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掌編

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2022年12月の記事一覧

掌編『Killer Cars』

その日、僕ら2人は何となく苛々していた。そしてそのことを、互いに感じ取っていた。
何というわけでもなかった。だから、何も出来なかった。これまでも、どちらかの機嫌が悪いことや、あるいは調子が悪いことはあった。けれど、そんな時は、そうでない方が工夫し、なんとかうまくやり、ほとんど喧嘩もないまま穏やかに過ごしていた。
そんな風にして、僕らは高校2年のころから付き合い始め、10年が経っていた。

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掌編『巨人殺人』

はじまりは、ネコ探しの紙だった。家の近くの貼り紙。綺麗に整えられた毛が、銀白に輝いたネコの名前すら覚えていないが、とにかく、そのネコはアパートの入口で上品に目をつぶっていて、俺が帰ると待っていたかのように立ち上がり、駆け寄り身を預けてきた。

300万円はその場で手渡された。警察が見ていると面倒だからと、そのネコを擬人化したような上品な女は、泣きながら俺に何度も頭を下げ、別に封筒に10万円を入れ

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掌編『左ききの女』

大学生のころ、左ききの女と知り合ったことがある。
女とはマッチングアプリで出会った。アイコンを花にしていたが、見た目なんてどうでもよかった。問題は、女なのか女じゃないのか。それだけだった。
女は女だった。僕は女の最寄り駅で買ったケーキを片手に、オートロックのチャイムを鳴らし、アパートに入れてもらった。平日の昼間、アパートは古すぎず新しくもなく、駅からバスで15分ほど、210円を支払って降りた。

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掌編『祈り』

煙草も酒も忘れてしまった母は、パチンコにはまった。
目を覚ますと公園に行き、水道水を飲む。蛇口に歯をあて、音を立てて飲む。顔も服もびしょ濡れになる。そのまま近くのコンビニへ。何も買わないまま、ぶらついて店を出る。そしてまた同じ公園に行き、水道水を飲み、パチンコに向かう。
パチンコで使うのは3000円。あたりが暗くなり、店が賑わい始めたころに玉はなくなってしまう。
しばらく手もとを見る。厚く硬

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