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つかずはなれずの接客

 アウトドア用品の専門店にて。この店は、あるビルのいちフロアにある。店内はかなり広い。スタッフ間の適切な距離によって、スタッフ同士が自立しており、スタッフがそれぞれに専門知識を持っているように客には見える。また、大きな声で、店内全体に注意が行き届いていることを間接的にアピールしている。「間接的」というのは客に直接、「わたしはあなたのことを見ていますよ」と訴えかけているわけではないということだ。客からしたら、「いらっしゃいませ」の声が届くことによって、店員にいつでも「アクセスが可能である」ことを自覚する。また、客に代わって店員がカゴを持つときは、少し高めに保つ。商品の説明を終えたらさりげなくその場を離れる。店員は店内をなんとなく循環しており、必要というときにさりげなく客に近づく。たとえば折り畳みイスに関心を持つ客に対し、客が目に付けた商品以外の選択肢を提示する(「こっちだと足が短いですよ」)。また鞄を選んでる客に対しては、どうすればベルトが伸びるかについて、大きな声で分かりやすく説明する。こうした説明を終えたらさわやかに離れる(このさわやかさで、あとくされなく客から離れるという振舞いを身に付けるためには、映画「幕末太陽伝」や「ニッポン無責任時代」などを参照するとよいかもしれない)。
 客にはついて回らず、あくまで客が自主的に選んでいることを意識させる。そして必要最低限の助言をおこなう。こうした言語的な環境のなかで、客は、その店そのものを擬人化していくことになる。スタッフのあり方が、そのまま店のあり方として現れる。

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