見出し画像

OpenAIの成長をDesign/Marketingの観点で調べてみる

こんにちは!のだかつきです。私は現在、生成AIスタートアップのAlgomaticでCXO(Chief Experience Officer)としてAIサービスのデザインや会社のブランディング等に従事しています。

今日の記事では、非エンジニア目線から見てOpenAIのどこに強さがあるのかを特にデザインやマーケティングを軸足に考察してみようかと思っています。


はじめに:OpenAIは他のAI企業とは何が違うのか

人工知能(AI)は、現代のテクノロジーの最前線であり、その領域での競争は日々激しさを増しています。特に生成AIによる市場の大きな動きは、ちょうど今日から一年前にリリースされた「ChatGPT」から始まりました。似たサービスで言えば、GoogleのBardや他の主要なプレイヤーが市場で存在感を示していますが、特に注目を集めているのがOpenAI(および主にChatGPT)です。では、なぜOpenAIはこれほどまでにバズっている(ソーシャルでの口コミなどのリファラルが圧倒的に他に比べて多い)のでしょうか?

OpenAIが提供するChatGPTやDALL・Eのような製品は、これまで長年蓄積してきた技術的な進歩を超え、ここ1年で市場で圧倒的かつ独自の地位を確立しています。当然「技術」が優位性の大きな部分を占めているとはいえ、OpenAIの製品は、ユーザーに驚きと新しい体験を提供し、それが大きな注目を集める要因ともなっていると考えています。

この記事では、OpenAIがどのようにこれらの製品を市場で際立たせているのかを、あえて「技術」には一切触れずに探ります。ユーザーエクスペリエンスやマーケティング戦略、会社のビジョン(思想)の面での独自性に焦点を当て、その成功の秘訣を調査していきます。(AIのレイヤーでいうとアプリケーションレイヤーかつデザインレイヤー、およびコミュニケーションデザイン等のレイヤーを論じていきます)

この段階での示唆
AIカンパニーとはいえ、顧客体験やマーケティング等の総合格闘技をもってしか世界への大きなインパクトが成し遂げられない。(ビジネスにおける常識だが)

OpenAIのプロダクトデザイン

組織構成:Global Illuminationの買収

まず大きな動きとして、2023年の8月に、OpenAIはスタートアップGlobal Illuminationを買収し、まるっとチームごと自社に統合しました。このチームは、Facebook, Instagram, Google,PIXAR などの大手企業で活躍してきたエンジニアとデザイナーから構成されています。

OpenAIのデザインチームは、プロダクトデザインのみならず、コミュニケーションデザインやコミュニケーションデザインにおけるエンジニアリングの分野もまとめて一つのチームとしている?ように見えます。※read.cv でOpenAIのページを探したところ、これらが「デザインチーム」としてまとめられているように見えます。

そもそもこの買収からOpenAIがデザインに注力していることは明らかですが、中でもToCのサービスに特に強みを持つであろうGlobal Illuminationを買収したことは、OpenAIがAPIビジネスを主としていくのではなくエンドユーザーの顧客体験にも当然こだわっていく姿勢を象徴していますね。

ユーザー体験:「バイラルファースト」とも言えるUX

プロダクトの特徴としては、1年前にリリースしたチャット形式のシンプルなUIによってLLMの価値を一般に広く知り渡らせることから始まり、ChatGPTの音声会話機能におけるUIも、洗練されているだけでなく 「なぜかキャプチャをシェアしたくなる」 美しいインタラクションを提供するなど、明らかに裏に凄腕のデザイナーがいることを予感させるUX提供ばかりです。

(プロダクトデザインをする身としては、例えば音声会話の↓画面では、リアルタイムの字幕を入れたくもなるが、あえて削ったり、かわいい◯のシェイプのマイクロインタラクション等、AIでありながら人間味を感じさせる体験設計が非常に上手いです)

また、先日発表されたGPTsの体験設計も個人的には好きでした。

・画面を大胆に2ペイン構造に分けた点
・GPTをCreateする左のペインで対話形式を採用しハードルを下げている
・右のペインでリアルタイムでCreateしながらGPTが成長していく体験

