターメンテナンス技術者
徳尾浩司……万城(まんじょう)/一次隊
林雄大……姉歯/一次隊
福田賢二……星/パイロット
加藤啓……夢咲(ゆめさき)/一次隊隊長

□開演前

火星の調査基地の搬入口(エレベータのエントランス)が舞台である。下手に窓があり、中央奥にエレベータがある。
他の部屋や外に行くハケ口(上手)がある。宇宙食や缶詰などの食べた跡があり、服なども散らかっている。
未来っぽさと令和っぽさ(現代)が混在している感じで。

○一場

明転。
舞台上には刈谷、ゼウス、長田、鶴丸がおり、エレベータから最後にエバンスが出てくる。
ちょうど調査基地に着いたところである。
それぞれ、外を見たり(刈谷)、部屋の散らかり具合を見たり(長田、鶴丸)、他の部屋の様子を窺ったり(エバンス)。ゼウスはバッテリーが切れかかっていて、『LOW BATTERY』という音声が流れている。
長田「うわ、散らかしまくってんな……一次隊」
鶴丸「うわうわ……大学生の部屋じゃねんだから」
エバンス「あぁぁ……こんなところに補給物資も溜めちゃって」
長田「ここは搬入口ですよ」
鶴丸「奥の部屋まで運ぶのが面倒臭くなっちゃってんだな」
刈谷「なんで植物の実験棚がこんなところに……」
女性の声「LOW BATTERY」
刈谷「エバンス、一次隊の連中が部屋にいないか見てきて」
エバンス「あいよ」
と、エバンスは上手にハケていく。
刈谷は下手の窓の外を見ている。
ゼウスはコンセントを探している。
女性の声「LOW BATTERY」
刈谷「やっぱり地表に降りてみると……そんなに赤くないな」
長田「(外を見て)いや、でもやっぱり火星の土は赤いですよ」
刈谷「……赤いか(と、半分納得する)」
長田「地球の砂はもっと黄色いですから」
刈谷「なるほどね」
女性の声「LOW BATTERY」
長田「うるさいな、ゼウス」
ゼウス「すみません。コンセント……どこでしたっけ」
鶴丸「充電? あるよ」
と、鶴丸はモノをどけるとコンセント(変わった形である)が出てくる。
ゼウス「ありがとうございます」
ゼウスが正座して自らのコードを繋いで充電を始める。
エバンスが上手ハケから戻ってきて、エレベータのドアが閉まらないのを気にして。
エバンス「エレベータのドア、これ、閉まらないよ?」
刈谷「閉まると思うけど」
と、刈谷もエレベータのドアを見にやってきて。
鶴丸「一次隊はいた?」
エバンス「いや、いないね」
刈谷「どれぐらいかかるの? 充電」
ゼウス「9時間ですね」
刈谷「かかるね」
ゼウス「いや、でも仕事があれば途中で切っても、はい」
鶴丸は他の部屋(食料庫)を見に行く。
エバンスはエレベータのボタンを押したりドアを触ってみたりするが動かない。
長田はパラパラと落ちている日記帳を見たり、タブレットの電源を入れてみたり。
刈谷、食べかけの何かを拾って匂いを嗅いで。
刈谷「ここを離れてまだそんなに時間経ってないと思うけどね」
長田「とりあえずJAXAに報告しときます?」
刈谷「そうだね」
長田はジェラルミンケースを開いて旧式の通信機器を取り出し、準備し始める。
鶴丸が上手ハケから戻ってきて。
鶴丸「食糧も別に、減り方は普通だね。いなくなったのはここ数日って感じ」
エバンス「閉まらないよ。どうする、閉まらないのこれ、イライラするな」
刈谷「後で見てみますよ」
エバンス「ゼウス、これ見てよ、電源切れちゃってんのかな?」
ゼウス「あ、はい」
ゼウス、立ちあがるがコードが短いので、エレベータにあまり近づけない。
ゼウス「あーちょっと……」
エバンス「いったん外したらいいじゃんよ!」
鶴丸「あんまり抜いたり差したりしないほうがいいから」
エバンス「だいたいバッテリー短いよね。しかも今どき有線ってさ」
ゼウス「(頭下げながら)一応、無線も対応してるんですが、こっちの方が効率よくて」
刈谷「いいよいいよ、後で」
エバンス「でもさ、早く直してエレベータ上に戻さないと、宇宙飛行士のあの人」
刈谷「星さん」
エバンス「星さんも降りて来られないし。そんなので怒られるのやだよ、俺」
長田は通信を開始して。
以下、返答が来るのには20分ほどかかるという設定で、会話ではなく留守電に残す感じで。
長田「(通信で)第二次調査隊の長田ですけれども、先ほど調査基地『まごころ』に到着しました。第一次隊は、やはり見当たりません」
刈谷「最近まではいた」
長田「(通信で)残されているものを見ると、最近まではいたようです。刈谷隊長に替わります」
通信を替わる刈谷。
エバンスも替わりたそうにしている。
刈谷「(通信で)とりあえず一次隊が戻らないことには、我々もここの解体作業を始められないんですが、どうしましょうか。ご指示をよろしくお願いします」
エバンス「エレベータのドアが壊れちゃってる(と、伝えてほしい)」
長田「一次隊の捜索はしなくていいですよね」
鶴丸「一旦帰っていいですか?」
長田「(つっこんで)早いだろ」
刈谷「(通信で)壊せるところから壊したほうがいいでしょうか。合わせてご指示をお願いします」
と、刈谷が通信を切る。
エバンス、イライラしながらエレベータを見ている。
長田「答えが返ってくるのに20分かかるのが不便ですね……」
刈谷「光の壁があるからな」
しみじみと基地を見ている長田。
