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オーストラリアとの技術協力、その役割と展望


はじめに

 皆さんは日本とオーストラリアとの防衛協力が近年急速に進展していることはご存知だろうか。日本の唯一の「同盟国」と言えば米国という認識は広く共有されているが、日豪関係は俗に「準同盟」と呼ばれるのみならず、公式にも「日米防衛協力に次ぐ緊密な協力関係」(国家防衛戦略,p.15)として位置付けられていることはあまり知られていない。日豪はお互いにとって自由民主主義の価値、インド太平洋という地域的環境、台頭する中国と米国との対立という戦略的環境を共有している数少ないパートナー国であることから今後も協力関係の進展は進んでいくだろう。今回は近年重要度が増している日豪協力を、主に技術協力の面にスポットを当てて解説し、今後の防衛産業とオーストラリアとの関わりについて考察する。

日豪防衛技術協力の立ち位置

 では具体的にどのような分野で協力が進んでいるのだろうか。防衛省によると、防衛協力における分野は大きく分けると以下のようになる。

- 自衛隊とオーストラリア軍の運用上の協力
- 地域社会、国際社会での連携した協力
- 防衛技術協力
- 人的交流

防衛省ー日豪防衛協力

一番イメージしやすいのは最初の「運用(作戦)上の協力」だろう。戦闘機の派遣や共同訓練など、軍事組織同士の「準同盟」というとまず浮かぶ絵面がここに該当する。


 しかし今回注目したいのはこの中の「防衛技術協力」である。読んで字のごとく、装備や技術に関する共同研究、共同開発などを行うことを意味する単語である。これまで同種の取り組みは米国との間で主に行われており、その代表的事例はSM-3 Block2A迎撃ミサイルの日米共同開発である。開発されたミサイルは飛来する弾道ミサイルの迎撃に使われるもので、今後の日本の防衛に重要な役割を果たすだろう。

 ではオーストラリアとはどのような技術協力が行われるのだろうか。現在両政府の間で公式に進んでいるのが水中自立行動無人機に関する共同研究である。両国の試験環境を持ち寄ることで研究を加速し、将来的には無人機の相互運用にまで発展することも見据えた意欲的な内容となっている。日豪両国とも国防を担う人手不足に喘ぐ中で無人機、ドローンの積極的な活用は共通の悲願でもある。研究が順調に進展すれば双方にとってメリットは大きく、他分野も含めた日豪防衛協力全体にも良い影響があるだろう。今後も意欲的な開発協力が見込まれる。

 日豪共同無人機開発の射程は日豪のみにとどまらず、更なる横展開も期待されている。オーストラリアが英米と結ぶ先端技術協力協定であるAUKUS Pillar2に日本の参画を期待する議論が近年盛んであり、その際言及される将来的な技術協力プログラムの内の有力なひとつがこの水中無人機開発である。AUKUSの本丸である原子力潜水艦取得に絡むことは難しくとも、技術開発を通じて英米豪の枠組みに参入することが出来れば日本にとってのメリットは大きい。水中無人機開発に限らず、今後も日豪間の防衛技術協力は日豪「準同盟」関係を構成し、進展させる重要なファクターであり続けるだろう。

オーストラリア防衛産業の課題と展望

 これまで紹介したような共同開発は政府内の研究組織同士で主に行われるものだが、技術協力が拡大するにつけ日本の防衛産業が直接オーストラリアと関わる機会も今後増えてくることも予想される。昨年10月には三菱電機がオーストラリア政府とのレーザー関連の先端技術開発契約を締結したことを発表した。同社が付言している通り、この種の外国政府との日本政府を介さない形での直接の技術開発契約は初のものである。これは日豪関係の深化を表す出来事ではあるが、オーストラリア政府が態々日本の防衛産業を必要とした背景にはオーストラリアにおけるSTEM(理系)人材の不足もある。

 オーストラリアは日本の約20倍の国土面積を有するものの人口は約2600万人にすぎないため、その中で技術系の人材が不足している。特に先に紹介したAUKUSの本丸と言えるPilllar 1における原子力潜水艦の取得プロセスに向けての大きな課題となっている。(佐竹、2024) 最終的に原子力潜水艦を自国で生産するためには、オーストラリア国内に豊富なエンジニアの人的資源を確保しておく必要があるのだ。そのためオーストラリアにおいて、STEM人材の確保は国防上の重要課題となっている。

 このような人的資源に関する課題がある一方で、オーストラリアの防衛産業には興味深い取り組みも存在する。南オーストラリア州にある工業都市アデレードには海軍の艦船を建造する造船所が所在しているが、近年ではこれに加えてサイバー防衛や宇宙産業に関する300を超える関連企業や国家政府機関が集積している。南オーストラリア大学等ではサイバー防衛に関連する学位を取得することも可能で、様々な相乗効果を生んでいる。州政府も”The Defence and Space State”と売り出しており、これらスタートアップを含む多様なアクターの技術協力、相互交流を促進する様々な政策を打ち出している。

終わりに

 深刻なSTEM人材不足はオーストラリアの国防における難しい課題であるが、人材の層が比較的厚い日本側と協力して柔軟に人的交流や共同研究などが構築できればその不足をある程度補うことも可能になるだろう。先に紹介した南オーストラリア州の取り組みは日本も学ぶところが多いように感じられる。日本の先端防衛技術開発に関してスタートアップが存在感を増し、日豪間の防衛技術協力が活発になってくれば、日豪関係のダイナミズムにスタートアップが関わりを持ち、新たな役割を果たす展開も十分考えられるだろう。「準同盟」オーストラリアの技術開発動向に今後も注目していきたい。


 その他参考資料

https://www.spf.org/iina/articles/satake_06.html
https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/pacific/pdf/australia_20230116.pdf
https://invest.sa.gov.au/sectors/defence


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