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アラサー限定の街コンに参加した36歳男の悲哀

街コンや婚活のイベントの参加確認事項には必ず参加対象年齢というものがある。明確に「20代限定」とか「〇歳から〇歳まで」と区切っているものもあれば、~歳くらいまでの方と目安的な意味合いであろうものもある。
アラサーといえば一般的な認識として、せいぜい20代後半から30代前半だと思っていたが、あるアラサー限定のイベントに36歳で参加する強者がいた。

36歳はぎりぎりセーフか?

「2~3歳の差だし、大丈夫でしょう」とその男は高を括っていたのかもしれない。確かに婚活での年齢は重要な要素ではあるけれど、最優先事項ではない。しかし、世の中はそう甘くはないみたいだ。「アラサー限定」とあれば皆アラサー世代の異性と会えることを期待して参加しているのだ。そう考えれば参加は控えるというか、少なくともちょっと他の男性より不利なのではないかと想像はつくものだが、それを超える「熱い何か」が男にはあったのだろう。

事前に割り当てられていた席で全体の乾杯の挨拶が終わり、各自ご歓談スタートとなると、男はすぐ場の進行役を買って出た。
「僕、こういうイベント初めてなんですけど、とりあえず、自己紹介しますか。」
そこまではよかった。人生とは実に儚い。

第一印象を決める最初の会話は大事。

街コンではイベントにもよるが各テーブルで男女が2~3人ずつ組になって座り、20~30分ごとにローテーションをしていく。軽い自己紹介が済むと、男は突然自ら燃え盛る火炎に飛び込んだ。

本当にやりかねない感じもするが、もちろん比喩だ。

「みなさん、歳はいくつなんですか?」

唐突な質問に女性陣はきっと全員ドン引いた。男は先手必勝アイスブレイクのつもりだったのだろうが、むしろ好感度をガッツリ削る攻撃呪文(フリーズ効果付与)に違いなかった。とはいえ、失礼だろと怒るほどの年齢ではないので皆普通に答えていくが、やはり年頃の女性にとって初対面の異性に何の脈絡なく年齢を聞かれるのはあまりよい気分ではない。品定め感があからさまに出るからだ。男性でいえば「お仕事は何をされているんですか?」とか聞かれる前にいきなり「皆さん、年収はどのくらいなんですか?」と聞かれる感覚かもしれない。

女性陣がそれぞれ無の感情で答えると、最後の女性が「〇〇さんは?」と36歳男に聞き返した。女性の声のトーンからして、「特に興味はありませんが一応会話のマナーですから」という感じがひしひしと伝わってくる。

「僕ですか?36歳です!」

聞き返された男はなんだか嬉しそうだった。しかし、その回答は確実に「死」に近づいており、自ら墓穴を掘っている。傍で見ているこちらが居たたまれない気持ちになる。

「さんじゅうろくっっ?!!」

それまで無表情だった女性陣が初めて感情を露わにした瞬間だった。小文字の「っ」に得体の知れぬ負の感情がうっすらと感じられる。気のせいだと思いたい。でもわかる。きっと「36歳はアラサーじゃねぇぞ」と抗議とクレームの「っ」だ。

「・・・見えないですね。」

そういった彼女の表情は冷静だった。
好きな男性を目の前にした恋にときめく女性のキラキラした瞳とは真逆の表情といっていい。彼女の発言が表す意として「実年齢より全然若いです!私と同じくらいだと思っちゃいました~!」では決してないということだけはわかった。むしろ「証拠の裏もとれたし今日の仕事は終了」という感覚に近いかもしれない。

「そうですか?よかったー!」

と、男はますます意気揚々だ。言葉通り実年齢より若く見えるという意味で受け取ったのだろう。もう、これはこれでいいんじゃないかと思えてきて、グラスのビールをぐいっと飲む。相変わらず女性陣の表情は固く冷めきっている。少しの沈黙を経てまた36歳男が暴挙にでた。

「そうだ、皆さんLINEとかやってます?連絡先交換しましょう!」

まさかの連絡先交換を男は申し出た。お互い軽い自己紹介と年齢しか話していない。席替えの時間が差し迫っているわけでもない。もっと趣味とかお互いの理解を深めてからというのは凡人の考えだ。恋愛上級者だけが使える最速クロージングを男はやってのけた。


女性陣の回答は・・・

「私、LINEやってません。」

女性陣の一人が、無表情で答えた。申し訳なさそうな感じが微塵も感じられない。もちろん代案もない。

「私もやってないです。」
一人の勇気に賛同するようにもう一人の女性が続いた。

寒すぎてとうとう女性陣が心の窓を完全にクローズしてしまった。これは詰んだ。誰もがそう理解すると思うが、男はあきらめなかった。ガッツに満ち溢れていた。

「ええぇ?!うそぉ!今時?!じゃあメールアドレスは???」

「そもそも今日携帯自体持ってきてないです。」
(この後別な組の男性とは普通にLINE交換する)

「メールはアドレス長いんで、いいです。私も充電切れちゃって」
(この後別な組の男性とは普通にLINE交換する)

「へ、へぇ、そっかぁ・・・・」

男がここにきて初めて狼狽えている。その後は、もう話すことは何もないと言わんばかりに女性陣は女性同士で話をし始める。すっかり蚊帳の外な男はぼそぼそとつぶやく。

「えぇ・・・街コンってこんなんなの・・・?嘘だろ・・・?」

目に見えて相手に見限られる。なんとも受け入れがたいことだ。36歳男の言動がひどいとはいえ、今回の女性の対応は賛否両論あることだろうと思う。人として思いやりがない、その場のマナーとして最低限お互い楽しく過ごせるようにふるまうべきということも理解できる。何が縁に繋がるかわからないし、人との出会いを無下にするのはもったいない。自分もそれが善と思っていた。

婚活してる女性も大変なんだよ

ただ、女性にとって、どうでもいい男の好意を拒否するというのもなかなか骨の折れる作業だ。穏便に断ること。それが簡単に済めばストーカー事件等は起こらない。やんわり断っても気づいてもらえなくて既にストレスなのに意を決してストレートに断れば逆上して暴言をはくやつもいたり、それはもううんざりするものだ。気がない男や物事を都合のいいようにとらえるような男に勘違いをさせる隙を与えない、一切労力を割かないことも、ある意味賢い婚活女子の作法なのかもしれない。

この惨状を前にしても男には絶望してほしくなかった。失敗して学ぶことだってあるし、恋は勘違いしないと始まらない。こういう日もある。すっかり元気をなくしてしまった男に、誰も手を付けていない枝豆の皿を差し出してみた。

「枝豆でもどうぞ。」

逐一自分のどこがだめだったか、どうすればよかったかなんて教えてくれる人は誰もいない。わかるのはいつもごめんなさいの結果だけ。自分で気づいて、正解を増やしていくしかない。考えれば考えるほど男女の打算と駆け引きでできた死体の山でも登っているんじゃないかという気分になる。あながち間違いじゃないんだろう。でもなぜか、その中に紛れ込む美しい何かを信じてずっと探し続けている。あの男も、きっと。

空いた皿に枝豆の殻を重ねながら、なんとなくそんなことを考えていた。


また記事見にきてもらえると嬉しいです!!