コミュニティは"人"につくのか、それとも"プラットフォーム"につくのか?
Mixerのサービス終了を受けて、マイクロソフトはMixerのストリーマーをFacebook Gamingに移管する手続きを進めている。Facebook Gamingと契約を結べば今なら2,500ドルの一時金が支払われるのだが、多くのストリーマーはFacebookと契約する気はなさそうだ。
Mixerサービス終了直後に、Twitchは「うちはいつでもやってますよ」という王者ならではの嫌味を言っていた。昨年から自分たちのサービスを使っていたストリーマーを引っこ抜かれて相当お怒りだったことがうかがえる。
Mixerの戦略は最初は誰もがうまくいくと思っていた。動画配信サービスは人が全てだ。ストリーマーがいるところにファンがついていく。UIよりも、機能よりも、人が全て。
ではなかった。
NinjaがMixerに移る直前の5か月間にTwitchで獲得していた視聴者数は平均36,146人、Mixerに移ると12,036人と大幅に下落した。Shroudは85%の視聴者を失った。
"絶対王者であるTwitchから2人のトップストリーマーを移籍させて、プラットフォーム競争で覇権を握ることができるか"という壮大な実験は失敗に終わったのだ。
得られた教訓は、ユーザーは必ずしもストリーマーについているわけではなく、プラットフォームを移動する煩雑さを考えると、他のストリーマーに心変わりすることがある、ということだ。
エンターテイメント業界でビジネスをしている人たちは、その結論を繰り返し見てきたはずだ。しかしそれでも、全ては人という信仰がぬぐい切れない。
かつてVineという短い動画を共有するサービスがあった。2012年に始まったサービスで、いくつものバズ動画がVineから生まれ、そしてVine投稿者の中からセレブが生まれた。
だが、配信プラットフォーム自体の人気が下火になり、そこで活躍していたセレブたちが憂き目にあった。ユーザーはYouTubeやインスタに移動していて、Vineに留まったセレブたちの人気は、船が沈むのと同じ速度で沈んでいった。
インターネットセレブたちの凋落を描いたドキュメンタリー「アメリカン・ミーム」を見れば、セレブ達がもがき苦しみながら、プラットフォームを移民していった様子が良く分かる。
Mixerの失敗で分かったことを整理しよう。
プラットフォームの視点では、人を移管するだけではコミュニティまでは移管できない、ということだ。そしてそれは機能でもUIでも(そして金でも)なく、ブランドという捉えどころのない概念がコミュニティの生態系を支配している。
配信者の視点では、プラットフォームのブランドだけに頼らず、自分のパーソナリティを好きになってくれるファンを獲得しなければ、インターネット世界で安定したキャリアは得られないということだ。
以前、グラビアで活躍している人に話を聞いたことがあるのだが、SNSで水着の写真を投稿するといいね・RTしてもらえるが、自分が考えていることや言いたいことを投稿しても反応がなくて悲しい、ということを言っていた。
本当の自分を見てくれるファンの獲得というのは、ファンビジネスが永遠に抱えるテーマかもしれない。
ビジネスの世界ではみながコミュニティを欲する。コミュニティは自社を愛し、製品やサービスを購入してくれる最もロイヤルな顧客だから。
しかし、コミュニティはとらえどころのないものだ。ゲーム業界を知り尽くしたマイクロソフトがゲーマーの囲い込みに失敗したのである。果たしてコミュニティを自在に創り出す企業やセレブなどはいるのだろうか。
ああ、1つあった。
宗教だな。
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