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マラソンにおけるペースメーカー

マラソンにおけるペースメーカー(以下PM)について。
色々な意見が出ていて面白いと思ったので、PMに対する僕の視点を書いておく。

僕は今回ケースにあげるマラソンには出場していないので、あくまで外野からの考察に過ぎないことは留意してほしい。
それでも、PM付きレースを走ったことがあり、(主がトラックであるが)幾つかのレースでPM経験もあるので、多少の実感は伴っていると思う。

PMについて面白いのは、一緒に走った選手と視聴者が下す評価に差が生じる場合があること。
選手からしたら素晴らしいPMでも、視聴者は酷評というパターンがあるということだ。逆もまた然り。

今年で言えば、別大マラソンや東京マラソンが前者に該当した。
この2つのマラソンをケースに見ていきたい。

まず、別大マラソンについて。

5人が先頭集団のPMを担当。
前半約10kmが向かい風のため、集団は設定よりやや遅いペースで推移。
折り返して追い風に入ってから、PM2名は設定通りのペースに戻す。
ここで、PM3人を含む設定よりやや遅いペースで走る集団から完全に分かれてしまった。

設定通り走る前のPM2名に対して「PMとして機能していない」「後ろの集団に戻るべき」という意見が散見された。

あくまで私見だが、PM5人を一つのチームと見た時、このチームの立ち回りは満点に近いほど素晴らしいと思った。

まず、PMの役割は事前に共有されたペースで引っ張ること。
だから前2人のPMはその役割を果たしたに過ぎない。

後ろの3人は、前2人の設定通りのペースに誰もつかないことを察した上で、設定よりもやや遅いペースで引き続けることを選択したと思われる。
この判断ができたのも、前2人が設定通りで走ってくれているから。
5人全員が設定よりやや遅く走ったままだったら、本当は設定通りで行きたい選手が割を食う可能性があり、それはあってはならない(そのような選手がいなかったのは、あくまで結果論)。

また、集団の差ができてもなお、前2人のPMが設定通り引き続ける意義は自分の思いつく範囲でも3点ある。

・後ろに3人PMが残っているので、そもそも戻る必要性が少ない

・後ろのPMや選手にとっても、設定通り走っているPMを見ながら走れるとペースメイクにかかる労力が減る

・どこかのタイミングで前のPMに向かって飛び出し、大集団から抜け出す作戦を持つ選手がいる可能性はある。
そのような設定通りのPMを前提にした作戦を持つ選手が割を食うべきではない(そのような選手がいなかったのも、あくまで結果論)

仮にPMが3名しかいないような状況なら、前の2人も集団に戻る選択をしたと思う。
後ろに戻るのは簡単だが、あえてそれを選択せず全体最適を取りに行ったのが見ていて素晴らしいと思った。

次に東京マラソン。

東京マラソンにはGMOインターネットグループのチームメイト、村山紘太さんがPMとして参加。

事前の設定ペースは1kmあたり2'58で、距離は20〜25kmであった。
前半の下り区間でも、設定ペースを守るよう言われていたようだ。

本番は風が強いコンディションであったが、紘太さんは20kmを59'21(設定からわずか1秒のズレ)で引っ張りきり、自分では完璧なPMをしたと思っていたようだ。
それなのにSNSなどで自分のPMが酷評されており、そのギャップに驚き悲しんだようだ。

この評価のギャップは、視聴者に与えられる情報が限定的かつ誤りを含むものであることに起因する。

今回で言えば以下のようなもの。

・TVの距離表示は必ずしも正しくない(女子とか、1km2'27くらいのラップがあった気がする)

・PMが走るペースや距離について視聴者に共有されていないor誤りがある(TVでは1km2'57と表示されていたが、実際は2'58)。

チームメイトが間近で悲しんでいるのを見て、PMの難しさについて改めて気づかされた。

以上2つのレースは、走っている選手にとってはうまくやっていても、視聴者にとっては下手に映るというパターン。
逆に、視聴者からしたらうまくやっているように見えても、走っている選手からしたら地獄行きのPMのパターンもある。

例えば、5kmあたりの設定が15'00として、設定から少しズレるとしたら14'55と15'05のどちらが良いか?

視聴者からしたら、速いペースで進めば貯金ができるので14'55の方が良く思えるかもしれない。
しかし、マラソンを走る選手からしたら、速いよりはやや遅い方が助かる。

30kmまでの5kmあたり数秒ずつの遅れというのは、レース全体としてはそれほど問題にならない。
それよりも、やや突っ込んだことで30km以降の5kmが分単位で遅れてレースがダメになることの方がザラにある。
日本人選手が出場する5km15'00ペースで進むマラソンに関して言えば、30km以降の落ち幅をどれだけ抑えられるかでレースはほぼ全て決まるのだ。

PMが14'55で引っ張ってきたら、選手はそこにつくしかない。
序盤であれば、それこそ余裕そうに見える。
見た目上は「集団全員が速いペースに乗れていていい感じ」なのだが、走っている選手は地獄行きの船に乗せられている感覚を味わっているかもしれない。

PMについて思いを巡らせながらマラソンを見ると、観戦がより楽しいものになるだろう。

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