言えなかった言葉の行方

「この言葉が、あの人に届いて欲しいな」

そんな気持ちで言葉が細々と紡がれる。誰に見せるわけでもなく、ただあの人に届いて欲しい言葉がある。ずっと好きだった人に。

「ほんとはずっと好きでした」

言えなかった言葉は、言えなかったからこそ自分の中に色濃く残ってしまって、なかなか消えてはくれない。言って楽になってしまえばよかったのに。

形を変えた言葉の陰に気持ちを隠す。気付かれないように、でも気づいてくれたら嬉しいな、なんて思いながら。これはあなたに伝えたいんだよって、あなただけが気づいてくれればいいんだよって、願いながら。

少しずつでしか出せない気持ちはいつになったら空っぽになってくれるの。いつになったら言えない言葉はなくなってくれるの。いつになったら、言えなかった言葉を笑い飛ばせるの。

今でもちょっとだけ期待しているんだよ。ちょっとだけ。その笑顔を向けてくれること、その低い声で私の名前を呼んでくれること。

言えなかった言葉は、まだずっと私の中にあるんだよ。


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