など、ハードルを下げてAIを一般化しようとしている(試行回数を増やそうとしている)設計が秀逸でした。最近のChatGPTのUIではたまに「こうした方が良いのでは、、、?」というところもあったりするのですが(笑)、リファラル・バイラルを生むUX設計においては非常にセンスの高いプロダクトデザインがなされているように見えます。

試行回数という論点においては、まだまだ黎明期である生成AI領域は「壮大な地球レベルでの検証」と捉えることが出来ると思いますが、OpenAIのアプローチは「バイラル」を生むことでトラクションを最大化し、学習データの蓄積や体験の検証効率を指数関数的速度で高めているんだと、メタ的には捉えることが出来ます。
つまりAIのレイヤーにおける3つ(アプリケーション・特化モデル・ベースモデル)全てにおいてレバレッジかけながら、Microsoftと組むことでクラウド(Azure)へのニーズ増加の利も得つつ、Microsoft顧客のAIに触れる機会の増強のサイクルを回し、結果的にGPTシリーズが成長するという最強のサイクルを回しています。

この段階での示唆
・メタな視点で捉えているOpenAIは試行回数最大化を目指してバイラルやWow体験を重視した体験設計をToCアプリケーションに関しては行っている。
・研究組織的な志向性に加えてサービス会社としてのブランディングやUXへの投資を急増させている。

マーケティング: OpenAIのコミュニケーション戦略

組織構造と役割

求人情報を見る限り、OpenAIのマーケティングは「Communications」部門が担っています。(マーケティング部 があるのではなくCommunicationと総称したチームになっているのが既に興味深いですね)この部門は、PR、メディア関係、従業員とのコミュニケーション、イベント運営など幅広い活動を担当しており、10人以上のチームで構成されています。

VP of CommunicationsのHannah Wongは、元Appleで、Apple Card、iCloud、iPadなどのPRを担当した経験を持っています。実は前VPのSteve DowlingもAppleでの16年の経験を持ち、Sam Altmanに直接報告していました。先日のDevdayのイベントの様子も初期のAppleを想起させるようなイベントになっていたように感じる(バイアスかもしれないですが)のはこれが要因かもしれないですね。

ホームページのデザインとブランディング

最新のOpenAIのホームページは、デザインカンパニーであるArea17( https://area17.com )に全面的に外注され、ブランド定義とウェブサイトへの落とし込みを行っています。このウェブサイトは、非営利団体から商業製品を持つ大衆向けの企業に変貌を遂げる過程で、設計が徐々に変化しているように見えます。

https://web.archive.org でOpenAIの非営利前と後でトップページの差分を調べてみました。

▼営利化前のHP

営利化前のホームページのファーストビュー

▼営利化後のHP

営利化後のホームページのファーストビュー

大本の設計思想として、最新のNewsを全面に出すスタイルに差分はないですが、Blogのセクションが新しくトップに設置されています。それまでのブログの内容は研究内容の発表の場となっており、研究者向けの内容となっていたが、より一般大衆にも理解できる内容に変更しつつあることが伺えますね。(他の情報発信媒体においても同様)

また、YouTubeにおいても、以前は研究の成果や研究発表のプレゼンなどを掲載。営利化以降はサービスの紹介動画(Tiwtterなどにも掲載)やDevDayのプレゼンの動画などを掲載する形でいわゆる一般的な資本主義における「営利サービス会社」としてのマーケティングをしていきています。

※一方、Teslaと似た思想を感じますが、まだ有料広告を出していないように見えるのもリファラルを重視するOpenAIならではなのでは?と感じます。結果的にトラフィックのほぼほぼがダイレクトなのも強いですね。(そりゃ、お気に入り登録しますよね)また、オーガニックも強いことから、王道の戦略でSEOで上位にランクインするために、専門用語等重要なキーワードを満遍なく散りばめているコンテンツ設計がなされていそうです。

https://www.similarweb.com/website/openai.com/#overview

※ちなみに非営利から営利化した背景などはこちらの記事に明るいです

まとめ:OpenAIのアプローチから何を学ぶか

Sam AltmanはY Combinatorの講演の「How to Start a Startup」において、「Ideas, Products, Teams and Execution」が成功への道だと語っていました。

