本棚のあるアパートで。

私が初めて一人暮らしをしたのは、専門学校に入学した時だ。

はじめて借りたあの部屋は、なかなか良い部屋だったと思う。

個人の不動産屋さんの物件で、社長のお眼鏡に叶った人のみが紹介される。
私の場合、入学した専門学校が非常に好印象だったので、そこの学生ならと社長自ら大家さんに電話してくれたので借りることができたわけだ。

一階には大家さんが住んでいて、私は2階の角部屋。
1kのユニットバス、居室は約7畳のクッションフロアー。
一人部屋を持てなかった私には十分な広さである。
各階に洗濯機がついていて、屋上に干しても良い。
嫌ならベランダに洗濯機のスペースも一応ある。
掃除機も空いている。
ゴミはアパートの前にごみ捨て場があるから、いつでも出していい。
…すごく便利だったが、今思えば
「部屋を汚すな!」
ということだろうか。当時は気づかなかったが。
そして部屋は汚かったが。

でも一番印象的だったのはそこではない。

あのアパートには本箱があったのだ。

内廊下だったからだろうか、各階になぜか本箱が設置されており、住人は適当にいらない本を置き、気に入った本は手にとって、もっと気に入れば拝借していった。

マンガもあれば純文学もあり、雑誌も辞書も、どこかの教科書すら揃っていたが、

私はそこで出会ってしまった。

ボーイズラブ(BL) というやつに。

おそらくお隣のお姉さんかもしれないし、
もしくは奥のサラリーマンかもしれない、
誰だかわからないが定期的に、ヤツらの雑誌や単行本が、決して少なくない数補充された。

何度か観察していたが、誰が置いたかわからなかった。
誰が置いてくれているのかわかったら、心の中でお礼が言えたのに。

ここで注目したいのはノーマルラブ(NL)は全く在庫がなかった事だ。
やはり、BLはまだ持ち続けるのは微妙な時代だったからだろうか。
思えば腐女子だの貴腐人だのの単語もない時代ではあった。

あそこに本棚があったおかげで、
私は本の世界に没頭し、ホームシックにはならなかった。
貧乏学生だったが本に関しては特に苦労することなく、新しいジャンルを次々と開拓していった。
※ただしBLに限る。

はじめて借りたあの部屋で、わたしは大いに新しいジャンルの読書を謳歌したのである。

あれはとても楽しかったので、内廊下のアパートかマンションには、本棚を置いてくれたら嬉しいなあ、となんとなく思っている。

あそこでしか見たことはないが。

だから、はじめて借りたあの部屋は、
なかなか良い部屋だったのだ。

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