長田「せっかく十年単位で使えるような強度で作ったのに……まさかこんな短い時間で撤去することになるとは思いませんでしたよ」
鶴丸「なんか住めそうだけどね。ほんとはここ地球なんじゃないの」
長田「(つっこんで)火星だっつの。いや、ホントにちゃんと調べたのかよって感じですよね」
刈谷「もしかしたら、あらたに水が発見されたとかで、調査してんじゃないか?」
エバンス「生命が見つかったとかな?」
ゼウス「生命ですか……」
刈谷「僕らが、地球外生命体と出会う確率って実際どんなもんなんだろうか?」
ゼウス「ん……宇宙っていうのは広いんで、どこかにいるとは思うんですが、出会う確率になると、限りなくゼロに近いんじゃないかと思いますね」
長田「へえ~」
刈谷「そうなんだ」
ゼウス「我々が生きている時間は宇宙の歴史からすると、すごく短いので……あ、我々とか言ってすみません(苦笑)」
鶴丸「ゼウスの力でさ、今一次隊がどこにいるとか、分かんないの?」
ゼウス「そんな機能はないですね(笑)」
鶴丸「いや俺はあんたの機能なんか全部知らないからさ」
ゼウス「すみません(笑)」
鶴丸「……前から思ってたけど、全然心こもってないよね」
長田「元々ないでしょ、心なんか」
ゼウス「すみません。心がこもっているように見える表現を学習します」
鶴丸「バカにしてんの?」
ゼウス「学習します」
丁寧なお辞儀をするゼウス。
刈谷「とりあえず、一次隊が戻ったらすぐ作業できるように、片付けますか」
うぃー、と、全体が動き出す。
散らかってるものを拾ったり、寄せたり。
ゼウス「いったん(切って)手伝いますね」
と、ゼウスはプラグを抜く。
刈谷は日記のようなものをパラパラとめくり。
刈谷「夢咲隊長の日記……三日前まではあるな」
エバンス「つまりこの三日間で一次隊の身に何かが起こったということだ」
長田「こんな趣味の悪いポスターとか張って……」
と、長田がポスターを剥がすと、円盤(LD)が壁に貼り付けてある。
一同「!?(ん、と見る)」
エバンス「なんだこれ?」
長田「え?」
と、LDを手に取る。
エバンス「それはスーパーディスクじゃないか?」
ゼウス「スーパーディスクですね」
長田「スーパーディスク?」
エバンス「これに立体動画を一万時間録画できるから、調査ロボットに――」
ゼウス「(被せて)――――――一万時間録画できるので、調査ロボットに積んで――」
エバンス「おおおおい、俺がしゃべってんだろ! 俺に説明させろ!」
ゼウス「失礼しました」
エバンス「わざわざ隠されてたってことはさ、これに何か一次隊の重要なメッセージが残されてんじゃないの?」
長田「そうかもしれないですね」
刈谷「でもそれ、再生する機械がないな」
一同「……」
ゼウス「あの……」
一同「(ん、と見る)!?」
ゼウス「一応、スーパーディスクのコーデックが入ってますので、私が再生できますが」
おお、見よう! ということになり。
刈谷「どこに映す? 画面はどうする?」
ゼウス「あ、適当にあのへん(奥を指し示し)に映します」
と、ゼウスは指でディスクをなぞり始める。
刈谷たちはゼウスの周りで座る。
照明変化。
ゼウスの目から光が出ている体で、その先に夢咲、姉歯が(実際に)登場する。
夢咲「MARS移住計画第一次調査隊・隊長の夢咲です」
姉歯「姉歯です」
長田「姉歯?」
姉歯「(文字を書くマイムを添えて)姉歯物件の、姉歯です」
長田「なに、こっち見えてんの?(笑)」
夢咲「このメッセージをご覧になっているのは、おそらく第二次調査隊の皆さんだと思うんですが、我々がいないので、さぞかし驚いたことだろうと思います」
姉歯「でも、心配はご無用です。決して、心配なさらないでください」
エバンス「いやいや」
鶴丸「いやいや」
長田「いやこっちは心配っていうか、あんたらを待ってるんだよ!」
刈谷「早く仕事したいのよ!」
夢咲「ご心配をおかけして、申し訳ありません(笑顔で)」
と、二人でおじぎする夢咲と姉歯。
鶴丸「何か腹立つな……」
夢咲「既にJAXAには報告しておりますので、皆さんもご存知かと思いますが、この火星のテラフォーミング化、つまり地球と同じような環境を作って我々が移り住むことは困難であるという結論を出しております」
姉歯「(困難な顔をして、頷いている)……」
刈谷「姉歯さん、すげえ困難な顔してるな……」
夢咲「我々がそちらに戻るまでもう少しお時間頂きますので、どうぞ先に、このエントランスホール以外の解体作業を進めてください」
姉歯「よろしくお願いします」
照明変化、立体映像が終わる。
刈谷「……」
鶴丸「どうする?」
長田「なんでわざわざ、こんなメッセージ残したんだろうな」
刈谷「っていうか、どこ行ったんだよ」
長田「結局それ、分かんなかったですね」
エバンス「まあ、進めていいって言ってんだから、始めたほうがいいんじゃないか」
鶴丸「解体しますか」
と、立ちあがる鶴丸たち。
その時、プシュー、とエレベータの空気が抜ける音がする。
全員、エレベータのほうに注目し。
エバンス「あ、電源が入った!」
エレベータのドアが閉まると、赤い文字で大きく『HELP』と書かれている。
暗転。

□タイトル映像

30~40秒ほどの映像。文字情報はタイトルのみ。
タイトル『林檎の軌道』

○二場

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