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SWOTを使い尽くそう(第4回)

前回、自社の「強み」・「弱み」を検討する際は、《ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源》を個別に評価するだけでなく、4つが組み合わさったビジネスの仕組み評価する必要があると述べました。今回は、マイケル・ポーターが発案したバリュー・チェーンの図式を一部改変したものを使って、4つの経営資源の組み合わせをみていきます。

前回はこちら⇒

1.バリューチェーン

 バリューチェーンは、消費者(ユーザー)にお金を払っても良いと考える価値(バリュー)を提供するための企業活動の連鎖のことです。
 たとえば、『ファストファッション、二大ブランドを比べてみた』で取り上げた2000年代前半時点のユニクロとZARAのバリューチェーンは、それぞれ次のような形になります。


※ユニクロのバリューチェーン

ユニクロのバリューチェーン

※ZARAのバリューチェーン

ZARAのバリューチェーン

 ユニクロは製造を完全に外注していますが、ZARAは製造を自社工場と自社に近いポルトガルの協力工場で行っています。これは、ユニクロはベーシックなデザインの製品を大量販売するビジネスであり、ZARAはファッション性の高い製品を少量ずつ、頻繁にデザインを変えながら販売するビジネスだからです。
 両社は、それぞれのバリューチェーンに適合するようにヒト・モノ・カネ・情報の4つの資源を配分しています。ユニクロは東レと組んで機能性の高い素材の開発に力を注いでいます。ZARAは創作チームと物流システムに多くのヒト・モノ・カネを投入しています。
 
 バリューチェーンの中で重視される情報が、ユニクロとZARAでは異なります。ユニクロにとって重要なのは高機能で安価な素材を産み出す技術情報です。
 ユニクロにとってもうひとつ重要なのは店頭での売れ行き情報ですが、品目ごとの売上高という量的情報を重視しています。東レと組んで開発した高機能素材は本来は割高なものです。それを用いたアパレルを消費者に安く提供するために、ユニクロは素材を大量に買い取っています
 だから、その素材で製造したアパレルを全て売り切る必要がある。そこで売れ行きの悪い品目は値下げ販売することになり、売れ行きの量的情報が重要になってくるのです。

 ZARAは、流行のファッションを売るビジネスなので、店頭に常に新鮮なアパレルを並べる必要があります。ですから、重要なのは流行の変化に関する情報です。主な店舗が本社に伝える情報は、みずからの店頭での製品ごとの人気・不人気だけでなく、街を行きかう人々のファッション動向にも及びます。これは量的というよりも、質的な情報です。

2.バリューチェーンの「強み」・「弱み」

 バリューチェーンの「強み」・「弱み」をみる基準は、次の図のようになります。

バリューチェーンの「強み」と「弱み 」

 第2回と第3回で《ヒト・モノ・カネ・情報》について個別に検討したのと同じことをバリューチェーンについて検討するわけです。


 それなら、初めからバリューチェーンを対象に考えればよいではないかと言われそうです。確かにユニクロとZARAの場合は、初めからバリューチェーンで見た方が「強み」・「弱み」が際立ちます。しかし、それは、この2社のビジネスの仕組みがシンプルに構造化されているからです。

 一般的には、企業のビジネスの仕組みはこの両ブランドほど分かりやすく構造化されていません。そこで、まず4つの経営資源それぞれについて「強み」・「弱み」を検討したうえで、それらがバリューチェーンとして組み合わさると、さらにどのような「強み」・「弱み」を発揮するかを検討する方が確実な手順となります。

3.成功しているバリューチェーンの罠

 企業が「機会」を活かし「脅威」を緩和していくためにバリューチェーンを組み換えなければならない場合があります。この時、現在のバリューチェーンが可塑性(組み換えやすさ)を備えているかどうかが重要になります。

 実は、現在のバリューチェーンがうまく機能し企業に成功をもたらしていればいるほど、バリューチェーンが可塑性(組み換えの可能性)を失っている可能性があるのです。
 自社に成功をもたらしてきた製品の製造と販売に合わせて一部のスキもなくバリューチェーンが構築されていると、機会を活かす製品や脅威を緩和してくれる製品の製造販売を増やそうとしても、それに合わせてバリューチェーンを組み換えることに莫大な労力と時間がかかり、機会を活かすのに間に合わず、脅威に直撃されてしまうのです。

 『イノベーションのジレンマ』で一躍脚光を浴びた経営学者クレイトン・クリステンセンは、同書の中で大企業がイノベーションに失敗する要因の一つとして、バリューチェーンの硬直性を指摘しています。ただし、クリステンセンはバリューチェーンという言葉は使っていません。

 現代のような環境変化の激しい時代には、バリューチェーンを構築する際、取り扱い製品に対して最適化させるのでなく、ある程度の可塑性を担保しておく方が賢明であるとも考えられます。

 ここまでSWOTを用いて競争戦略を立てる方法を説明してきました。次回は、第1回から第4回を振り返って、重要なポイントを再度整理し、この連載を終了したいと考えます。もう1回だけ、おつきあください。

〈第5回(最終回)につづく〉



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