見出し画像

かくまった話

むかーしむかし・・
まだ、わたしが10代の頃のこと・・

その頃の実家はマンション暮らしで
場所は下町
閑静な住宅街とはほど遠い騒がしい場所にあった
マンションはいちおオートロック
でも安全性が高いかと聞かれたら・・
あやしすぎるマンションのつくり。

わたしは6階に住んでいた。
住人はいろいろな人がいたが挨拶程度の人が
ほとんどで挨拶以外で話すといえば
隣の中年ご夫婦くらいだった。

ある日のバイト帰り、
いつものようにマンションエントランスで
オートロックを解除しようと
バッグから鍵を出していると
先にインターホンで訪問先の部屋番号を押している人がいた。
見た目が明らかに怖い男性
髪型は金髪でオールバック
豹柄の服に黒いズボン
ギラギラしたセカンドバッグ
訪問先は 505 の表示
(うわっ‼︎ うちの下じゃん‼︎)

見た目で人を判断してはいけないと
親からよく言われていたが、
その当時うちの階下、505号室から
聞こえてきていた怒鳴り声を思い出すと
訪問主の見た目と訪問先の部屋番号で
何かが繋がったような気がした・・
いや人は見た目だよと
親に話したくて仕方がなくなった。

ピンポーンと呼出ボタンが押された音が聞こえた
すると・・
低い声の男性の声がした
はい
金髪豹柄ギラギラ男は
あっ兄さん、100万持ってきました〜
と言った。
同時にオートロックが解除されたようで
自動ドアが開いてギラギラ男は中に
入って行った。

こっこわい。
なんかこわい。
わたしの危機管理能力センサーが感知した。
体が勝手に動いてオートロックの手前の柱に
いつのまにか隠れていた。
エレベーターは、一機のみなので、
同じエレベーターに乗るのを避けて
少し待ってビクビクしながら自宅に帰った。
この出来事から2週間後・・・事件は起きた。

その日は久々に父が早く帰ってきていて
家族揃って夕飯を食べていた、
すると、どこからともなく男性の怒鳴り声と
女性の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
『また下だよね〜そろそろ警察に通報する??』
と母が言った。
その10秒後くらいに、
ドカドカン!ドン!ガンガン!!と
すごい音が聞こえた。
これはただ事ではないと思ったわたしは・・
玄関に走った。
ドアノブを静かに回して
そーっと開けて下の音をよく聞こうと顔だけ外に出した
その瞬間、我が家から3mくらい離れたところにある
非常階段から女性が必死の形相で
走り上がってくるのが見えた。
非常階段を上りきった所から我が家の玄関は
直線距離に位置していた。
そのせいか・・そのおかげか・・
ドアから顔だけ出しているわたしは、
その女性と完全に目が合った。
目が合ったと思った瞬間・・
女性は我が家に入ってきていた
一瞬の出来事すぎて呆気に取られることさえなかった。
そして、女性は勝手にドアを閉めて鍵をかけた。
家族はいつの間にか玄関に集合した。

女性は泣いていた。
しかもよく見ると裸足・・
裸足でダッシュしてきて
号泣している女性を初めて見た。
ゴメンナサイ』女性は言った
(あれ?日本人じゃないな)
と家族全員がわかった。
とりあえず母が女性の背中をさすり落ちつかせていた。
妹はお茶を出していた。
お茶で落ちつかせようという発想・・
妹のくせにと思う反面、見習いたいとさえ思った。

母が質問した
何があったの?大丈夫?
女性は『ダイジョブ・・チュウゴクキタ、
ニホンゴワカラナイ

と言った。
その後、母は日本語わからないと言った女性の為に
筆談し出した・・
しかも漢字で・・まぁ中国語と言えば漢字のイメージかもしれない
でも本当に通じるのかは定かではない。

筆談の間にわたしは静かになった外の様子を
確認しようと玄関のドアをソッと5cmくらい開けた
すると・・非常階段に向かって歩いて行く
男性の後ろ姿が見えた。
やばい!!と本能的に思って
すぐにドアを閉めた。
(絶対に下の人じゃん。非常階段使う人見たことないもん)
そう思ったわたしは両親に報告しようとリビングに入った。
その時に目に飛び込んできたのは・・
筆談中の母と中国人女性と
その女性の肩に手を回して
大丈夫だよ〜と小さな声で話している父。
(でた〜こういうことを平気でできる男。
そぉわたしの父・・
男女関係なく人が大好きで、
人の世話を焼くのも好き。
そんな人だ。
人が好き・・だからと言って初対面の
しかも怯えている女性の肩をこうも自然に抱けるものかと・・
娘ながらに冷ややかに見た)
そんな父を母はよくわかっている。
父を睨みつける母。
いつもなら、キレにキレまくられているだろうけど
今は筆談中。母も必死だ。

1時間くらいの筆談後・・・
・女性は中国人
・階下の部屋に監禁されそうになっていた
・友達の所へ逃げたい
・友達に電話したら車で迎えに来てもらえる
そんな感じの情報がわかった。
そしてすぐに持っていた携帯電話で友達に
電話をし始めた。
友達はすぐに迎えに来てくれることになった。
20分後、マンションの下に友達が到着したと連絡がきた。


車までは父と母が送りに出ることになった。
玄関まで行くと、
女性が裸足だったことを思い出した、
しょうがないので、女性と体型がほぼ同じに見える
わたしのスニーカーをあげることにした。
体型が似ているからと言って足の大きさが同じかは
わからないけど・・謎の使命感に駆られてしまったようだ。

アディダスのスタンスミス・・
お気に入りだったけど、自分が持っている靴で
人様に履いてもらえそうな靴がそれしかなかった。
女性は何度も『アリガト!ゴメンナサイ!』と
一生懸命に言ってくれた。
玄関を開けて外を警戒しながら、
誰もいないことをよく確認して、
父と母は迎えに来た友達に無事に女性を引き渡すことができた。

この夜の出来事があった後から下の階から
怒声や泣き声や騒がしい物音がすることは
なくなった。
この後、両親が警察に通報したりしたのかはわからない。



そして…あの夜から1週間くらい経った頃
宅配便が届いた。
そんなに大きくないダンボール箱。
宛先は我が家の住所
宛名は我が家の苗字のみ記載されていて
送り主の欄は知らない名前。
母が恐る恐る開けてみると中には・・
見覚えのあるスタンスミスと大量のお菓子が
入っていた。
あの女性からのお礼だった。

こんな体験、普通はしないと思う。
でも、普通しない体験は何度かしたことがある。
わたしの実家はこういう家だ・・
うちの両親は普通しない体験を呼ぶ体質なのか
自らいろんなことに頭を突っ込んでいるのか
あまり考えないようにしよ・・

なんだか不思議な気持ちになった出来事だ。
かくまった話。

おーしまい‼︎








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?