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自然発生の摂理について

どうしたことか。
モチベーション水位が、もはや海底すれすれくらいにまで下がり切っている。

この10月で、1年と10ヶ月。

ひょんなところから会って下さったカメラマンTさんに「カメラマンを目指すならまずは撮影スタジオで働いたほうがいい」とアドバイスを受け、都内スタジオにスタジオマンとして勤め始めて2年が経とうとしている。

厳格な上下関係と絶えない緊張がほとばしる現場をはじめて目にした去年の1月とは、まるで別人のような心持ちになってしまった。
撮影業界が変わり始めているのもあるだろうし、勤めている撮影スタジオの営業形態が変わりコマーシャルやPV撮影のほか大規模配信スタジオとしても機能し始めたことも関係するとおもう。どんどん周りが辞めてエスカレーター式に先輩になっていって、立場や責任も大きく変わった。

それと一緒に、スタジオに入ってきた頃の心も変わってしまったんだろうか。

『写真家を目指して入社しました』と言って働き始める人がたいがいの中、それとは直接的に関わりのない案件で働き続けていれば誰だって心に引っ掛かりができモチベーションが下がるに決まってる。

もちろん『仕事なんだから』と頭では分かってもいる。
やりたいことだけやりたいのなら、会社に属さず下積みもお金づくりも、何から何まで自分でやればいい。そうすれば、いつ来るか分からない休みを毎晩待ちながら月間300時間も働くことはないだろう。なんなら、上手くいけば手取り20万ちょっとの暮らしともサヨナラできるかもしれない。
ただ、それは今だけの話だし、それだけではカメラマンになれない。そうなのだから、スタジオで働くことを選んでいる。言葉を選ばずに言えば、進んで奴隷になることを選んでいる

そんな中最近の撮影で出会った女性アシスタントのJさんは、僕にとってある種ブレイクスルーになるかもしれなかった。

Jさんは、とあるスタジオに4年間勤め400万円を貯めたのち韓国に渡りカメラマンに師事した。その日は韓国人カメラマンのアシスタント兼通訳としてスタジオに来ていて、お昼ご飯のタイミングでスタジオマンを呼び集め一緒にご飯を食べながらお話をしてくれた。

昔の撮影スタジオの厳しさ、韓国のカメラマンになるまでの通例、媒体ごとに違う撮影の雰囲気などなど、ご飯の手が止まるような話ばかりだった。
Jさんがスタジオに入社してものの数ヶ月目、缶ビール片手に現場入りした破天荒な韓国人カメラマンに "ビビッと" きて、その瞬間にこの人の弟子になりたいと思ったそう。
ただその中でも、僕の中では『海外に渡ってカメラマンに師事した』というJさんが4年間貫き通した想いに一番惹かれていた。火の絶えないモチベーションで4年間スタジオに居続けられたのも、それが常に心にあったからだという。

僕がスタジオに入社する前、面接で言った志望理由は、『お会いしたとあるカメラマンに「一度スタジオに勤めたほうが良い」と勧められたから』だった。Jさんと決定的に違うのは、ことの運びの出始めが目標のためなのか、単なるキッカケなのかというところにあった。ささいなようで、この出発点の差は天と地ほどにあると思う。端的にいえば、それは他発 / 内発の違いなのだ。

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周りのスタジオマンたちも、次々に目星をつけたカメラマンのもとに駆け寄って行く。どうこか合わないな、とかそういう自分の内発的感覚を大切にして、確実に最後の目標であるカメラマンを目指していく。

僕はというと、よくもわからず『なんかギャラが良いな』っていう単純な理由からムービー撮影の照明部として働いたりもしているし、広告写真でなく写真作家の方面を目指そうとも思いセルフヌードポートレートという主題で自分のヌード写真を撮り続けている。かたやジャーナリズムの方面でも活動したくって、福島県の放射線被害を受けた地域を撮りまくっていたりもする。
幸いどれもが内発的な動機で始めているものだけれど、どれも未だ実を結んだとは言い難い。

しかし、やはりJさんとのお話の中で気づいたように、他発 / 内発 の差はここでも歴然としている。どれも今の今までやり続けて来ているのだ。飽きることなくただ淡々と浮かんでくるアイデアを形にしてきている。

もう少しだけ、あと一年で良い。

そうすると、まる3年そんなことを続けることになるだろう。

最近になってマラソンを始めた。走るのなんて高校生ぶりだったけど、なんとなしに年内にハーフマラソンを完走する目標を立てた。参加できそうなハーフマラソン大会がないからもう年内はムリだけど、とりあえず10Kmの香取小江戸マラソンにはエントリーしたから、気が早いけど3分の2くらいは達成とみて良いんじゃなかろうか。

今僕がやっていることも、そのマラソンと同じような気がしている。今は10kmくらい走るのがやっとだけども、それもたかだが1ヶ月くらいで、最初は3kmくらいがやっとだったのだ。
こんなの何の意味があんだ誰も見てくれないし買ってもくれやしないじゃないか』とか不安もあると思うけど、広告写真家?写真作家?ジャーナリスト? そのどれを選び取るにも相応しい力量と表現力と、それに見合う自分の最高の作品ができているんじゃないだろうか、ふと気がつく頃に。


*カバー写真撮影:志村将(Instagram shimu0319


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