この講演の1年後に設立したのがOpenAIであり、まさにこれらの思想が取り込まれているのがOpenAIの戦略であり思想です。自然言語で書いたものがプログラムになるという超初期のアイデアから始まり、ChatGPTやGPTシリーズをはじめとしたプロダクト群、それを支えるチームと実行力に支えられてここまでのOpenAIの成長が成し遂げられています。

革新的プロダクトは技術とデザインの融合から生まれる

OpenAIのプロダクトデザインは、ここまで述べてきたように技術の優位性とユーザー体験の融合によって特徴づけられます。つい片手落ちになりがちな技術とデザインの境界を無くし、より直感的で魅力的なユーザー体験を創造することが改めて必要だと感じさせる事例でした。(言葉にするとあまりに当たり前ですが)
AI領域はつい機能主導・プロダクトアウト志向になりがちですが、結局は、感情的な共感を呼び起こす製品を作ることが何より重要なんだと思います。

コミュニケーションデザインの重要性

OpenAIは伝統的なマーケティング手法(広告等)に頼らず、コミュニケーションやバイラルを通じて強固なブランドを構築しています。背景にある技術を細かく技術者がコンテンツに専門性高く、かつ頻度高く落とし込み続けることで、そのコンテンツは単なる情報提供以上のものとなり、技術資産だけではない資産を形成します。また、企業からユーザーへの情報提供だけではなく、特定の機能リリースがバイラルを生むことで大量のUGCを発生させることで認知を非連続で拡大させることで優位性が生まれるんだと思います。(ざっくりと言えばPLGの王道を言っていますね)
営業や広告で大量にプロダクトをばらまくことも出来る昨今ですが、長い目で見たら本当の意味で生活にインパクトを与えるのは「強いプロダクト」ですね。

マクロトレンドを作る、乗る

OpenAIの視座はもはや地球レベルでのAI開発や浸透を捉えており、社会として不可逆な成長のド真ん中に位置する存在になっているといっても全く過言ではありません。だからこそ投資が集まり、強い人材が集まります。インターネット革命やスマホシフトなど技術トレンドの変化によって生活が一変するタイミングは何度かあり、その中心プレイヤーの周囲に莫大なマーケットが生まれます。今、ここからAIを周辺に更に大きな市場拡大が待っており、そこにはお金も人も期待も流れ込んで来るはずです。GAFAがこぞって入ってきているようにこの不可逆な技術による生活変容のタイミングだからこそ、伸びる企業が生まれてくるんだと思います。ですので1プレイヤーとしてはそのトレンドの最前線(トレンド自体を作りに行く側)にいることこそが中長期の繁栄を生むんだと思います。

おまけと宣伝

そんなOpenAIですが、先日のSam Altmanの退任騒動があったように経営や組織が大きく傾く瞬間も当然あります。完璧な企業なんて存在しないと良い意味でも安心出来るニュースでした。「非営利企業と営利企業」だったり「歪んだ取締役構造」だったりと亀裂を生むきっかけが少なからずあったんだと思います。

そんな中で、「OpenAI is nothing without its people」という言葉が示したように、経営から執行まで、結局は「チーム」が全ての礎になります。これはほぼほぼどのビジネスでも同じだと思います。そしてそのチームの礎(エッセンス)を作るのは、0→1フェーズです。非営利と営利の意思決定や役員構成等含めて、文化を形作るのは初期フェーズです。

「生成AIド真ん中」で「プロダクト中心に時代を代表する企業になる」ためのエッセンスを作っている企業が私の働くAlgomaticです。是非このビッグウェーブのど真ん中で波に乗りましょう!(最後に盛大なポジショントーク)


よろしければサポートお願いします!集まったお金でいい記事を書くための書籍を買いまくります。