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訪問勧誘や電話勧誘のビジネスの契約書を作成するポイント

 訪問販売や電話勧誘販売といったアウトバウンド営業のビジネスを行う場合には、特定商取引法のルールを守らなくてはなりません。
同法ではクーリングオフに応じる義務や取引条件を記載した書面(契約書等)を消費者に交付する義務が定められています。

 そうした義務に違反すると業務停止処分や罰金といった行政罰、契約の撤回や返金といった民事的ペナルティの対象になってしまいます。
持続的なビジネスを続けていくためにはコンプライアンスを徹底する必要があるので、特定商取引法のルールは把握しておく必要があります。

 本記事では、訪問販売と電話勧誘販売の契約書を作成する場合のポイントについて解説します。

※本記事は読み切りであって、ご質問等には応じておりません。

 特定商取引法の交付書面に記載が義務付けられる事項については、訪問販売は第4条と第5条、電話勧誘販売は第18条と第19条に定められています。
どちらとも申込時に交付する申込書面と契約締結時に交付する契約書面の2つの書面の交付が義務化されていますが、申込みと同時に契約を締結する場合には、申込書面を省略して契約書面のみ交付するという運用が許されています。

 その申込書面と契約書面の記載義務事項は以下のとおりです。
なお、訪問販売も電話勧誘販売も交付書面に記載する事項は、ほぼ共通です。

<申込書面の記載事項>
・商品(権利・サービス)の種類
・商品(権利・サービス)の価格
・商品(権利・サービス)の対価の支払い時期   ※1
・商品(権利・サービス)の引渡し(提供を実施する)時期   ※2
・クーリングオフに関する事項
・事業者の名称、住所、電話番号、代表者氏名
・契約担当者の氏名
・契約を締結した日付
・商品の名称、商標、製造者名
・商品の形式があるときは、その型番
・商品の数量
・契約不適合責任の特約があれば、その内容
・契約解除の特約があれば、その内容
・その他に特約があれば、その内容

※1と※2については、申込書面では記載が義務付けられていますが、契約書面では記載義務事項ではありません(省略可)。

<契約書面の記載事項>
・商品(権利・サービス)の種類
・商品(権利・サービス)の価格
・クーリングオフに関する事項
・事業者の名称、住所、電話番号、代表者氏名
・契約担当者の氏名
・契約を締結した日付
・商品の名称、商標、製造者名
・商品の形式があるときは、その型番
・商品の数量
・契約不適合責任の特約があれば、その内容
・契約解除の特約があれば、その内容
・その他に特約があれば、その内容

 これらの記載義務事項の中で問題となることが多い事項について、以下にピックアップします。

・書面の文字サイズ、文字色など
 交付書面には用紙サイズや形状についての指定はなく、様式については自由とされています。
ただし、文字サイズについては日本工業規格Z8305に規定する8ポイント(官報の文字サイズ)以上の大きさの文字と数字を用いることが指定されています。(省令第5条2項・3項)。
 また、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載すること、クーリングオフに関する事項についても赤枠の中に赤字で記載することが指定されています。それ以外の事項については文字色の指定はないので、通常の黒色で構いません。

1)商品(権利・サービス)の種類
2)商品の名称、商標、製造者名
3)商品の形式があるときは、その型番
4)商品の数量

 記載事項の「種類」「名称」「型番」については一般的に普及している名称を書く必要があります。
 例えば、家電製品の場合では型番のみを書くのでは不十分であって、「ノートパソコン 型番:ABC-YYY-ZZZ」のように製品の名称と型番を明示しなくてはなりません。
 また、複数の周辺機器と同時購入の場合には、「ノートパソコン 一式」という表示では不十分とされます。
複数の製品を同時購入の場合には以下のように主要機器と作業内容の明細も記載する必要があります。

<例>
(1)ノートパソコン 型番:ABC-YYY-ZZZ
(2)プリンター 型番:KKK-YYY-ZZZ
(3)ルーター  型番:TTT-YYY-ZZZ
(4)接続ケーブル
(5)搬入設置調整作業

・クーリングオフに関する事項
 クーリングオフについては、単にクーリングオフが可能という記載だけでは足らず、法定条件に沿って以下のような告知文を記載しておく必要があります。(クーリングオフ条項は8ポイント以上の赤文字かつ赤枠囲いで表記することが義務とされています)。

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 契約者は契約書を受け取った日から8日間は、契約解除の意思を甲に対して書面で発送することにより、本契約の解除ができる。契約が解除となった場合は、甲は前払い金返還などの原状回復義務を負う。この場合には、事業者は、契約者が受益した役務対価や解約損料等を請求することができない。原状回復に要する費用は事業者の負担となる。
 また、事業者の責によりクーリングオフ妨害があった場合は、契約者の誤認や困惑が解消するまで、契約解除の期間が延長される。この場合は、特定商取引法の省令で定められた契約が解除できる旨を記載した書面を、事業者が発行して契約者が受領した日から8日間は、契約解除ができる。
クーリングオフによる契約の解除は、契約者が契約を解除する旨を記載した書面を、事業者宛てに発信した時に、その効力が発生するものとする。
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・事業者の名称、住所、電話番号、代表者氏名
 法人については登記簿上の名称、個人事業については戸籍上の氏名または商業登記簿上の商号を記載する必要があります。通称や屋号、ビジネスネームのみを記載するだけでは不備扱いになります。

・契約を締結した日付
 契約締結日を記載しておかないとクーリングオフの起算ができないため、数カ月を経過してもクーリングオフが可能な状態になってしまいます。

 クーリングオフ起算日は「契約書面を消費者へ交付した日」になるため、契約締結日が記載されていても、書面の交付を怠った場合にはクーリングオフ起算がされません。

 電話勧誘販売の場合には、契約書面を郵送することになるため、消費者宅に配達された日がクーリングオフ起算日になります。その日付確定のためには特定記録郵便での配達が望ましくなります。

・契約不適合責任の特約があれば、その内容
 契約不適合とは商品の不良やサービスの不備の状態のことをいいます。そうした不良・不備があった場合には、販売事業者には「補修・代替物との交換・不足品の充足」など消費者からの履行の追完請求に応じる義務があります。

 その追完の方法は事業者が決定できるので、消費者が不良品の交換を希望しても事業者が補修対応を行うことも可能です。

 なお、契約不適合責任に基づく追完請求の権利行使が可能な期間は不適合を知ったときから1年以内になります(民法第637条1項)。

 債権の消滅時効の観点では、注文者が契約不適合を知った時から5年間、目的物の引渡しまたは仕事完成時から10年間行使しないときは、追完請求権は時効によって消滅するとされています(民法第166条1項)。

 この契約不適合責任の期間は、契約書面に特約を設けることで短縮することが可能になります。

 例えば、「本件商品の不良等が発見された場合は、商品受領日より30日間であれば無償での交換もしくは修理対応を行います。それ以降の対応は有償となります。」のような特約を記載すれば、この特約の内容が優先適用されます。

 これらの交付書面の記載義務事項に不備があった場合には、契約書面を交付していたとしても不備扱いとなり、消費者はそれを理由としたクーリングオフが可能とされています。

 そのような事態が起きないよう記載事項には注意しなくてはなりません。

 以上のポイントに注意して契約書の作成を行い、適正なビジネスを遂行しましょう。

※本記事は読み切りであって、ご質問等には応じておりません。

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