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美術館からの提案として(MOTコレクション展)

今回のMOTコレクション展は、「竹林之七妍」「特集展示 野村和弘」「Eye to Eye—見ること」という3つの切り口を設けて現代アートの魅力を発信しています。


展覧会概要

名称:MOTコレクション 
竹林之七妍
特集展示 野村和弘
Eye to Eye—見ること
開催場所:東京都現代美術館(東京・江東区三好)
開催期間:2024/8/3(土) ~ 2024/11/10(日)
展覧会公式サイト:

作品リスト:

感想

竹林之七妍

高木敏子

高木は京都西陣の機屋(はたや)の生まれ。
繊維素材を用いた”ファイバーアート”の先駆的存在。

高木敏子《花》 1981 (左)
高木敏子《形象》 1983 (右・2点組)

織物でできた大きな立体作品が高い天井から吊るされている。
部屋に流れる微かな空調に煽られてゆーっくり回っている。これに作者の意図があるのかは分からないけど、そのずっしりとした存在感に見惚れてしまいます。

福島秀子

円や線、色彩、そして作品の素材「もの」の特性にこだわった作家。

福島秀子《創造の日》 1955
福島秀子《[不詳]》 1960
福島秀子《[不詳]》 1982

油画だったり水彩だったりアクリルだったり墨だったり、紙だったりキャンバスだったり和紙だったり、線や丸で描かれた抽象画が多く並んでいる。
様々な素材の中を模索して一貫したテーマを追いかけている感じがします。

小林ドンゲ

版画家。制作に使用された銅板も展示されており、色がついた作品と違い線のみが刻まれているので、線自体の繊細さを見ることができます。

小林ドンゲ《悪の華》 c.1955
福島秀子《アッシャー家の崩壊:マデ ライン姫[『エドガー・ア ラン・ポーに捧ぐ』より] 》 1972

昭和の少女漫画のような雰囲気がありつつ、不気味なタッチ。
小説や詩などから着想を得た作品。

朝倉摂

舞台作家として有名な人らしいが、もともとは絵画制作をしていたとのこと。自分の目で捉えたことを小さい平面の絵画作品に閉じ込めてしまうことにもごかしさを覚え、舞台美術という三次元の作品を用いて”別の現実”として表現するようになったのだとか。
そんな朝倉の絵画作品やデッサンが並ぶ。

朝倉摂《神話の廃墟(1)》 1964

規律や神々しさを感じた。
タイトルを見てどこか腑に落ちる。

朝倉摂《1963》 1963

何やら機械が描かれており、色使いからも無機質な印象。画面構成による効果なのか平面作品なのに立体感を感じる。
写真ではわからないけど260.5×195の大きな作品。大きな人工物を見ると不安な気持ちになることってありませんか?その感覚があります。

前本 彰子

「私の作品はもともとが『女・子どもの手なぐさみ』から出てきたもの」、作家の紹介文より。

前本彰子《深海のアネモネ(Sea anemone)ーEat Up the Heaven!》 1992

本展覧会のメインビジュアルであるドレスの作品。
ドレスとは本来装飾品であり、本体である人間はいない抜け殻状態。と思いきやこっちが本体なのでは?というくらいの存在感。「そびえ立つ」という表現が似合う。

前本彰子《パンドラの箱の中で》 2002

前本が育児に苦戦する中で制作したもの。
真ん中にいる人物は神様なのか、腹に宿った命なのか、いろんな解釈ができます。

特集展示 野村和弘

野村和弘

絵画制作から始まり、オブジェ、パフォーマンス、映像、執筆など多くの表現を用いて制作をする野村を特集したセクション。

野村和弘《eva×2》2006-2007

リカちゃん人形を使ったレディメイド作品。
体につけられた赤い点がそれぞれ違う箇所につけられていて、それぞれは別のものだとわかる。
これを見て思い出したのが「パッチール」というポケモン。パッチールは、特別強いわけでも無いんですが一つだけ大きな特徴があって、それが「全個体の模様が違う」ということ。つまり何匹捕まえても同じ模様は存在しない。
そしてそいつがいることによって、今まではゲームの世界という特性上問題視されなかった「ポケモンはどの個体も完全に見た目が同じ」という事実が出来上がるという……。
余談でした。

Eye to Eye ̶ 見ること

Eye to Eye:描かれた視線

様々な視線の描かれ方について焦点を当てたセクション。
ウォーホルとかリキテンスタインとかリヒターとか有名アーティストの作品が多くあった。

中園孔二《ポスト人間》2007

暗くて気味の悪い人間たちの絵。タイトルを見て更にゾワッ……。
墨と和紙を用いた作品なのですが、独特の湿度?があります。

奈良美智《Little Riding Red Hood》1997

視線といえば、特徴的な目をした女の子で有名な奈良美智の作品。
個人的に、少し前まで奈良美智の作品は苦手でした(珍しい)。それこそこの独特な目つきがなんとなく受け付けなかったのです。
しかし今では大好きな作家の一人で、時期によって好みが移り変わっていくのも含めてアート鑑賞の面白いところだなぁと思います。

リフレクション:巻き込まれる視線

新たな素材や技術によって、独自の表現を試みた女性彫刻家たちをフィーチャーしたセクション。

多田美波《周波数 37306505》1965

立体的なミラーを覗くと歪んだ光景。6つの球体に写っている自分は、同じ場所に立っているはずなのに向きもサイズも違う姿。また、自分だけではなく部屋全体がそれぞれ違う風景として凝縮されている。

宮脇愛子《作品》1960-61

侘び寂び……。

見えること、見えないこと

見えることを問い、見えないこととの間の往還を促すような作品が並ぶセクション。

ジョルジュ・ルース《メス》1994

これもかなり大きなサイズの作品で、実物を観るとめちゃくちゃデカい穴が本当にそこにあるように見えます。
でも真ん中は青く塗られているし、現実にこんな光景はあり得ない。
そんな空間が目の前に現れました。

絵画は見るもの:特別展示 長谷川繁

鑑賞の邪魔にならないようにあえてタイトルを付けず「無題(Untitled)」としている作品は多くありますが、長谷川はあえてその逆をいきます。
また、。作家の紹介文に「絵は見るものであるから、ただ見ればよい」という長谷川の言葉があり、当たり前のことなのにハッとするスタンスだなぁと。

長谷川繁 《法被威穂猥屠摩訶論ちゃん》1997
長谷川繁 《楽奇異庶虎羅暮無武流麗ちゃん》1998

色使いも筆致の勢いも良い。

まとめ

普段、数ある展覧会から良さげなものを選んで美術館に行きます。
好きな作家、テーマ、流派、色々な要素はありますが、もしかすると自分の好みに偏った内容になっているかも知れません。
常設展やこういったコレクション展では、それらの選択を美術館に任せて作品を見ることが出来ます。こんなのどうでしょうという美術館からの提案。
今回は東京都現代美術館が選んだ3つの切り口から、知らない作家・作品をたくさん知れて、家に帰って別の作品を調べてみたりして、新しい入り口となる良い体験になりました。

鑑賞日:2024/9/22(日)
所要時間:1.5h
個人的評価:★★★☆☆


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