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「防衛技術指針2023」から読みとく国防における民間企業の役割


はじめに

昨年6月、防衛省は「防衛技術指針2023」を公表した。これは、2022年12月に策定された国家安全保障戦略等3文書(防衛三文書については過去の記事を参照)の「防衛技術基盤強化の方針を具体化」という戦略的アプローチを踏まえたものであるが、今回の策定の趣旨として「省外に防衛省が重点的に研究開発等を進める技術分野を示すことで、企業等の予見可能性を高めるとともに、省外との共通認識を醸成し、技術的な連携の基盤構築を目指す(強調は筆者)」と記述されている。つまり、「防衛技術方針2023」には、防衛省が大学やスタートアップを含めた民間部門に何を求めているのか、という情報が盛り込まれているということになる。
そこで、今回の記事では、この「防衛技術指針2023」を紐解いた上で、この国の国防当局のニーズを特定する。ひいてはどこにto Gのビジネスチャンスがあるのかということを明らかにしたい。

「防衛技術指針2023」に示された政府の現状・課題認識

同指針は、防衛技術基盤の現状と課題について以下のように述べる。

科学技術の進展は、我が国に経済的・社会的発展をもたらすとともに、安全保障環境にも大きな影響を及ぼし、戦闘様相も変えつつある。この結果、装備体系の能力向上のみを続けるだけでは、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保ち続けることができなくなる可能性がある。切迫した安全保障環境に対応するためには、我が国の科学技術・イノベーション力をスピンオンし、安全保障目的、防衛目的で最大限に活用していくとともに、防衛省の研究開発の成果をスピンオフして社会に還元していくことが必要である。

出典:防衛省「防衛技術指針2023」

ここでのポイントは2点ある。まず1点目は、科学技術の進展と安全保障環境の変化である。先端技術を軍事に応用した「新しい戦い方」という概念が登場していることは過去の記事で解説した通りだが、その結果、今ある防衛品の能力向上を軸とした従来の防衛装備行政では、国の安全を保つことはもはや不可能だと指摘するのである。それを踏まえた2点目のポイントは、官民問わず日本社会全体が持つ科学技術・イノベーション力を安全保障・防衛に応用(スピンオン)していく必要性を説いている点だ。こうすることで、日本の防衛装備の性能の底上げ、変革につなげることができるのだ。
余談にはなるが、同箇所には、防衛省から生まれた研究開発成果を社会生活の向上のために還元(スピンオフ)することの必要性も示されている。例えば、我々が日常的に使用しているインターネットの起源は、米軍が軍事目的で開始したコミュニケーションツール、ARPAnetであることは有名な話だ。近い未来、軍事・防衛用に開発された技術が、我々の生活を一変させるのかもしれない。

目指す将来像とそれに向けたアプローチ・手法

上記の現状・課題認識を踏まえ、「防衛技術指針2023」は目標を「将来にわたり、技術で我が国を守り抜くこと」に設定し、その目標達成のための戦略的アプローチとして短期的(5年以内、遅くとも10年以内)には「第1の柱:我が国を守り抜くために必要な機能・装備の早期創製」と、長期的(10年以上先)には「第2の柱:技術的優越の確保と先進的な能力の実現」を掲げている。

出典:防衛省「防衛技術指針2023の概要」

では、具体的にどのような手法を取るのか。同指針には、防衛省・自衛隊が必要とする機能・装備を「創る」こと、戦略的な視点で技術を「育てる」こと、さまざまな科学技術について「知る」ことの3つが挙げられている。

出典:同上

紙幅の都合上全てに言及することはできないが、民間部門に関係がありそうなのは、「スタートアップ等の参画が拡大するような制度、仕組みを変える」ことや、「民生分野では投資のされにくい分野の技術の育成」、「防衛省・自衛隊のニーズと科学技術・イノベーション分野のシーズの双方向翻訳」といったところだろうか。いずれにせよ、今後のとり国において、官民連携というのは、間違いなくキーワードとなるだろう。

重要な12の技術分野

ここまで、「防衛技術指針2023」に示された、目標、アプローチ、手法を概説的に見てきた。では、防衛省は具体的にどのような分野の技術を求めているのだろうか。同指針の「我が国を守り抜く上で重要な技術分野」と題された別紙には、計12の分野がリストアップされている。

出典:同上

こちらについても、全てに言及することはできないが、例えば、昨今叫ばれる自衛隊の人不足に対応するための無人化・自律化の技術、ますます脅威を増すサイバー空間における攻撃から防御する能力、インテリジェンス戦を制するためのセンシング技術といったものは、防衛省が特に必要とするものとして取り上げられている。

おわりに

今回の記事では、「防衛技術指針2023」を紐解き、技術分野において、政府や防衛当局が何を欲しているのかということについて解説した。日本を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増すこの時代、上記で述べたような技術分野で優位性を持っているスタートアップや研究機関は、ぜひその技術の「安全保障・防衛への応用可能性」を探ってみてほしい。

参考資料

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